今回参加してくれたかがみすと

  • 日本の中高を卒業後アメリカの大学に進学。現在は日本で働く社会人3年生。たまにライター。

    Karenさん
  • 4月から社会人1年目。でもコロナの影響で一度も出社してません。大学2年生まで本を読むのは苦手でした。

    エレ・ルウカさん
  • 津田塾大学4年生。就活中ですが、コロナの影響で就活もストップせざるを得ない状況……。

    みのりさん
  • 大学4年生。秋からドイツに留学する予定でしたが、コロナの影響でどうなるかわかりません…。

    山逆(やまさか)さん
  • 春に東京の大学に入学予定でしたが、コロナの影響でまだ北海道の自宅にいます。

    玉舘さん 

小野美由紀さん(以下小野):あれ?みんな緊張してる?私は上野千鶴子先生みたいに、いきなり「マスターべーションしてる?」とか聞かないから安心してね。

一同:(笑)

編集部:小野さんの小説集『ピュア』では、4篇の短編を通じて、自分らしく生きたいと願う女性たちが、社会的抑圧を跳ね返して自立する姿を描いていますよね。

小野:みんなは社会から女らしさ・男らしさ」を押しつけられてるなって感じたことはある?

玉舘さん:「女は子ども産むべき」と言うやんわりとした圧を家族や親族から感じることはありますね。私自身は子どもを産みたいって願望がないし、怖いなって気持ちもある。だけど、産みたいのが当たり前でしょって言われたら、流される気もする。 

みのりさん(以下みのり):女子大に通っているので、大学ではあまり感じないのですが、高校時代はありました。英文学科か史学科どちらに進むか悩んでいる時に「女の子が史学科なんて行ってどうすんの」って言われたりとか。 

山逆さん:私は高校が私服だったので、体育の授業があるときはジャージで行ってました。隔日で体育があるので、週3日はジャージ。ある日、男子に「お前はどうしていつもジャージなんだ」と聞かれたんですよ。いや、あんたは週5でジャージじゃん!って(笑)。北海道の中学だったんですけど、真冬でも女子はスカートとタイツしか認められなかったり。めちゃめちゃ寒いので、本当はズボンをはきたかったんですけどね。

エレ・ルウカさん(以下エレ):中高まで女子校だったので、大学に入ってからびっくりしたことがたくさんありました。私は大学ではダイビングサークルに入っていたんですけど、重い荷物を持つときに「男子に任せて良いよ」「女子はしなくていいよ」って言われたのがちょっとショックでした。得と言えば得なんだけど、みんなでやればよくない?って思いました。

女性だから得することと、女性らしさを押し付けられることは全然バーターじゃない

小野:なるほどね。女子はこう、男子はこう、って押し付けと一緒に、女性だから得している事、免除されていることがあるとモヤモヤするんだ。

Karen:私も女性として得している部分を「ラッキー」って受け入れちゃってる自分に嫌悪感があります。例えば、会社で重い物を持ってもらったり、女性だからやらなくていいよ、って言われることがあるとか。ただ、一方で「女性だから○○しなさい」って言われるのには抵抗がある。でも、そうやって「女であること」に甘えているのなら、反対に我慢しなきゃいけないものもあるのかなって……。

小野:何を我慢しているの?

Karen:例えばメイクです。会社で女性だけメイクしなきゃいけないことが不満です。でも、そのことを社内で問題提起したことは一度もないです。 どこにどうアプローチしたら会社が変わるのかもよくわかんないし、言う相手を間違えたら大変なことになりそうだし。

小野:あのね、女性だから得することと、女性らしさを押し付けられることは全然バーターじゃないから。みんな損得勘定間違えすぎだから。

「男だから重いもの持って」って言うのはダメだけど、重いもの持ちたいっていう人には、持ってもらえばいいじゃん。それでかつ「なんでヒール履いたり、化粧しなきゃいけないんだ」って思ったら、堂々と言っていいんだよ。

エレ:「してもらう」「得をする」ばかりだと、対等じゃない気がしてしまいます。例えば男性からご飯をご馳走してもらった時に「私は女であることを利用して得をしようとしているのかな。それはフェミニストの行いとしてどうなのかな」って思っちゃう時もあります。

「奢り」は「お布施」だから、悪いなと思う必要はない

小野:まずここだけははっきりさせておきたいんだけど。

奢りってのはね、お布施みたいなもんだから!神社でお賽銭投げてるようなもんだから!!!「わたし」に対して支払われてるんじゃないのよ!!!

それに男とか女とか関係ないから。奢ってほしい人には奢ってもらえばいいし、奢りたい人には奢ればいいだけの話でしょ。私は人に奢る時は男女年齢関係なくそうしてるよ、出したいと思った時に出せばいいし、得、したきゃすればいいじゃん。

奢ることと、対等であることは全く別物だから。お金出すって行為は庇護じゃないから。あなたの貴重な時間をいただいてありがとう、ってことだから。上とか下とかじゃないから。

みのり:奢られることで、ナメられるような気がして。

小野:なんだろうね、奢られることに対する抵抗感ってさ、「奢られる代わりに相手になめられることに甘んじなきゃいけない」みたいな、変なバーター意識があるからじゃない?さっきの「重いもの持ってもらう代わりにメイクしなきゃ」と一緒だよね。でもそれって計算間違ってない?1足す1は2でしかないのに、勝手に忖度して1引いて「1足す1は1です」って言ってるようなもんじゃね?

