ゆるふわな女の子になりたかった。君にかわいく甘えられる女の子に。もっとわかりやすく好きと伝えられていたら、君は今私の隣にいたのかな。すぐに外にはねてしまう私の癖毛は櫛を通しても真っ直ぐになってくれなくて、私は鏡の中でため息をついた。

失恋したからといって髪の毛をばっさり切れるほど、私は分かりやすくも素直にもなれない。そんなの、恋に恋しているみたいで恥ずかしい。君に他に大切な人がいるからって、私はそんなに傷ついてないし何も変わらないよっていうただの強がりでしかないけれど。それに髪の毛を切ったくらいで自分の気持ちにけじめがつけられるなら、とっくにそうしている。私の片思いは少女漫画のように綺麗でもないし、物語は全然前に進んでくれない。

ぼさぼさの髪の毛さえ愛しくて。チャンスはないわけではなかった

明日もまた君に会ってしまうだろう。会うたびにまだ好きだと実感してしまう君に。その度に叶わないことを思い知っては、えぐられるくらい胸が痛くなる君に。だめだと分かっているのに、君に会えそうな場所をわざわざ遠回りして通ったり、君のくたびれたシャツの後ろ姿を探したりした。君に似た人を見かけたら胸が高鳴って、違ったらがっかりして。見た目なんて気にしない君のぼさぼさの髪の毛の、アホ毛さえ愛しいと思った。

チャンスがないわけではなかった。君が私に好意を抱いていてくれていたのは何となく気づいていた。だけどそれを知ってしまった途端、私は君と距離を取った。さりげなく素っ気ない態度を取っていることに君は気づいていただろう。怖かった。関係に恋愛が絡むと、二人の時間に終わりが見えてしまう気がした。大好きだから、ずっと一緒に居たかったから、生ぬるい友達のままでいたかったのだと思う。

あぐらをかき、うぬぼれて、手遅れに。不器用で臆病で、忘れられない

そして、たとえ今の幸せが壊れてもいいから君が欲しいとまで思いが高ぶったときには、既に手遅れだった。君の隣で君の大切な人が笑っていた。君が彼女を見る目は見たことないくらい優しかった。
要するに私はあぐらをかいていたのだ。君にとって一番近い存在の女の子は自分だとうぬぼれていた。

「あきらめる」って どうやればいいんだろう。「あきらめる」って決めて その通りに行動するコトだろうか そのアトの選択を全て「だってあきらめたんだから」で 自分の本当の心から 逆へ逆へと行けばいいんだろうか

出典:ハチミツとクローバー 2

大好きな漫画「ハチミツとクローバー」の、あゆちゃんの言葉を思い出す。君がもう私のことなんて見てくれないのは痛いくらい分かっている。早くけじめをつけなくてはいけない。だけど「もう好きじゃない」なんて、こんなふうに自分の心に嘘を吐き続けるのは、なんて悲しいのだろう。だって私にとって君への想いは、宝物のように大切なものだったから。

私は好きな人に甘えることも、「恋のタイミング」とやらを掴むことも、そして失恋した相手をうまく忘れることもできない。恋愛をするにはあまりにも不器用で、臆病で、可愛げがない。
失恋の痛みは時間と出会いが解決してくれるという話はよく聞く。でも、あとどれくらい待てばいいのだろうか。あれから多くの月日が流れたけれど、私は相変わらず苦しいままだ。
それに新しい出会いがあったとしても、誰かをまたとことん好きになって恋をしてしまうのが私はたまらなくこわい。失恋とは、一番認めてもらいたかった相手に受け入れてもらえなかったということだ。「恋は盲目」とはよく言ったもので、その間は相手が世界の全てだと思い込んでいるから、まるで自分の全てを否定されたかのように自信を失くしてしまう。また気持ちを受け止めてもらえなかったら?今度こそもう立ち直れないだろう。あんな痛みをもう一度味わうくらいなら、一番好きな人には恋なんてしない方がいい。

疲れた。早くここから抜け出したいのに、卒業まで時間がかかるのかも

失恋なんてありふれた話で、世の中には何百倍も辛い別れが存在する。他人からしたら私はただの弱っちいメンヘラでしかないのだろう。
そんなことは頭ではよくわかっている。だけど心が前に進んでくれないのだ。それに私が相手をそんなに引きずってしまうほど好きだったという事実を、「メンヘラ」なんて一言で片づけたくはない。
だけど私だっていい加減疲れている。早く、早くここから抜け出したい。君を思い出して泣いてしまうから夜になるのが怖かったことも、眠れない夜はお酒の力を借りるしかなかったことも、夜中3時にジェノベーゼソースを作ったりして気を紛らわせたことも。そういうのがぜんぶぜんぶ、笑い話になる日が早く来るといい。

そんな祈りを毛先に巻き込むように、ヘアアイロンをくるくる回す。私は手先も不器用で、「ゆるふわ」はまだ上手に作れない。君への長い片思いから卒業するには、もう少しだけ時間がかかるのかもしれない。