資生堂に入社したのは、高校時代の原体験があったからです。バイト代を貯めて初めて買った口紅「ピエヌ」がきっかけ。唇にただ色を載せる、それだけの行為にすごく気持ちが高揚したんですよね。私にとって、ワクワクの原点。この強烈な体験を多くの人たちに届けたい、化粧の力で誰かの背中を押したい、という思いで資生堂に入社しました。

2004年。就職氷河期でした。最初は地方配属だったのですが、なんとかなると思っていました。初任地は、群馬出身の私にとっては、縁遠い滋賀県。一番年が近い先輩でも40代で、もちろん友達もいない……。琵琶湖のほとりで泣いていました。営業を3年経験すれば、ジョブチェンジ試験を受けられると聞いていたので、ずっと狙っていました。運良く一発で合格し、念願の東京へ。

憧れのマーケティング部門。それだけでも、十分気持ちはあがっていたのですが、さらに運命的なことがありました。隣の席の座った先輩が、私がうまれて初めて買った口紅…あの「ピエヌ」を作った人だったんです。ああ、私の青春をつくったのはこの人なんだ、この人を超えるくらいの感動を与える口紅をつくらなきゃと興奮しました。

32歳で管理職試験に合格。30代後半で受けるものだとすっかり思っていたのですが、当時は会社の体制が大きく変わろうとしている時だったこともあり、若手登用の一環で、最年少でブランドマネージャーに任用いただきました。そして、10代をターゲットにしたメーキャップブランドのマジョリカマジョルカを担当しました。

ブランドマネージャーは、ブランドにかかわる全ての判断をする「社長」のような役割だと言われました。経営者として、どう運営していくかを試されました。これまでは、一緒に議論をして伴走してくれる先輩がいたのに、自分が決めなきゃいけない。プレッシャーも面白さもありましたね。マジョリカマジョルカには1年ちょっと。そして、次は日焼け止めブランドのアネッサに。アジア9カ国の責任者を総括し、本国から方針を提示しマネジメントする仕事でした。言語も英語にかわり、責任やエリアがグッと広がりました。

子どもを産むのはいつが正解?今欲しい、って思う気持ちを大切に

あっという間に35歳。高齢出産と言われる年齢です。
仕事中心の生活をしてきたけれど、心のどこかに一度子どもを産んでみたいという気持ちがありました。

よく、キャリアビルドしたあとに子どもを産むか、その前に産むのか、どっちが良いのかと後輩に聞かれます。本当にこればっかりは答えがでないです……。

たまたま運良く自然妊娠ができましたが、もし不妊治療が長引いて……となったときに、どっちを選べば正解だったかと考えると、正直わかりません。
でも今思うのは、どちらにしても得るものはある。だから、今欲しい、って思う気持ちを大切にしていいのではないでしょうか。

出産を経て、時間軸が変わった。そして、新しい問いがうまれた

そして出産。自然分娩をしたのですが、全身全霊で産み落としました。その時、私が思ったことは「あれ、こんな達成感や快感って、仕事で感じたことあったかな?」だったんです。これまで300以上の商品を産み落とす作業をしてきたけど、まだまだやれるし、やらなきゃ、やりたい、と思いました。

子どもができてから、時間軸が変わりました。これまでは、自分だけの軸だったので、未来のことを考えても5年後とか。でも、子どものことを考えると10年後、50年後、100年後……まで考えるようになりました。日本だけではなく、地球、人類全体の幸せの総量を増やしたいと。

そうなると、新しい問いがうまれました。マーケティングはモノやコトを使う・買ってもらうことを促す作業だけど、大量消費を促すのはちょっと違うよなと。売れれば売れるほど、社会が良くなるマーケティングはできないのだろうかと。

育休中に子育てをしながらもやもやしていたころに、ユーグレナの副社長と話をする機会がありました。言葉は違うけども、同じような思想を持っていると感じたんです。それどころかいまはトレンドとなっているSDGsも、ユーグレナは15年前から当たり前に実施している。

トレンドだからとやっている「SDGs」や「サステナビリティ」ではない、ビジネスとしてやっているところが魅力的でした。真摯に研究を積み重ね、世界初の技術で健康寿命を延ばそう、そこで出た利益で、バイオエネルギーを使った飛行機を飛ばしたり、バングラデシュの貧困問題をなんとかするぞとか……!!
地球に与えるインパクトとして、全然違う世界が見えている。まさにサステナビリティの循環を目指している。

もちろん、まだ完璧にできているわけじゃないです。でも、だからこそ、哲学として掲げていることが、私自身の軸にもなるなと思ったのです。ベンチャーゆえに整っていないこともたくさんあります。だけど、「じゃあ整えればいいじゃん!」というエネルギーが湧いてきます。転職してよかった!

「何のためにこの仕事があるのか」を考え、そこに自分を巻き込む

資生堂もユーグレナも、仕事をつらいとか、やめたいとか思ったことはないですね。理由……?よくメンターや先輩から言われるのは「意義の見つけ方が上手だね」って言われることでしょうか。私としては無意識にやってることなのですが。それがあると、「何のためにやるのか」に戻って、良いスパイラルにのれるのかなと思います。

例えば、資生堂でとあるブランドを担当していたときは「化粧を通して、自己肯定感を高める」ということを働く目的に設定していました。モノを売ることを目的にしてしまうと疲れてしまうけど、この町の誰かが、このブランドを通じて自信をもって何かにチャレンジ出来たなら、わくわくして誰かに優しくできたなら、と考えるとエネルギーが湧いてくる。私がマーケッターっていうのもあるかもしれません。第一に提供価値を考えます。今こうして話している何分間で、私は相手に何を与えられるのかなと。

結局のところ、入社前から「幸せの総量を増やしたい」っていう思いは変わらない。そのなかで、”総量”がより大事だと思ったし、その時間軸、影響幅を長く、大きくしたいと思って、転職しました。その幸せの循環のなかに、自分も入れられたらなって考えています。だから、私が働く理由は新入社員だったときから変わらないんです。

みなさんの働く理由はなんですか。ぜひ教えてください。

工藤萌さんプロフィール

ユーグレナ: リーディングブランド部 部長 工藤萌さん

2004年(株)資生堂入社。営業を経験後、一貫してマーケティングに従事。メーキャップ市場NO.1『マキアージュ』のブランド戦略、商品企画、プロモーションを担当。その後、当時最年少ブランドマネージャーとしてメーキャップブランド『マジョリカ マジョルカ』、アジア市場NO.1サンケアブランド『アネッサ』のグローバルブランドマネージャーを歴任。 第一子出産を機に2019年8月(株)ユーグレナへ転職。マーケティング部門を立ち上げ、現在リーディングブランド部 部長兼カンパニー経営企画部。「売れれば売れるほど社会が良くなる」マーケティングにチャレンジしている。

「わたしが働く理由」をテーマにエッセイ募集!2月14日締め切り

graphic : ayane sakamoto

コロナ禍の影響で、働く場所も時間も大きく変化しました。
働く理由を見直して、やっぱり変わらなかった方も、大きく変わった方もいるのかもしれません。
全てが大きく変化する今だからこそ、働く理由を言葉にしてみませんか。
お金、やりがい、暇つぶし……一言で語るには難しすぎるこのテーマ。あなたの考えを、エピソードをまじえて聞かせてください。