私には忘れられない恋がある。

それはまだ私が大学生だった頃。相手は同じ飲食店で働く年上のフリーターの男性だった。

こんな素敵な人と自分が釣り合うとはまったく思っていなかったけど

彼は仕事ができ、またユーモアのセンスも非常に高かった。それだけではなく、彼は私のような教室片隅系の人間にも分け隔てなく接してくれた。おまけに顔立ちも外国人のような彫りの深さで、とにかくかっこよかった。間違いなく、老若男女問わず、すべての人から好かれていたはずだ。

もちろんこんな素敵な人と自分が釣り合うなどとはまったく思っていなかった。なので、シフトが被るだけででも十分うれしかったし、何なら陰からひっそりとキャーキャー言っているだけで楽しかった。片隅系の私は今までそうしてきたし、これからもそうするつもりだった。

しかし、事態は予想外の方向へと向かう。なんと、私は彼の直属の後輩として働くことになったのだ。私は舞い上がった。しかも、そうなったきっかけというのが、彼が社員に直訴したからだという。まさか、彼が私のことを認識してくれていたとは。これはもしかすると、もしかするかもしれない。私は少女漫画のような甘い展開を妄想しては、一人グフフと下品な笑みを浮かべていた。

私ははなむけの言葉の代わりに、彼に告白することにした

それからは妄想通りの甘い日々だった。重いものや熱いものを持つときは代わってくれたし、ささいなことでも褒めちぎってくれた。そのたびに私は漫画のように背景にキラキラした星やハートをまき散らし、心の中で「好き!」と叫んだ。初めてのお姫様扱いに、胸キュンが止まらなかった。

しかし、そんな時間も長くは続かなかった。半年ほど経った頃だった。彼は露骨に私に冷たく当たるようになったのだ。話しかけても嫌そうな顔をし、私が退勤する時間になると「帰れ」と言うようになった。それから、やれ机の拭き方が汚いだの、やれ誰々さんを見習えだのと、まるで姑のように小言を言うようになった。
なぜ彼がこうなってしまったのか、心当たりはまったくなかった。彼との物理的な距離は変わらぬままだったが、心の距離は他の誰よりも遠くなってしまったと、電車の中で泣きながら帰る毎日だった。

そんな矢先、突然彼が退職すると言い出した。理由は分からなかった。ただ、もう二度と彼とは会えない気がした。私ははなむけの言葉の代わりに、彼に告白することにした。結果は保留。少々意外だった。理由は、「このままの俺じゃだめだから」ということだった。最後の最後までよく分からなかった。
彼が退職してからは、やはり一度も会うことはなかった。何度か連絡はしたが、返事はなかった。

私も、いつまでも期待するのはもうやめにしよう

その後、私はというと、大学を卒業した後もアルバイトを辞めず、副業として続けていた。ダブルワークが認められていたことや、単に退職手続きが面倒だったということもあるが、一番の理由はやはり彼のことがまだ好きだったからだった。彼が私のことを忘れてしまっても、私が彼のことを忘れてしまわないために、ここにいよう。ここでいつまでも返事を待っていよう。つらいこともあったけれど、同じくらい楽しいこともあったこの場所で。最初の頃はそう思っていた。

しかし、気づけば彼に告白した時から三年の月日が流れていた。当時は学生だった私も、今や二十代の折り返し地点にいる。最近は「結婚」も意識し始めた。正直彼のことは、いまだに諦めきれていない。しかし、「好き」という気持ちは日に日に下降線をたどっていることを私は自覚していた。このまま思い出にしがみついて四年、五年……と待っていても、進展があるとも思えない。

……そろそろ現実を見よう。三年。十分すぎるほど待った。きっと、これが彼の答えなのだろう。ならば私も、いつまでも期待するのはもうやめにしよう。
2020年、私はアルバイトを辞め、同時に彼への恋心もそこへ置いていくことを、ここに宣言したい。