「きょうだいってなんて残酷なんだろう」

私は3人きょうだいの一番上。
一つ下の弟と、さらに下に妹がいる。
生まれてから今日まで、生まれ持った才能のように、理想的な姉を生きてきた。

頭が悪いほうではなかった。放課後は部活に明け暮れた。合わない子はいたけれど、いつも一緒にいる友達も毎年いたし、スカートは1回しか折っていなかったから、先生にもそこそこ気に入られていた。
ど田舎のヤンキーだらけの中学から、街の進学高校に合格した。
一番ではなかったけれど、全部が初めての長女らしく、小学校で働く子ども好きの両親には、たくさんほめてもらって育った。

それでも世界が広がるにつれて人並みに、上には上がいることも学んだし、1日12時間の勉強をもってしても、行きたい大学にはいけないことだってあることも、身をもって知った。そんなことは当たり前だ。

家族の心配の中心は弟だった

ひとつ下の弟は、ずっと落ち着きがなかった。
小学校の頃はすぐに友達をぶつし、中学校では1時間座っていられなくて、高校に進んだころには週に2,3日しか1時間目に間に合う電車に乗らなくなった。三者面談は、弟だけ1学期に3回開催された。弟は家族の心配の中心にいた。

でも、頭が格段によかった。一度読んだ本の内容は、図鑑も、参考書も、ゲームの攻略本でさえ、全部暗記していた。県内屈指の進学校でも定期テストは常に10番以内だった。
それなのに、平日は学校に行かなかった。

さらにスポーツもできた。客間は私のではないトロフィーや盾であふれかえっていた。私が毎日吐くまで練習して、どうしても追いつけなかった剣道も、弟は中学卒業とともにあっさりやめた。

弟はいま、実家を出て東京の大学に通っている。私の志望校だった誰もが知る国立大学の合格通知書を捨てて、学費が3倍もする有名私立大学を選んだ。

1年早く就職活動が終わった私は、これまでに経験してきたように、やっぱり上には上がいて、どれだけ願ってもどれだけ準備をしても就きたい仕事には就けないこともあることを知った。

田舎の家族は誰も知らないけれど、日本の未来にとって重要だと感じた東京の会社に入ることを決めた。

私は弟がうらやましくてたまらない

この夏、就職活動を始めた弟は、私がのどから手が出るほど欲しかった、インターンシップの合格通知メールを手にして、「ここはインターンが内定に直結しないからな」なんてぼやいている。

きょうだいってなんて残酷なんだろう。

こんなに近くにいて、同じ親に育てられ、同じ習い事を同じ先生に教わる。

それでもこんなにも違う。
私は弟がうらやましくてたまらない。

母親や妹は、勉強がそこそこできる私をうらやましいという。
父親は、今から未来を決める私には、選択肢が多くてうらやましいという。
そんなことは当たり前だ。
だって、努力してきたもの。
だって、親が、みんなが、喜ぶ道を、私は選んできたんだから。当たり前だ。

私が働きたかった企業のインターンシップの様子を語る弟を前に、私はなぜか、どうしようもなく泣けてしまった。

高校最後の大事な大会で惜敗したときでさえ、自分が泣いたら周りが困ることはわかっていたから、面を外すまでに乾かしたはずなのに。
みんなの努力を讃えて、必死で励ます私の隣で号泣する仲間にも
「あなたって本当に泣かないよね」と言われてきたはずなのに。

試合で負けても、受験に失敗しても、進路がなかなか決まらなくても、バイトで怒鳴られても、彼氏にふられても、いつも自分の感情は後回しでいい、と思ってきた。

両親を余計なことで困らせたくない。
私よりも心配の種を抱えるきょうだいがまだ下にもいるから。

周りにいる私の大切な人たちに、余計な心配をかけたくない。
誰にとっても、私にかまうよりももっと大変で重要なことがあるのだから。

それなのに、なぜか涙が止まらなかった。


本当に困った母の顔が弟ではなく私に向けられたのを、私は初めて見た。
私の体の大部分を占めるこの暗い物体、いつかなくなる日はくるのだろうか。

来春から私は東京へ、また距離が近くなる

私は来年の春、弟が住む東京に行く。

また、弟との距離が近くなる。
家族が安心する道を選びたかった。
だから、自分の興味のままに学ぶ弟とは違って、結婚しても、子供を産んでも、どんな環境でも、どこでも働けるような資格が取れる分野を学んだ。

地元から近い街で働くことも考えた。
両親が歳をとって、祖父母にも本格的な介護が必要になるまでに、地元に帰ってくることも現実として考えている。

本当はそんなことを、誰も、取り立てては求めていないことは知っている。
でも、実は本当にそうなったら嬉しいと、家族も、親戚も、みんな思っていることも知っている。

ずっと近くにいるのはお互い気を遣うから、若い間は東京にでも行けばいいんじゃないと勧めたのは母だ。

たしかにそうかもしれないと思って、受ける企業を選んだ。
我ながら心配も安心も適度に与える、出来た長女だった。

どうしても周りが求めるように、周りの気持ちを汲んで、何でも選んでしまうけれど、それが私の喜びにもつながる。これは紛れもなく本心だ。

でも、もっと違う仕事をしてみたかったという思いもある。
就職活動ではたどり着けなかった、弟より誰よりすごい自分になれるのではないかと、
まだ見ぬ世界に、かすかな希望も持っている自分もいる。
そんな諦めの悪い感情に、完全に蓋をすることもできない中途半端な私。

きっとこの黒い塊はそう簡単にはなくならない。
周りの人がよろこぶ道を、無難に歩んでいく賢い長女でいることも、きっとずっとやめられない。

それでもお手本のような大学生活を過ごす

それでも私は、かすかな幻想と長女らしからぬ諦めの悪い感情を秘めながら、
長女らしくお手本のように残りの大学生活と、新しい生活への道を進んでいる。

生まれてこのかた弟に翻弄されて、
周りに流されてきたようにも見えるだろう。
周りの大切な人の思いも、誰も直接頼んでないかもしれないが、勝手に背負っている。

でもここまで得た土台とともに、
この生まれ持った長女という才能を保って、
これからも進んでいかないといけない。

ペンネーム:佳実

地方国立大4年生。専攻は建築。趣味は読書とSNS。目下の目標は肌質の改善と新生活のための貯金。
Instagramに載せてみた、重めの長文を友人に褒められて、物書きに興味を持つ。
最近パーマを当てました。セットの時間が削れるのに、お出かけみたいな髪型でうれしい日々。