2015年に過労自殺した高橋まつりさんと、同じく新卒9カ月で自殺未遂をした自身を重ね合わせ「どうか仕事のために自分をすり減らさないでください。もし、身近に仕事や会社に殺されそうな人を見つけたら手を差し伸べてください。あの日生き残った私からのお願いです」と綴られるエッセイ。
編集長の私はこの文章を拝読して、「どんな気持ちでこれを書いてくれたんだろう」と思うと胸が苦しくなりました。この投稿を高橋まつりさんのお母様・幸美さんにも届けたいと思い、ご連絡させていただいたところ、投稿者の「焼き鳥」さん、そして、かがみよかがみの読者に向けたメッセージをいただきました。幸美さんの許可をいただき、掲載いたします。
高橋まつりさんの母・幸美さんからのメッセージ
伊藤あかり編集長からのご紹介で、焼き鳥さんのコラムを拝読させていただきました。
「仕事のために自分をすり減らさないで。生き残った私からのお願いです」
このコラムで焼き鳥さんの過去の辛いご経験から、若い後輩たちのために自分の思いをさらけ出し、さらに私の娘の人生にも思いを馳せてくださったことに、深く感謝申し上げます。
焼き鳥さんご自身が過重労働から自殺未遂をされた当時の事を思いを綴られることは大変辛い作業だったと思います。
「娘のように追いつめられてしまう前になんとかして助けたい」
焼き鳥さんが新卒入社2年間で職場を去ったこと、その後ご自身のような悩みを抱いている後輩たちの事案を労基署へチクったり……。
焼き鳥さんの行動の変化はなんて素晴らしい勇気ある行動なんでしょう。
現在働き方改革の部署で社内を変え、同僚を救おうとされている焼き鳥さんに敬意と感謝の気持ちでいっぱいです。
実はわたしも、地元の若い人から職場の悩みを相談されたらすぐに労基署へ通報しています。
今の私はこんなことしかできないんですが、娘のように追いつめられてしまう状況になる前になんとかして助けたいと思うからです。
娘にも「かがみよかがみ」にエッセイを投稿してほしかったなあと思わず考えてしまいました。娘だったら……
「私、以前大手広告代理店で働いていたんですが、朝まで会社にいて、シャワー浴びてまたすぐ出勤するような仕事をしていたんですよ。2時間の仮眠しか取れない状態だって上司はわかってるのに、目が充血したまま出社するな!髪がボサボサ!とか言われて、訳わかんなかったんですよ。総合職は死ぬほど働けって言われるのに、女子力まで求められるの訳わかんないじゃないですか……」
娘は文章力に自信があったのでこんな文章じゃなくもっとちゃんと書けたと思います。
悲痛なDM「まつりさんと同じ状況です」
ある時にはTwitterのDMでメッセージをいただくことがあります。
大抵は職場での切実な悩みが綴られており、「まつりさんと同じ状況です」とか、「まつりさんと同じ状況でした。でもまつりさんが亡くなり多少職場が改善されて助かりました」とか、「まつりさんのお母さんが声をあげてくださったことで、自分の家族を悲しませてはならないと思い、必死で職場から逃げることができました」などと綴られております。
「努力の成果を全て投げ出す決断は大変勇気が必要なこと」
娘は自分の努力でなりたい自分になることができると信じて努力してきました。
子どもの頃から大学進学、留学、卒業、就活で10年以上の時間を必死で努力して来たんですから、全てを投げ出す決断をするのは大変な勇気が必要だったと思います。
娘は入社して半年間の試用期間を終えて正社員登用されてから、際限のない残業と休日出勤でうつ状態に陥りました。
しかし娘はガマンするだけではなく、自分の状況を上司や人事や労働組合に訴えました。
でも労働組合は動かず、自分の業務も職場や周囲の先輩同僚たちの働き方も変わらなかったのです。
娘が今までハングリー精神で追い求めた努力と時間を全てリセットすることを考えていました。
自分がありのままで活躍できない職場は去るべきだと理解していたのです。
その決断は容易ではなかったと思いますが、娘はその覚悟をしていました。
娘は「自分で休職か?退職か?決めるから、お母さんは口出ししないでね!」と私にキッパリ言いました。
苦しんでいる方がいたら伝えたい。「“高橋まつり”を思い出して」
しかしその言葉の2か月後に自ら命を絶ってしまったのです。
だからどこかでもし娘のように苦しんでいる方がいたら、2015年クリスマスのあの日に自ら命を絶ってしまった「高橋まつり」のことを思い出して欲しいと思います。
あなたたちは、どうか娘のようにならないで欲しいと思います。
正常な判断ができなくなる前にと言ってもそんな見極めをするのは困難でしょうが……どうか、職場から離れて休んで欲しいと思います。
生きて#MeTooして欲しかった
もうひとつ、少し心残りがあります。
娘のこのツイートがずっと気になっているのです。
私の仕事や名前には価値がないのに、若い女の子だから手伝ってもらえた仕事。聞いてもらえた悩み。許してもらえたミス。
— まつり (@matsuririri) December 14, 2015
程度の差はあれど、見返りを要求されるのは避けて通れないんだと知る。
仕事でセクシャルハラスメントがあった事を示唆するような内容です。
本人の言葉で真相を明らかにすることが叶わないので、何があったのかすら知ることができません。
娘に何か死ぬほど辛いことがあったのかもしれません。 真実すらわからないのです。 娘の気持ちを思うと母としては悔しくてたまりません。
生きて#MeTooして欲しかったです。
もしあなたの尊厳が侵害されることがあったとしたらあなたの責任ではありません。
あなたは悪くありません。
どうか悪意のある人権侵害を性犯罪を許さないでください。
声を上げることができなくても、あなたに責任はありませんどうか堂々と生きてください。
どうか生き延びて、幸せな人生を手に入れてください
あなたがいなくても職場は回ります。
でも、あなたの人生であなたの代わりはどこにもいないのです。
あなたの幸せはあなたが作るのです。あなたの人生を邪魔することを誰にも許さないでください。
努力し続ける事より、諦める決意の方が勇気が必要です。
でもどうか生き延びて、美味しいものを食べて、たくさん笑って、たくさんおしゃべりして、恋をして、好きなところへ行って、自分自身が楽しいと思える幸せな人生を手に入れてください。
あなたの大切な誰かを悲しませないでください。
あなたは世界で唯一のかけがえのない存在だからです。
例え苦しい時があったって、自分自身を認めることができないことがあったって、この世に生を受け、生きている。それだけであなたは生きる意味がある大切な存在なんです。
あなたの幸せを願います。
どうか、まつりの分まで生き抜いて、幸せになってください。
高橋まつり
母 高橋幸美