“うちらの何かが今日、解禁♡”
そうやってインスタにあげたプリクラも、もう7ヶ月前か。
あのレミオロメン先生が、瞳を閉じればまぶたの裏に誰かがいたという3月9日。(怖い話ではなく)。ああ、だからだ。街には花束をもった卒業生も多かった、2019年3月1日。

たしかあの日は、幼なじみのユウと2人でバイトだったかな。
日本国で就活をする全ての学生にとって、3月1日はオフィシャルの解禁日だと誰かが決めたらしく、もちろん21歳にもなれば大幅フライング気味の賢い出木杉くんや、一方まだスタート地点に到着してないヨチヨチヒヨコ組もいて、実にこの大運動会は選手も観客もフリースタイルな感じね、と察した解禁日初日の夜であった。

「ねえねえ、ユウちゃん。今日解禁日って知ってた?(笑)」
「え……。なに?うちらのなにが解禁するの…?(怖)」

真剣に眉をひそめ、おびえた顔でそういう彼女はもうすぐ22歳になる。
しばらくげらっげら笑っていた。そうそう、ユウがこんなこといったから、この時インスタに載せる題目が決まったのだ。
“うちらの何かが今日、解禁♡”
「ねえ、なんか解禁した?」
「待って、目つぶってみる」

やりたいことを聞かれると「ここはどこ・私はだれ状態」

あ~~こんな会話してた、してた。あれから7ヶ月? 大変恐ろしいです。
“やりたくないこと”は沢山あげられるのに、君がやりたいことは?と聞かれると、急に
地点は0を探して来た道を戻る。いわば ここはどこ・私はだれ状態。
もし君の寿命はせいぜい来年です。と分かっていたら絶対にやるだろうとハッキリしている願い事があったとして、それでもいつ死ぬか分からない故に何か素晴らしい理由を貼りつけては諦めることができてしまう、中途半端なお行儀の良さを身につけた、そんな21歳に思えた。私も、彼女も。

ヒヨコ組を背負っていたユウちゃんだが、それから5ヶ月ほどして めでたく保育園の先生になることが決定。大学は教育学部で、卒業すれば保育士の資格ももらえる彼女からすれば、夏が終わるまでに決まらなければ保育士。という流れはいたってノーマルに用意されていた想定内の選択だったのかもしれない。現にやはり、教育関連の大学に進んだ子で、それ故「先生」になっていく仲間たちがまわりには多かった。

バイト後は枝豆とヨーグルトでファミレスいりびたり

いつもバイトが終わった後は、199円の枝豆とヨーグルトで2時までファミレスにいりびたり、閉店ですよと言われてから朝までは自転車置き場であくびもせずに話し、太陽がのぼったら学校へ行く支度。
18歳の時から続いたこのスタイルは、今もなんら変わらない。
ただ、話す内容は「これからどうする」という壮大なテーマから「最近どう」という包まれた優しさに大きく変わっていった。

私に気を使ってか、彼女が保育士になることが決まってからは就活の話題はグンッと減り、“ユウの未来について”は聞きづらくなった。 

「いんすたぐらまーにでも、なろうかな笑」、そう言っていた頃のユウが、本当に選びたかった道が「先生」ではないことを、彼女自身が一番知っている、それが時折見えてしまうから触れられなかった。

21歳になったら“何か”にならなきゃいけないらしい

そういや ママはよく私に言っていた。
「なりたいものなんて、21歳で決まってたら うらやましい!」

でも、いざ21歳になったら“何か”にならなきゃいけないらしくて、
加えて「なんでなりたいのか」という正当な理由も画面に打ち込まなきゃならない。
“ヒーローになりたいです。”
と言えば、“なぜなりたいのか?”なんて質問をされるのだろう。

令和元年、地球を救うのにも志望動機は必要らしい。
黒のスーツは嫌。黒髮も嫌です。本当に大事なのは“挨拶・笑顔・姿勢”だもの! とか言っていたら、あっという間にどこからも合格通知は頂けないまま夏なんて越えていった。

「やりたいことを仕事にできる人なんて、そうそういない」
たしかに、そう言う大人たちもいた。
でも、「やりたいことを、やるのが一番」
そう、体に彫ってまで必死に思い出そうともがく大人もいた。(いわゆる“YOLO”です)

人生のパイセンが、「若いんだからね、まずは…」と教えてくれる声は あまりに方向があっちもこっちもありすぎて、全部参考になるし、ときどき全部参考にならない。笑
そうだそうだ、こういう時こそ脳みそをフル回転して自分で考えるのだ。自分のことなんだから。普段、なんのためにたくさん昼寝をしているんだか。

地球のドラマはいつだってぐねぐねにょろにょろ

いまさらだとしても時折、「今度は、ゆーちゅーばーになろうかな笑」なんて言っていたユウが恋しくなったりすることもある。いや、恋しい。
きっとYouTuberにもインスタグラマーにも、ユウはならなかった。
それでも、なんだか楽しそうに生きる人間を
ヒトはどこかの交差点で見つけ、そして好きになるのかもしれない。
ちょっと危険で、かなりファンタスティック。それに憧れるから
地球のドラマはいつだってぐねぐねにょろにょろ しているのだろう。

そういや、もうすぐハロウィンですね。
今年の時の人はやはり映画『アラジン』のプリンセス役、ジャスミンかな。
わたしの就活はまだまだ続きそうだけど、21歳のハロウィンは1回きりだしこの際、“内定がある人”にでも仮装してみるか。

少なくとも魔法の絨毯がみせた世界(“A Whole new world “)は、6畳の部屋より、渋谷交差点のほうが拝めるだろうから。

ペンネーム:がぶ

フェリス女学院。神奈川県小田原市育ち。大阪府出身。 ホラー映画大好き!アリアナヘアーに『エクソシスト』のTシャツを着て執筆してます 。
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