あたしとまやは同じ顔を持つ双子だ。一応まやの方が姉であたしの方が妹になっているけれど。「同じ日に同じ道を通って出てきたのに産まれた順番によって姉・妹とに振り分けられるなんておかしいわ」まやは幼い頃からそればっかりいう。
お姉ちゃんでしょ?お姉ちゃんなんだから。母親はあたし達がくだらない喧嘩をしていると真っ先にまやにそういった。
「ねぇ、まい」ある日まやが気まぐれにあたしに提案してきたことがあった。
「なに?まや」「うん。あのね。超真面目な話なんだけれどさ」と前置きをし、真剣な面持ちで話し始めた。
えーっ?まやの話を聞いてからははと笑って、そんなこと無理だよ、と伝えた。
お母さんにはバレるよ。と付け足す。けれどまやははぁ? あの人はあたしたちのこといまだにまちがえるじゃない。と鼻で笑いさらに真剣なまなざしで「お願い。1日だけだからさ」まやは両手を顔の前で合わせてあたしの前で拝んだ。「いやいやそんなに拝まれても」といいつつ、まやちゃんとまやのつやつやの頬を撫でた。
そっくりな顔。綺麗な頬。まん丸な目。グロスを塗っていなくても塗っているような唇。うん。わかった。1日だけだよ。まやは、本当に!と顔前面で嬉しさをアピールしてわーいと両手を上げた。
あたし達はだから1日だけ入れ替わることにしたのだ。
まやはあたしの身体を乗っ取ったのだ
高校2年の時だった。あたしはまやに、まやはあたしになって学校に行った。けれど誰も気が付かなかったし、あたしの彼も気が付かなくて、もちろんお母さんだって気が付かなかった。
まやになってからわかったことがあった。まやはクラスではぼっちだったのだ。あたし達は顔だけが似ていて性格は全く違うことに気がついた。まやは孤独だったのだ。あたしになったまやはきっと、みなやなつきちゃんと一緒にお弁当を食べているだろう。あたしのふりをして。
はっ、といやな予感が脳裏をかすめて身震いが止まらなくなる。まさか。学校が終わり急いでスマホを取り出しなおきにLineをする。会いたいの。と。けれど待てど暮らせど既読にはならず諦めてうちに帰った。まやになったことで1日が憂鬱でたまらなくて死にそうだった。
ただいま。玄関を開けるとあははとリビングから笑い声が飛び交っていてなんだろうと思いリビングに向かう。
「おかえり。まやちゃん」
なおきが椅子に座っていてその横であたしになったまやがニコニコと笑いながらお母さんも交えて喋っていた。
「まやおかえり」
言葉が出なかった。まやはあたしの身体を乗っ取ったのだ。あたしの全てを。いつもあたしのことを妹のあたしを疎ましく思っていたのだ。
「違うの!あたしが本物のまいなの!そこにいるのはまやなの。ねぇ、なおきなんでわからないの?」といえたらどれだけ楽になるだろう。けれど今日1日の約束だからまだ数時間はまやでいなくてはならない。あたしになったまやは今までにないほどの微笑みでなおきを見ている。ああ、まやはなおきのことが好きだったんだな、と今気づいた。
まやは外に出たらあたしとはまるで違う人生を背負っていた
ご飯は?の母親の言葉を無視をして階段を上がる。食欲などなかった。まやはうちでは元気でも、外に出たらあたしとはまるで違う人生を背負っていた。その現実を目の当たりにして憤怒より悲しみの方が勝った。
まやちゃん。まやと話がしたいと思ったし抱きしめてあげたいと思った。まやはあたしを憎んでいる。けれどあたし達は何をしても切れることのない糸のように一生2人で1人なのだ。誰よりもなおきよりも大事な姉。愛しているまや。優しいお姉ちゃん。
窓の外に目を向ける。月がまあるくおぼんみたいだった。乱視なので二重に見える大きなまあるい月はまるであたしとまやのように見えた。