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個人や企業を支援する岸田内閣の経済対策

岸田内閣の発足から約1か月半が過ぎた2021年11月19日、政府は今後の主な経済対策を決定しました。

閣議に臨む岸田文雄首相=2021年11月19日午前9時47分、首相官邸、朝日新聞社

2020年には全国民に現金10万円が給付されるなどしましたが、その後も「新型コロナの影響を受け続けた国民や企業をさらに経済的にどう支援していくのか?」という具体的な内容が決まったのです。

政府は11月19日、人や事業者を支援する給付金を柱とする経済対策を閣議決定した。財政支出は過去最大の55・7兆円、民間が使うお金も含めた事業規模は78・9兆円に上る。岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」の分配政策や成長戦略の多くを盛り込み、巨額対策となった。

55.7兆円の経済対策を閣議決定 給付金など盛り込み過去最大:朝日新聞デジタル

上記の給付金に関しては、個人向けは「非課税世帯や18歳までの子ども」に対して、事業者向けは「中小企業や個人事業主」に対してなど、条件に該当した立場でなければもらうことができません。

 

また、経済を立て直してきちんと循環させていくためには、「Go To キャンペーン」のように消費喚起をするだけではなく、国民に入ってくるお金を増やしていく必要があります。

そこで岸田総理が掲げているのが、お給料を上げることで企業が税制の支援を受けられる制度の強化です。

経済対策(財政支出55.7兆円、事業規模78.9兆円)の主な内容=朝日新聞デジタル

賃上げ企業への税制優遇とは

会社が雇用者のお給料を上げると税制が優遇される制度は、「所得拡大促進税制」という正式名称があります。

細かい要件は割愛しますが、前期から比べて支給しているお給料が増えていることが条件となり、大企業だけではなく、中小企業や個人事業主も対象です。

計算された金額がそのまま納める税金から引かれることとなるので、企業としてもありがたい税制支援であることは間違いないはず。

 

ですが、この制度、今回の経済対策で初めて創設されたものではなく、実は2013年に作られたものなのです。そう考えると、支給されるお給料がどんどん増えていてもおかしくないように思えるのですが、それにも関わらず、国税庁のデータによると、給与所得者の平均給与は年間433万円。

平均給与は2年連続の減少。国税庁企画課の「令和2年分民間給与実態統計調査結果について」より

推移をみると、ここ10年ほどは少し下がったり上がったりを繰り返しているだけで、大幅に増えているとは言えません。

「試用期間中の最低賃金以下」はOK?

また、お給料についての問題をひも解いていく上で重要なのが、最低賃金についてです。

最低賃金は、地域別と特定の業種別の2つがあり、それぞれさらに細かく指定があります。

 

多くの人に関係がある地域別最低賃金は2021年11月現在、一番低いのが高知県と沖縄県の1時間当たり820円、最も高いのが東京都の1041円と、221円の差があります。

もちろん地域によって物価や家賃のちがいはあるものの、居住地とは無関係にオンライン上で様々なお金のやりとりがある今、ここまでの差があっていいのかということや、そもそも東京の1041円ですらも消費税のことを踏まえると1000円の商品すら買うことのできない金額となっています。

会社員であっても、パートやアルバイト勤務であっても、会社はこの最低賃金を下回らない金額でお給料を設定する義務があります。

 

たとえば、求人で時給990円、研修中は時給950円のように試用期間は時給が低く設定されていることがありますよね。ですが、もしもこの試用期間中の時給が最低賃金以下だった場合、それを認める特例の申請が許可されてなければNGなんです。

 

なのに、全然申請されていないんです。試用期間のお給料が低くなっていて損をしている人、きっといるはず。

厚生労働省「労働基準監督年報」より作成

賃上げでの税制支援があるのにお給料が上がっていなかったり、本当はいけないのに最低賃金以下の設定がされていることがあったり……。

どちらも、制度を知らない人が圧倒的に多く、また、「所得拡大促進税制」に関しては制度が複雑で理解しづらいということから、賃金上昇が進まない状況が起きてしまっているように思います。

 

自分が動いただけでは……と思ってしまう方も多いかもしれませんが、制度を知っていることで、間違いを正したり、働きかけができたりするチャンスがあるかもしれません。

 

また、今発表されている経済対策は関係がなくとも、これから自分に当てはまる制度がでてくる可能性もあります。

「自分には関係がない」と思わずに、ニュースで取り上げられている賃上げにまつわることがどのように自分に影響があり、恩恵があるのかをしっかり理解して、国が打ち出す経済政策も自分事にしていきましょう。

(朝日新聞社の経済メディア『bizble』から転載しました)