かがみよかがみでは、「忘れられない味」をテーマにエッセイを募集しました。たくさんのご応募の中から、編集部が一番心に響いたエッセイを「かがみすと賞」として選ばせていただきました。

今回は、かがみすと賞1本、編集部選として3本のエッセイをご紹介いたします。

◆かがみすと賞

「お母さんごめん」。母が作ってくれたお弁当に感じた温かさと希望(マニーカン)

あらすじ:急性骨髄性白血病と診断された。地元の大きな病院で治療を受けるために実家に帰った。次の日から即入院。コロナで1人での入院だった。医師にこれから起こりうる最悪の事態の説明を受けた後、LINEで母に「死にたい」と言ってしまった。

◆担当編集者からのコメント

マニーカンさんが食べた、しょっぱくて、少し冷めた玉子焼きの味が伝わってくるようでした。病気を知り、これから自分の身体に起きるかも知れないことへの恐怖、絶望。1人で気丈に対応しながら、すがりたくなったのはお母様だったんですね。

少し冷たくなってしまっていたけど、しょっぱい味の玉子焼き。
この玉子焼き、懐かしいな。母の作る味だった。母の作る弁当を口に頬張るたびに母の気持ちを考えてしまう。私が死にたいと言ってから、母はどんな思いでこのお弁当を作ったんだろう。

お弁当を食べた後に改めて送ったLINEの文面に、お母様も少し安心されたのではないでしょうか。読んだ後、とても静かに感動が広がるエッセイでした。

◆次点①

思い出す彼の嫌そうな顔。サプライズのロールキャベツは自分で食べた(紺野

あらすじ:付き合って2年。関係が終わりそうな彼にプチサプライズを、と夕食に手作りのロールキャベツを用意した。その瞬間、彼はすごく嫌そうな顔をして「正直困る」と言った。いままでだったらあり得なかった。

◆担当編集者からのコメント

ロールキャベツに掛けた手間は、2人の関係を修復したいという気持ちですよね。喜ぶどころか迷惑そうな顔をされたら…。胸が痛いです。

少し冷めたロールキャベツをつまみあげ、パクリパク、パク、バクリバクリと途中から無我夢中で食べた。目の前から消えて欲しかった。
大事だと思っていた人のために作ったご飯は、今置いていかれた私を見ているようで。苦々しい心とは裏腹に、噛めばじゅわっと広がる肉汁。キャベツの柔らかくも噛むほど感じる甘み。

それでも、ちゃんとおいしいと感じられて食べられるのは、紺野さんが持っていらっしゃる力だな、と思いました。

◆次点②

薄いカレーはおふくろの味。脳出血で倒れ、きっともう作れない母の願いは(まつら

あらすじ:大学卒業の直前、故郷を離れていた私に、母が倒れたという知らせが入った。2度目の脳出血。地一刻も早く返りたい気持ちと、恐怖を抱えて4時間かけて地元に。迎えに来た叔父に「もう意識が戻らないかも」と告げられた。

◆担当編集者からのコメント

水で薄まった、きっとおいしいとは言えない「薄味のカレー」に込められたお母様の思い。それぞれの家庭の「カレー」に、様々な気持ちと思い出が詰まっているんだなあ、としみじみとエッセイを読みました。

台所から聞こえる包丁と、まな板がぶつかる音と、ひと嗅ぎで分かるスパイスの匂いは、今でも鮮明に思い出すことができる。
カレーの日はルーを割って鍋に入れることが子どもたちの役目で、私は今でもその工程が好きだ。
昔からじゃがいもが好きだった私のために、いつも母は多めによそってくれ、喜ぶ私を見て笑う母が好きだった。

この部分の、もう戻らないかつての日常の描写が胸に迫りました。母のカレーに勝るものはない、ですね。

◆次点③

夫が作る豚汁とおにぎりで、自分にとって一番大切なことに気がついた(まめたろう

あらすじ:終電が当たり前で、夫とはすれ違いの日々。夫が毎日作ってくれていた夕食も1人で食べると味を感じない。ピリピリして夫に仕事の愚痴をこぼすようになったある日、深夜に帰宅すると、ふわりとお味噌の香りがした。

◆担当編集者からのコメント

仕事の忙しさで余裕がなくなり、無になっていく感覚に共感しました。ピリピリした空気が伝わってくるようです。

お椀をもちあげ、ずずずと豚汁をすすり、おにぎりにもかぶりつく。 ああ、ご飯ってこんなにあったかいものだったのか、こんなにしみるものだったのか。

そして横を見ると、自分で言うのもなんだけどうまいな~とうなる夫の姿。 ああ、この人とご飯を食べることはこんなにも満たされるものだったのか。

冬に帰宅したときに見えた明かりの暖かさ、漂ってきたお味噌の匂いに五感を刺激されました。そして食事によってまめたろうさんが自分を取り戻していく様子がとても印象的でした。

以上、「忘れられない味」のかがみすと賞、編集部選の発表でした!たくさんの素敵なご投稿を、本当にありがとうございました。
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