10歳の頃から、ニキビがコンプレックスだった。
もうぼんやりとしか思い出せない、ある朝のこと。アイツは突然、私の肌に現れた。まだ小学生だったから、すぐに学校で「ぶつぶつ」というあだ名がついて、自分のいないところで話の種になった。次第に「お前に触れるとぶつぶつが感染る」と根も葉もないことを言われるようになり、隣り合った机を少し離されることが増えた。少し窮屈なランドセルを背負って歩く帰り道、どんな名前をつけたらいいか分からないくらい、たくさんの気持ちが折り重なって心がいっぱいになり、涙が溢れる日がたくさんあった。
心の中で黒い気持ちがむくむくと大きくなった苦節の10年
それから、苦節、10年とちょっと。
ニキビと熾烈な争いを繰り広げた。食生活、入浴、基礎化粧品、睡眠時間。良いと聞いたものは手を替え品を替えで一通り試した。しかし、ニキビの野郎は減るどころか、むしろ勢いを増して増殖した。それは、時におでこだったり、ほっぺだったり、鼻周りだったり。つやつやした肌を輝かせてチョコレートを頬張る同級生の姿を見るたびに、夏の入道雲みたいに心の中で黒い気持ちがむくむくと大きくなった。
--なんで、わたしだけ。
なるべく考えないようにした。でも、つぶれたニキビから膿が出てくるみたいに、どうしても我慢できないときだってあった。ニキビのせいで、顔も心もどんどん汚くなっていく。醜い自分に嫌気が差して、道端に転がっている小石でも「えいやっ」と蹴りたくなる気分だった。
こんなふうにニキビのことを考えて独り相撲をしていたら、10歳からの10年間はあっという間に過ぎていった。その間、少女マンガみたいな展開は人生で一度もなかったし、なんなら、友達だってうまく作れなかった気がする。私の青春、ほんと、なんだったんだろう。ね。
ニキビのせいにして、自分のことを好きになれていなかった
そんな私の肌に、最近変化が起きた。年齢のせいなのか、ようやくニキビが少しずつ落ち着きだしたのだ。相変わらずニキビ跡はひどくてコンシーラーは手放せないけど、「ぶつぶつ」が「ぷつぷつ」くらいには変化した。ずっと、この瞬間を待っていた。ニキビさえなくなれば、私の人生は順風満帆になるはずだった。
でも、全然、ならなかった。
そして、初めて気づいたのだ。私って全部ニキビのせいにしてただけなんじゃないかと。
よくよく考えれてみれば、小学生のときだって負けん気が強かったし「うるさい」って言い返すことだって出来たと思う。食いしん坊なんだし、中学生の時のあの休み時間だって、気にせずにチョコレートを思いっきり食べれちゃえばよかったと思う。ついでに、いつも遠くから見つめているだけだった先輩にだって、アドレス聞けばよかった。
でも、あの頃は全然勇気が出なかった。私には「自分にはニキビがあるから」って心をがんじがらめにして、全部できなかった。だけど、その本当の理由はニキビなんかじゃない。「自分のことを素直に愛せなかった自分が悪いのに、『ニキビのせいだ』と責任を違うところに擦りつけていた」からだと、少しずつ治り始めた今だからこそ思うのだ。
今年で24歳になる。同級生の中には結婚をしてる子もいるというのに、未だに私の頬にはニキビがぷつぷつとできたままだ。でも、それでいいと思う。まずは私が、私のあばたを、好きになってみようと思う。