高校1年生だったわたしに初めてお化粧を教えてくれたのは、ヴィジュアル系バンドでした。
メイクで全く違う自分に変身できること、そして周りの目なんて気にしなくていいんだということを教えてくれました。
鏡に映るのは「さえないブスキャラ」
もともとは、小学5年生くらいから本格的に容姿のことで悩みはじめていました。思春期に近づくにつれて”かわいい”顔と自分の顔の差を意識するようになってきて、どうもわたしは美人ではないようだと気付いてしまいました。一重まぶたで出っ歯でメガネで眉毛がぼうぼうで、そばかすが顔中にあってほっぺたがぽっちゃりしていて、自分の顔は嫌いなところだらけでした。
当時毎月買って読んでいた少女漫画雑誌の中に、わたしが気にしている特徴がほぼすべて描きこまれた「さえないブスキャラ」が登場して、わたしってやっぱりブスなのか…とひどく落ち込んだ記憶があります。毎日祈るような気持ちで鏡をのぞきこみ、その度に落ち込んでいました。
V系バンドに衝撃!どはまり…!
中学2年生になって、V系バンドに本格的にはまりました。当時流行していたバンドのミュージックビデオをたまたま検索してみて、衝撃を受けたのです。
起きている間はずっとバンドのことを考えて毎日曲を聴いて、ライブやCDのために友達との買い食いも我慢して、メンバーがSNSになにか投稿するたびに胸が高鳴って…。そんな毎日でした。
わたしのお化粧の先生になってくれたのは、V系バンドのファンのお姉さん達。V系が好きな女の人は「バンギャル」と呼ばれていて(男の人ならバンギャル男)、真っ赤や真っ白といった原色の髪の毛とたくさんのピアスに濃~いメイク、さらにゴシックロリータなどの派手な洋服を身にまといます。わたしはそんなお姉さん達に猛烈に憧れていて、なんとかして近づきたいと、なけなしのお金で洋服やアクセサリーを集めたり、100円ショップの化粧品でひとりこそこそと化粧の練習をしたりしていました。その時覚えた派手なメイクがわたしのお化粧の「原体験」になったのでした。
別人のように変身!街でナンパも
そんなわたしにとって、もはや別人のように変身できる派手なメイクは、おおきな救いになったのです。
メイクを覚えてから、鏡を見て自分でも「ちょっといいかも」と思えるようになったり、一度だけ街でナンパをされたりなんかして、容姿に少し自信が持てるようになりました。とても良かった。
自分はこんなに違う見た目に変身できるんだ
でも、もっとも大切なおくりものは「自分の好きな格好を堂々としていいんだ」というはげましだったように感じます。当時は顔の横の髪の毛をかぐや姫のように直角にしたり真っ黒でフリフリのワンピースで着飾ったり、自分がヴィジュアル系の世界の一部になって、お姉さん達に少しずつ近づいていくのがたまらなく幸せでした。自分が奇異な格好をしていることは気付いていたけれど、そんなことは少しも重要じゃなくて、周りの目なんてどうでもいいと思ったのです。
厚いお化粧と派手な格好で容姿の悩みがばっちり解消されたわけではなくて、完全には隠せないそばかすに悩んでいたし、まるい顔の輪郭もかっこわるいなと感じていました。それでも、自分はこんなに違う見た目にも変身できるんだ、わたしの好きな格好を自由にしていいんだという思いがおおきな救いになって、いまでもその思いが無意識のうちに自分をまもってくれている感覚があります。
右耳に「ささやかな武装」してます
大学に入学してから数年がすぎ、もう当時のように目の周りをアイラインでぐるぐると囲ったり、真っ黒でふりふりの服を集めたりはしなくなりました。でもその代わりに、右耳の軟骨に開いた2つのピアスで、ささやかな「武装」をしているつもり。
右耳のピアスを思い出すと、背を伸ばして堂々と歩ける気がするんです。
ペンネーム:おまめぽん
哲学を学ぶ大学生です。なによりも刺身が好き。最近牧場でヤギにえさをあげようとしたら頭突きをされて、脚に大きな青たんができてしまいました。Twitter: @ft__pin11