三白眼で吊り目で奥二重の私の目。
写真を撮ると目つきの悪く鋭い一重に写ってしまう。鏡の向こうではミステリアスな三白眼に猫のようなアーモンドアイで綺麗な末広の奥二重。写真には撮られないそんな私の目。そんな奥二重が、吊り目が、嫌で仕方なかった。高校からは遊ぶときにはいつでもアイテープを使うようになった。それでも、アイテープは目立つし、バレることを気にしてしまう。それが恥ずかしくて仕方なかった。
何お前睨んでるんだ、と怒鳴られた
美容院に行くことは私にとってワクワクすることのひとつだ。しかし席に案内され出される雑誌たちに載っているアイシャドウ特集。組まれるのはいつも綺麗な二重の子達向けの特集。一重や奥二重はどうしたら? 瞼に厚みのある子のための特集は? 三白眼向けの特集は? 吊り目向けの特集は? そう感じる度に綺麗になりに来てるのに、と悔しいと思いをしてしまう。とても嫌で仕方なかった。
塾では、何お前睨んでるんだ、と怒鳴られたこともあった。ただ、黒板の問題を見つめているだけなのに、まじめに取り組んでいるのに。辛くて仕方なかった。そしてまた私の目には呪いがかかった。
大学生になり、バイトを始め、自分で自由に使えるお金が増えた。ある時ふと思った。もしかしたら、高いアイシャドウなら、と百貨店のカウンターに行った。初めて百貨店で自分のお金を出す、それは初めてのカウンター。このカウンターから始まるのだ。ドキドキとこれから綺麗になれるというワクワクでいっぱいだった。BAさんにタッチアップをされ、鏡を覗く。そこにはいつもの目よりも厚ぼったい、垢抜けない顔があった綺麗な目にはなれなかった。悲しくて仕方なかった。アイシャドウをつけても綺麗になれないのか、とコンプレックスは加速した。
街に溢れる平行二重の人、幅広の奥二重の人、タレ目の人。とても羨ましく思った。一重の人を見ても、ああきっとこの人も呪いにかかっているんだろう、と勝手に同情した。考えることはいつも一つ。綺麗な平行二重になりたい。呪いはとても強いものになっていた。
呪いをといたのは渡辺直美さんだった
そんな私のコンプレックスを無くしてくれたのは、BAさんでも、モデルさんでも、綺麗な女優さんでもない。渡辺直美さんだった。渡辺直美さんのメイクは私がBAさんから聞いた塗り方と違っていた。そして綺麗で何より自信にあふれていた。真似をしたい、と思い研究した。真似をしてみると綺麗なグラデーションで彩られた綺麗な目が出来た。鏡の向こうのわたしは輝いて見えた。それからはアイテープをやめた。
しかし、それでも平行二重のタレ目は永遠の憧れであった。たまたまYouTubeを流しっぱなしにしていたときのこと、いつのまにかK-POPの女の子たちが映っていた。綺麗な奥二重の子達、綺麗な一重の子達が顔を輝かせ、自信満々に踊り歌っている。一重でも、奥二重でもこんなに綺麗に輝けるんだ。それからの私にとって、奥二重は自信の一つになった。
なりたいときは一重っぽくも慣れるし、アイテープを使えば、印象を変えてぱっちりした目を作れる。彼女たちのメイクを研究していかに可愛くなるか、それが私の楽しみになった。そうなると、三白眼も吊り目もメイクで解消できることだと知った。全てが私を構成するもの、そして何もコンプレックスにならないものだと知った。
私にとってのコンプレックスは見事に、私の好きなところに、私の武器に昇華した。私は何にでも、どんな雰囲気にでも化けられる。これは誰もができることじゃない。楽しもう、三白眼を、吊り目を、奥二重を。そう思えるようになった。呪いを解くのは意外な出会いかもしれない。
ペンネーム:měi(24)
フェリス女学院文学部日本語日本文学科3年
大学で本質を学ぶことに楽しみを覚えて以来、様々な講義での発見を楽しみに生きている。女子大は「女子しかいない故に性から解き放たれ、一個人として正当に評価される」大学だ。文を書くことが好きで、ほしお先生の監修のもと、創作サークルである、フェリスOGと現役生で構成されている「ほしのたね」所属。