自分と違う価値観と出合った時、受け入れられる?【小野美由紀さん読書会】
【02】小野美由紀さん×かがみすと
※早川書房よりご恵贈いただきました。
4月16日に発売された作家・小野美由紀さんの短編小説集『ピュア』。表題作の『ピュア』は昨年5月に早川書房のnoteで配信されたところ話題を呼び、長行記事にもかかわらず20万PV超を記録しました。「出産するためには女が男を食べなければいけない」という異様な世界を描きながらも、現代と通底するテーマは「性別によって役割が固定された社会での、女の(あるいは男の)生きづらさ」です。かがみすとからも「全然SFぽくない。近い将来におきそう」という声が寄せられました。そこで著者の小野美由紀さんを招いて、読書会を開催しました。小野さんとかがみすとたちの赤裸々トークをお楽しみください
今回参加してくれたかがみすと
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日本の中高を卒業後アメリカの大学に進学。現在は日本で働く社会人3年生。たまにライター。
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4月から社会人1年目。でもコロナの影響で一度も出社してません。大学2年生まで本を読むのは苦手でした。
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津田塾大学4年生。就活中ですが、コロナの影響で就活もストップせざるを得ない状況……。
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大学4年生。秋からドイツに留学する予定でしたが、コロナの影響でどうなるかわかりません…。
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春に東京の大学に入学予定でしたが、コロナの影響でまだ北海道の自宅にいます。
※下記ネタバレあります。
小野美由紀さん(以下小野):みんなの感想を聞いてみたいな。ピュアの5作品のなかで、どれが一番好きだった?
Karenさん(以下Karen):私はあんまりSFは読まないんですけど、この本は全体を通して、SF感があまりなかった。特に、親友が性転換するバースデー、人工子宮がテーマの幻胎(げんたい)は、もうすぐ起こるんじゃないかなって、結構リアルに読んじゃいました。
小野:そうやって自分と重ねて読んでくれるのすごくうれしいな。
みのり:私もバースデーが好き。私も主人公たちと同じく、女子校に通っていたのですごくよくわかるなって。男の子がいると、もう、全然違うから浮いて見えることとか。キャアキャアする気持ちもすごく理解できます。リアルすぎる……。
ただ、思ったのは「主人公はすごく大人だな」っていうこと。女子大の友達で、女の子に告白した子がいて「一緒に旅行に行ってくれたのに、そんなつもりじゃなかったとフラれた。それから仲が決裂しているんだ」と言っていました。それを思うと、(親友の性転換を)戸惑いながらも受け入れた主人公のひかりはすごいなと思いました。
山逆:わかる!主人公のひかりは、親友のちえが性転換したときに、自分のなかの偏見をごまかさないで向き合ってるのもえらいなって思いました。
あの、学年でも一、二を争ってた美人のちえが、こんな姿になっちゃうなんて。 (略) 全く十数年の大親友の名折れではあるけれど、思っちゃうんだよね。私、差別主義者でもないし、そういうことに偏見とかないって自分では思ってたのにね
『ピュア』バースデーより
小野:「バースデー」では自分と違う価値観とであった時にどうやって受け入れて、新しい関係を築いていくのかっていうことを考えたかったんですよね。
例えば今回のコロナも「自粛」の度合いは人によって違う。ちょっとくらい外にでて良いでしょっていう人や、全く家からでない人もいる。他人との違いをどこまで認めあえるかって常に問われていることなんだよね。
トランスジェンダーの恋愛を書きたかったのではなく、親しいと思っていたひとが、あるとき全然違ったと気づいたとき、どうやって関係を築くかというのを書きたかった。だから、トランスジェンダーの方への取材とかはしてないんだ。
ピュアはディズニープリンセスの系譜だと思っている
山逆:私はやっぱりピュアが好き!ロマンチック…メルヘンチックな話だと思った。恋愛からグロテスクなものをそいでいったら、好きな人とセックスして、好きな人は消えても愛の結晶が残る…っていうのが、とっておも童話っぽくて好き。
小野:そうなのそうなの!ピュアはディズニープリンセスの系譜だと思っている。強めのヒロインなの。
私さ、人魚姫の話って好きじゃないんだよね。王子様に浮気されて泡となって消えていく……そんな女いねーよって。浮気されたら普通、ボコボコにするでしょ。だから、この本に出てくる主人公はみんな欲望にわがままなの。女性・男性分けるつもりはないけど、女の人のパワーが美しいと思うから、私はこういうヒロイン像にしたの。
玉舘:ピュアを読んで、私の恋愛観と一緒だって思ったんです。顔がかっこいい、性格がいいとか、そんなことじゃなくて、命ごと好きみたいな。宇宙規模で重たい女ってよく言われるので、私のこの恋愛観はタブーだと思っていたんです。ピュアを読んで、こういう恋愛観もありなんだなと。嬉しい気持ちになりながら読みました。
幻胎が特にそうでした。私は両親が小さい時に離婚しているので、父の記憶がありません。だから自分のなかの父親像がゆがんでいるんですよね。恋愛対象にも、憎悪の対象にもなりうる。
エレ・ルウカさん:私も幻胎が特に好き。幻胎はお父さんとの確執もテーマになっていたと思うんですけど、そこが自分と重なりました。私の場合は、お父さんからずっと「お前はバカだから」と言われてきたので、それが染みついて「私がバカだから…」って自信がないから、何をしても失敗してしまう。お父さんから離れて、呪縛から解き放たれたい!という気持ちと、でもできない…っていう思いがよくわかりました。
セックスをタブーに描きたくなかった
小野:幻の父親が好きなんだよね。恋愛対象というよりは、憧れの対象。親はこうあってほしい、子どもはこうあってほしいみたいな願望って誰にでもあると思う。
その幻から外にでる行為がセックスなのかなって思うんだ。他人の世界と自分の世界があわさって、ヒビがはいって、のぞく行為。そういう意味でもセックスは他者とのかかわり方のひとつだと思ってる。だから、タブーみたいに描きたくなかった。
社会が多様化してきて、どんな生き方もいいじゃんってなってきた。でも、道徳的には受け入れた方が良いとわかっていてても、受け入れられないみたいなこともでてくるじゃん。そういう時に、ある程度理解しあっていきたいよなっていう希望をもって書いた小説だったんです。なので、みんなに共感してもらえたのはうれしかったな。
小野美由紀さんプロフィール
文筆家。著書に銭湯を舞台にした青春小説「メゾン刻の湯」「傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」(幻冬舎文庫)、絵本「ひかりのりゅう」(絵本塾出版、2014)など。最新作はSF小説「ピュア」(早川書房)
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かがみよかがみ編集部
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