かがみよかがみでは、「いま一番欲しいもの」をテーマにエッセイを募集しました。たくさんのご応募の中から、編集部が一番心に響いたエッセイを「かがみすと賞」として選ばせていただきました。
今回は、かがみすと賞1本、次点として2本のエッセイをご紹介いたします。
◆かがみすと賞
大人になった私は、弓道がなくても生きていけることに慣れてしまった(澄川優香)
あらすじ:高校時代、夢中になった弓道。大学生になってバイトでお金を貯めて弓を買った。でもそこには達成感も充実感もなく、「こんなものか」という感情だけだった。高校の「黄金の千日間」の魔法が解けてしまったのだ。
◆担当編集者からのコメント
「生産性」や「将来」という言葉に囲まれるようになると、夢中になれなくなっていく。自分の軸だったものが「趣味」に成り下がっていく虚しさ…多くの人がその寂しさと虚しさに共感するのではないでしょうか。
やりたいことが欲しい。夢が欲しい。夢さえあれば世界はきっとその輝きをもう一度私に見せてくれる。生きる意味を与えてくれる。生きる意味を与えてくれる何かが欲しい。生きてきて今が一番楽しいと、もう一度だけ、心の底から、思いたい。
「欲しいもの」というテーマに対して、「欲しいものが欲しい」んだ、という、反語のような組立てで書かれていて、はっとさせられました。決して取り戻せない時間。だからこそ輝いているのかも知れません。
◆次点①
娘のオムツ10パック分の値段でも、欲しいものは欲しいと言いたい(柚はちみつ)
あらすじ:「今度の誕生日、何が欲しい」と夫に言われて探してみた。かつて欲しかったキラキラしたものたちを見ても、いまは欲しいという気持ちが消えてしまったことに気がつく。「いや、娘のオムツ10パック分の値段か」と考えてしまう灰色の世界。誕生日はとっくに過ぎてしまった。
◆担当編集者からのコメント
生活必需品じゃないけど、キラキラしてワクワクする物たちは心の栄養素。やっぱりそれがなくては辛いですよね。でも生活ですり減っていると、「欲しい」という気持ちもなくなり、世界が灰色に見えてしまうという描写が印象的です。
欲しいもの、見つけよう。
この世が灰色からゆっくりと色づき再びキラキラ輝いて見えるよう、心の声に耳を傾けよう。
ミルクも買う。オムツも買う。醤油も洗剤も買うけれど、まずは私の真っ赤なハイヒールを買っちゃおうか。
真っ赤なハイヒール、という言葉ひとつで、灰色の世界が色づいたような気がします。赤いハイヒールでどこかにお出かけしたら、どんな新しい世界が見えたか、次のエッセイで教えていただきたいです。
◆次点②
両親や親族と縁を切った私が求める「普通の家庭」は、近くて遠い(新川由記)
あらすじ:いわゆる機能不全家族で育った私。就職を機に、両親や親族、その友人たちと縁を切った。そんな私が一番欲しいものは、月並みだが「温かい家庭・家族」だ。でも、思い入れが強いだけに不安が付きまとう。
◆担当編集者からのコメント
ご自身の家庭環境からの強い憧れと、一方で感じる不安や葛藤する気持ちが鮮明に伝わってくるエッセイでした。
周囲はみんな、当然のように結婚していくこの世界で、望めば望むほど、自分だけが家庭を持つことから遠ざかっているような気さえしてしまう。
私が難しく考えすぎているだけなのだろうか。温かい家庭というのは、すぐそこにあるようで、やっぱり遠いと感じてしまう。
周りは簡単にできているように見えることが、どうして自分には難しいんだろうと思えるときがありますね。切なく、孤独だけれども共感される部分だと思いました。
以上、「いま一番欲しいもの」のかがみすと賞、次点の発表でした!たくさんの素敵なご投稿を、本当にありがとうございました。
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