「のぞみちゃんって、まるまる太ってるよね」

友人からのそんな些細なひと言がきっかけだった。
まるまる太ってる?私が?友人の言葉に大きなショックを受けた。

「ええ、そうかなあ」

その場では笑ってごまかしたけれど、心の中では太っていないか誰かに聞いて回りたい気持ちでいっぱいだった。

「うん、正直かなりデブだと思うよ。痩せたほうが良いんじゃない?」

その時の私の身長は155センチ、体重は60キロ。
平均体重より8キロも重く、健康診断ではいつも「肥満」と記載されていた。
だが、自分では普通だと思っていた。まるまる太っている、痩せた方が良い。
他人から言われて初めて、自分が太っていることに気付いた。

「ダイエットしなきゃ。でも、好きな食べ物を我慢するのは辛いな・・・」

たった3日間、何も食べないだけでこんなに痩せるなんて

その晩、私は39度の高熱を出した。
友人から言われたのがストレスだったのか、季節性のものなのか理由はよく分からない。3日もの間、熱が下がらず、食事も喉を通らず、水だけ飲んで過ごした。ようやく熱が下がって食事が摂れるようになった時、あることに気付いた。身体が軽い。両足が、以前よりも細くなっている。

「55キロ!?」

体重計に乗り、表示された数字を見て驚いた。なんと、以前より5キロも痩せていた。たった3日間、何も食べないだけでこんなに痩せるなんて。
このまま何も食べなかったら、もっと痩せるんじゃないか。
そんな危険なことを考えた。

私は自分が痩せているとは思えなかった

「のぞみちゃん、痩せたね~。スカートのサイズ、もっと小さくても良いんじゃない?」

久しぶりに会った友人はそう言って、以前着ていたスカートより二つも下のサイズのスカートを薦めてきた。

「そんな小さいサイズ、着れるかなあ?」

ドキドキしながら履いてみると、するっと簡単に履くことができた。
まさか履けるなんて。驚きの目で私は鏡に映っている自分の姿を見つめた。

「本当に痩せたんだね、のぞみちゃん。すごいすごい」

パチパチと手を叩いて友達は喜んだ。だが、私は自分が痩せているとは思えなかった。どうしてこんな小さいサイズのスカートが履けるのか分からない。
自分は太っているのだから、いつもと同じ大きなサイズのスカートを着なくては。そんなことばかりを思っていた。

嬉しいことでいっぱいのはずなのに、今の私は空っぽ

「このコロッケ、衣がサクサクしてて美味しい!」

以前のわたしは、テーブルについて食事をすることを、心の底から楽しんでいた。
時には、自分で台所に立って料理をすることも。
醤油はこれくらいで良いかな、塩コショウをふったほうが良いかな?そんなことを考えながら料理をするのは、幸せでいっぱいだった。

「肥満ですね」

と医者から言われても、あまり気にしなかった。同世代の女性より、少しぽっちゃりしているだけ。太っているほうが、愛嬌があって可愛らしくて良い。肯定的にその言葉を受け止めていた。

だが、今の私は、他人が言うことばかりを気にして「自分がどう思っているか」を相手に伝えられないでいる。ワクワクドキドキ胸を躍らせながら食事をしていたわたしは、どこにもいない。痩せて本当に良かったのだろうか?体重が落ちたと同時に、自分の意見を持つこと、食事を楽しむことの素晴らしさを落としてしまったのではないだろうか?

「せっかく痩せたのに、もったいないけど・・・
もう少しだけ、太ろうと思う」

太りすぎてもいけないし、痩せすぎてもいけない。
そう気付き、平均体重を目標に生活を送るようになった。
空っぽだった私が、満たされてゆく。
周りの目が気になったり、痩せたいと思うことはあるけれども、
その気持ちが強すぎると「自分という一人の人間」を失ってしまうことを
今回の出来事を通して痛感した。