史上最年少女性市長・内藤佐和子さん「“女”を使えって言われた、もちろん拒否!」
5日投開票の徳島市長選挙で、史上最年少女性市長に当選した内藤佐和子さん(36)。実は、編集長の伊藤(33)は徳島勤務の記者時代、佐和子さんに取材して何度か記事を書いています。2013年に選挙権が18歳に下げられた際、若者に投票を呼びかける活動をしていた佐和子さんに話をうかがったのがきっかけで、友人としてのお付き合いが続いています。「若い」「女性」という、候補者としてはマイノリティーの戦いのなかで、苦労したこと、今後の政治で変えたいことなどを、友人として選挙戦をウォッチしていた伊藤が聞きました!
――まず、なぜ立候補されたのでしょう?
このままでは、私の大好きな徳島がめちゃくちゃになるかもしれないと思ったからです。いま徳島市の財政はとても厳しく、このままだといずれ市は財政破綻するかもしれないと感じました。それから、県の人口が70万人くらいしかいないのに、その県と県庁所在地の徳島市が対立状況になっているのもおかしいなぁ、と。このままだと何にも前に進まないじゃんと思いました。そのツケがまわってくるのは結局、私たちの世代なんですね。どうせその責任を負うなら、それを食い止めたいなと。
「選挙まで3カ月……でも、やるしかない」
1月7日に親の説得を始めて、9日に表明、15日に会見。4月の選挙まで3カ月ないじゃんって焦ったけど、やるしかないなって思ってました。
――親はなんと?
「は?」って。いや、でも、このままじゃだめでしょ、って説得しました。言っても聞かない性格であること、12年間のまちづくりへの想いもよく知ってくれていたし、難病のせいでたくさんのやりたいことを我慢してきたことも間近で見てきたので「これでやっとやりたいことがやれるのかもしれないね」と最終的には背中を押してくれました。
――選挙戦ってどうなんですか?大変そうですけど、楽しいんですか…?
全体的に楽しかったですよ。大変なこともありましたけど、「ワクワクできる徳島を作りたい」って言ってるのに、その私が楽しめなかったらだめじゃんって。まあ、演説する時の顔は厳しかったかもしれないけどね(笑)。楽しんで取り組めたと思います。
――大変なことって具体的にどんなことがありましたか?
若い人たちにも選挙や政治を身近にしたくてSNSの発信をマメにしてたんですけど、それをよく思わない人がいたり、楽しそうにしていると真剣度合いが足りないと言われたり……とかですかね。
一番つらかったのは、根も葉もない誹謗中傷ですね。「あの人とデキてる、愛人だ」とか、「背後に利権がどうの」とか。反論すると「選挙に出るんだから我慢しろ」と言われる。で、我慢してると、ウソの噂を地元で流される。もう勝っても負けても、住みにくくなりますよね。こんなのを見てたら、若い人が立候補したくなくなっちゃうよなあと悲しくなりました。
「変な噂がたたないように女性ドライバーにした」
――「あの人とデキてる」ってひどいですね。政策関係ないじゃん……。
否定しても信じる人はいる。だから、こちらもなるべくそういう噂を立てられないように気をつけるようにしました。そのひとつが送迎の運転手を女性にすること。政策とはまったく関係のないところで変な噂が立って、大事な争点がずれるのは避けたかったから。女性ドライバーは少ないので、見つけるのは大変でした。
――ひぇ。そんな苦労が。こんな「配慮」が必要なあたりが、ジェンダーギャップ指数121位なのかなって思っちゃいますね。
あと、「もっと“女”使えよ」って男性の政治家に言われることもありましたよ。
――なんだと?私も徳島で選挙取材をしていた時に、「あの候補者は握手の時に、手を胸まで持ってって触らせてくれるんだ」みたいなことを言ってる支援者に会ったことがあって、気持ち悪くて鳥肌が立ちました。
まさにそれを言われたこともありました。その相手には、「私はそういう選挙は一切しませんから」と言い返しましたけどね。私の支援者は「票が減ってもいいから、そういうのにはキレていい」と言ってくれたのが救いでした。
繰り返しになりますが、そんな選挙をしていたら、ますます若い人が選挙や政治に悪いイメージを持ってしまう。女性の政治参画が少ないのは、こういうことも関係していると思います。
「女性候補者だって生理はある。言えない雰囲気はおかしいよね」
――佐和子さんが選挙戦中、「昨日から生理なので、ちょっと眠い」ってツイートされているのを見て、はっとしました。
女性の生理の重さも人それぞれだけど、私は結構眠くなっちゃうことがあるんです。色んな意見があると思いますが、私は生理だからいつもよりゆるめのペースで活動するよ、と伝えたかったんです。生理だからサボるという意味ではないですが、やっぱり長期的に働くことを考えると、ペース配分も考えた方がいい。もちろん、言いたくない人は言わなくていい。だけど、言える環境をつくることは大事だと思います。
――そうですよね。私は、佐和子さんのこのツイートを見るまで、女性候補者が選挙中の生理期間をどうすごしてるかなんて思いをはせたこともなかったです。
生理自体があまり、語られることがなかったから、知られてないですよね。だから、男性が生理のことをわからないのは当たり前だと思います。ただ、男女平等参画社会を目指すのなら、知ろうとする努力も、歩み寄りもあってほしいなと。その先にダイバーシティが実現するんじゃないかなあと思っています。
「誹謗中傷のない選挙戦、ワクワクする政治に、私が変えたい」
――このサイトは20代の方が多く見てくれてるんですが、伝えたいことはありますか?
まちづくりをやっているときから言ってるんですけど、結局、政治を変えないと、変わらないみたいなことって実はたくさんある。じゃあ、どうやって政治を変えるかって言ったら、やっぱり選挙なんですね。例えば、徳島市議選の場合なら、1700票集まれば市議を1人通せる。1700票って、大きな高校の3学年分くらいじゃないかな? 大学生が本気で票を集めれば変えられるんですよ。そこに気づいたら、「たかが1票」なんてならないんじゃないかなって思います。
もちろん、選挙や政治が遠くなる理由もわかる。むしろ、今回の選挙戦で身にしみて感じたところもたくさんあります。だけど、だからこそ、私が変えたい。誹謗中傷のない選挙選を、ワクワクする政治をやりたい。
私は市長室にいるつもりはなくて、徹底した現場主義でありたい。「今日も図書館と公民館とキッズスペースに市長がきてるよ」って言われるようになりたい。たくさんの人の声を聞いて、それを政治にいかしていきたいです。ぜひ、徳島市の今後を楽しみにしていてください。
●内藤佐和子さんプロフィール
1984年徳島市出身。東大在学中に難病の「多発性硬化症」を発症。家族、友人らとの交流をつづった「難病東大生」を2009年に出版した。「徳島活性化委員会」を立ち上げて、地元活性化のアイデアコンテストなどを実現した。2020年4月5日投開票の徳島市長選に新顔として立候補し、当選。史上最年少女性市長に。
この記事を書いた人
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伊藤あかり
かがみよかがみ編集長
2009年朝日新聞入社。紙の世界にどっぷりつかり、記者10年目にウェブの世界へ。
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