集合住宅の上から数えて5番目の階。
あたりが暗く、眠りにつく中、私の部屋の煌々と光る電気は、外から見れば銀河を漂う宇宙船のように見えただろう。
私は、思春期のほとんどの時間を、ひとりきりでコックピットで過ごした、幼き操縦士だった。
◎ ◎
今から15年前。
近隣の小学校から区画で寄せ集められた、子どもとも大人ともつかない年齢の少年少女たちが集う、中学校という小さな社会。
どうしても馴染めなかった。
今であれば、わざわざ取り沙汰すまでもないと思えることが、あの頃の私には、それがきっかけで世界が崩れ落ちるとも思えるほど大きなことだった。
今であれば、取捨選択して付き合う人を選べる。でも当時の私には、声の大きな人や、関わりの中で生まれる微妙なイデオロギーによって形成されるスクールカーストは、絶対的なものだった。
自分の気持ちをごまかしながら、5日間を過ごしていた。初めは午前中だけ行って、次の日は5時間目だけ行って、その次は1日まるまる休む。
そんな具合で次第に教室から足が遠のき、最初は、眠ることができなかった。
徐々に、やっとの思いで一度眠ると起きられなくなった。完全に教育やコミュニティとは切り離された。
そうした日々を繰り返すことで、私の昼は夜になり、朝は夕暮れになった。
◎ ◎
毎日、日が暮れてから目が覚めると思った。
「あぁ、また今日も、果てしなく遠い朝を目指して、戦わなければならない」。
そう思うことは、まだいたいけな少女にとって、あまりにも絶望的で、つらいことだった。
0時になるまでは、まだテレビ番組もあって、家族や上下の住人の生活音もある。
世界が眠る時間になると、テレビは無機質なショッピング番組になり、私を置いて、周りの電気も音も消える。
永遠にも似た体感時間を前に、ひとりきりで濃い闇に漕ぎ出す。
丑三つ時になると、自分がたったひとり、この世界に取り残されたような心地がした。
なにもしなければ、風の音でさえ耳障りなほど静かな、深い暗闇がそこにあった。
私の慟哭も、叫びも、なにもかもがなかったことにされてしまう。そんな恐怖を覚えるような時間。
なんとかして、この世界にいるのは、私だけではないと確信を持ちたかった。
◎ ◎
ボソボソと会話し、たまに笑い声がマイクを叩くような、深夜ラジオが心の助けになった。
今は閉ざされてしまった、顔も名前もわからない人が、言葉を重ねていくインターネット掲示板。顔を知らない兄弟が何人もいたことは救いだった。
遠い過去の人が書き残した一冊の本。私がこの文章を読む瞬間を目指して、著者のペン先が動いて、今、私の手元にあるという実感を大切に抱きしめた。
斜向かいにある24時間営業のスーパーの明かりを、じっと眺め、深夜勤務の人影を見つけることで、安心した。
とにかく誰かと、つながりたかった。
いろんな方法で体温を感じたかった。
誰でもいいから、助けてほしかった。
気が遠くなるほどの時間、他者の存在を確かめ、息遣いを追っていると、徐々に窓の外が白みはじめる。
家族がよく眠っていることを確認して、夜が明けきらない、朝というにはまだ早過ぎる時間に、私はコックピットを飛び出して、近所の公園に自転車を走らせた。
◎ ◎
まだ草木が寝ぼけた顔をしているのを見ながら、ブランコに乗り、深呼吸をするのが好きだった。
教室の中はあんなにも息苦しくて、自分の身体が自分のものではないように感じられたのに、今ここで私の肺は、澄んだ空気を取り込み、喜んでいる。
ブランコから飛び降り、宇宙船の中で凝り固まった身体をゆっくりと伸ばす。
私は、生きている。そう感じる唯一の時間だった。
待ち侘びた朝陽に目を細める。まばゆい光を浴びて、やっと私はあくびをする。
今夜も無事に乗り越えられた。
暗闇に、飲み込まれなかった。
そんなふうに思って、布団に潜り込むあの朝の感覚を、久しぶりに思い出した。