高校から付き合っていた彼氏と別れた。

理由はかんたんで、遠距離になったから。私は東京の大学に進学し、彼は浪人した。遠距離を始めた四月はお互いに電話なんかして、まあまあうまくいっていたと思う。でも、ゴールデンウィークが明けたくらいから、彼からの連絡が途切れ途切れになった。

きっと勉強が忙しいんだろう。私も私で、東京の新生活が楽しかったし、あんまり気にしないようにした。だけど、気にしないようにするたびに、連絡の一つくらいしてくれてもいいじゃん、って結局は思った。だんだん大きくなるモヤモヤを頭の隅に寄せて、大学の前期の試験を受けた。

私の初めての恋は、私の人差し指によって、呆気なく終わった

夏休み、久しぶりに地元に帰ると、おせっかいな同級生が、彼が予備校で女の子と遊んでいることを教えてくれた。頭の中がかっと熱くなって、ぼーっとした。そんなわけ、と思ったけど、一時間に一本しか電車が来ない街で彼を見つけるのは簡単だった。遠くから見た彼は、髪を茶色に染めて、東京の同級生たちよりも少し垢抜けない服を着て、楽しそうに女の子と歩いていた。それを見た瞬間、気づけば彼に見つからないようにとっさに隠れていた。なんでこの時、何も悪いことしてないのに隠れてしまったのか、今でもよくわからない。でも、この時初めて、「惨め」ってこういうことなのか、と腑に落ちた気がした。

その夜、もう好きじゃないし、あいつ最低だし、と頭の中でたくさん理由を見つけて、一方的にラインもツイッターも全部ブロックした。こうして、私の恋は、私の人差し指によって呆気なく終わった。
こんなの、よくある話だ。よくある話なのに、東京行きの新幹線でちょっと涙が出た。

ずっと恋してた「恋」を失ってしまったことに、傷ついていた自分を見つけた

東京に戻ってすぐ、たまに顔を出すサークルの飲み会があった。普段はなるべく大人しくしているのに、その夜はなんだかむしゃくしゃして、まあまあ騒いでしまった。その勢いで、地元に恋人がいたこと、浮気されていたこと、一方的に別れたこと、なんかを洗いざらいに打ち明けた。サークルの人たちはいつもとは乖離した私の姿にびっくりしながらも、優しく「うんうん」と支離滅裂な話を聞いてくれた。

彼への恨み辛みが口から飛び出すたびに、ああ私は恋をしていたのだなと遠くでぼんやり思った。体育祭で遠くにいた彼とそっと目を合わせたこと、帰り道にコンビニの肉まんを分け合って食べたこと、図書館で一緒に受験勉強をしたこと。そして、遠い将来のことなんて全然分からなかったのに、彼とは一生一緒にいるんだと、根拠なく信じていたこと。そういう時間がもう二度と手に入らないことに気付いて、さらに悲しくなった。その時、私は、彼を失ったことよりも、延長で続けていた高校生活を失ったことに、傷ついていた自分を見つけたのだった。

こうして、私の高校生活はようやく終わった。しばらく落ち込んだ後、上京先の小さなアパートまで持ち込んでいた参考書も、ディズニーランドに行くために残していた制服も、なんとなく未練がましいような気がして捨ててしまった。彼らは、銀杏の葉っぱがぎゅうぎゅうに詰まったゴミ袋と一緒に廃品として回収されていった。

その冬、地元では誰も持っていないような、贅沢なカシミアのマフラーを買った。
こうして私は、東京の女子大生になった。