編集部:相手が勝手にやってくれることに対して、勝手に忖度してお返ししなきゃっていうのも変な話ですしね。

「奢る=相手を下に見てもいい」は間違いでしょ

小野:だってあなたたちがさ、例えば後輩の女の子とか男の子におごったとして「その子を買った」とか思わないでしょ。それと一緒だよ。

もし「女の子に奢る=相手を下に見てもいい」って勘違いしてなんか言ってくる男がいたとしたら、それは間違いなくそのセクシスト(性差別主義者)の彼のほうが悪いでしょ。奢られたからって、ナメられることを受け入れる必要もないし、ホテルも行かなくていいし、ニコニコ相手の言うこと聞く必要もないから。セクシストの馬鹿野郎と食事行っちゃったことだけ反省してさっさと逃げれば良いの。

もちろん男性の中には下心があって払う人もいるけど、そんなの、お祈りみたいなもんだから。神社で多めに賽銭出して「お願いしますお願い叶えてください」って言ってるようなもんだから。神社がお賽銭投げてきた人に「悪いな」とか言わないでしょ。それと一緒だよ。こっちが悪いなって思う必要ないし、叶えてあげたかったら叶えてあげればいいし、叶える義務もないの。

 みのり:重い荷物も、親切から「持ちましょうか?」って言ってもらえる分には持ってもらう。でも、なめられてるなと思ったら負けず嫌いに火がついて拒否しちゃう。

 私は大学の演劇サークルで大道具をやってるんですけど、そこで、プロのところに修行にいったことがあったんです。すると「お嬢ちゃん見学にきたのね」「無理してもたなくていいよ」みたいな言い方をされました。むかついたんで、後輩の女の子と一緒に一番重たい機材を持ってやりましたけどね!(笑)

小野:それは女だから大したことできないだろうってナメられと、プロじゃないからできないだろってナメられが分量不明で入り混じってるかもしれないね。ムカついたから持ってやった、のは面白いね。

私はフェミニズムって「女が女であるってだけで、社会の中で損したり、ナメられたりすることを許さないぞ」って態度のことだと思ってる。これは私の定義ね。人によって違うと思うけど。だから、重い荷物を持ってもらうことを不平等だと感じないならやってもらえればいい。持ってもらうことで「ナメられるな」と感じるなら、自分で持てば良い。 そんだけでしょ。

Karen:じゃあ、自分が女子扱いされてるなってことに罪悪感覚えずに、メイクしたくなかったら、したくないって言っていいんですかね?でも、会社を変えるって難しいですよね…。

編集部:私も新人の時は「会社はひとりの力じゃ変えられない」って思ってたけど、年次が上がっていけば、リーマン力も身について、誰に、どの順番で言えば、話が早いかもわかってくる。おじさんたちにうまくやってもらえば、意外と会社は変えられるんだなって思うようになったよ。

小野:まずは、自分だけでやっちゃえばいいんだよ。Karenさん一人だけ「あの人は特別枠」ってことにはならないの?なんかちょっと周りとは違うから、メイクしてなくてもいいか、ってキャラに……。

Karen:それはできそうな気がします(笑)

小野:だったらまず自分一人でやればいい。そこから変わってくかもしれないから。で、すっぴんで会社に行って、もし誰かになにか言われたら「あ、これ、バカには見えないメイクなんで」って言うのはどう?

一同:(笑)

どっちかが得をすると、どっちかが損する話じゃないよね

みのり:誰も損するわけじゃないのに、批判がでるのって「KuToo」もそうですよね。本質的にはみんながやりたいようにやろう!っていう話なのに「男性だって革靴で我慢してる!」と論点がすり替わってしまう。結局、みんなで我慢しようってなってしまう。

小野:どっちかが得をすると、どっちかが損する話じゃないよね。なのに、互いに「あっちが得するのはずるい!」みたいに互いの得を潰しあってるのは見ていて変だなと思う。

「ピュア」の中ではさ、「女が男を食べないと妊娠できなくなった世界で、子供を産んで “名誉女性”にならないといけない、軍事や政治でも活躍しないといけない」という現代の写し鏡みたいな状況を描いてて、それぞれの登場人物の女の子たちが、ままならない世界だけど「自分はこうしたいんだ」ってのを決めてく話だよね。

ヒトミは社会のルールに合わせつつその中でいい得点を出すことに純粋に喜びを覚える。ユミは「本当に男を食べて妊娠しなきゃいけないの?活躍する女性にならないといけないの?」と悩んでいる。社会に無理やり合わせて鬱屈としてるマミは、もがきながらも自分なりの道を進もうとしてるユミに嫉妬する。私は我慢してんのに、あの子はずるい、ってさ。

みんなそれぞれでいいと思うんだよね。それぞれに正解があってさ。

メイクをしたい人はする。したくない人はしない。ヒールを履きたい人は履く。履きたくない人は履かない。生理を公言したい人はする、したくない人はしない。どっちも損しない。

得しつつ、言いたいことはどんどん言っていきましょう。それでガタガタ騒ぐ奴は、ほっときましょう。

小野美由紀さんプロフィール

小野美由紀さん
photo:ウエマリキヤ

文筆家。著書に銭湯を舞台にした青春小説「メゾン刻の湯」「傷口から人生。メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった」(幻冬舎文庫)、絵本「ひかりのりゅう」(絵本塾出版、2014)など。最新作はSF小説「ピュア」(早川書房)