私はスーツが嫌いだ。着心地が悪く、野暮ったく見え、個性もないくせにやたらと高価。でも日本の社会では欠かせない。そんなスーツが好きになれない。いや、スーツ自体ではなく、「私の着たいスーツ」を着させてくれない社会が嫌いなのか。それともこんな面倒臭い悩みを抱える自分に嫌気がさしているのか。
私は中学の制服がブレザーで、ワイシャツの上に赤いネクタイ、紺色のスカートにベストとジャケットで登校していた。私はベストとネクタイが好きだった。
ネクタイをつけるだけで背筋が自然と伸びて、ベストは一枚で私を洗練された人にしてくれる気がした。ネクタイのつやつやとした手触りと、フィットするベストが背中へ綺麗に沿う感覚が大好きだった。
男子の制服にはベストはなかった。軽く優越感を抱きながら毎日制服を身につけていた。夏服はネクタイを外し、ジャケットを脱ぐように指示された。どうしても外したくなかった私は、幾度か注意されつつもネクタイをつけたままで登校した。
黒のリクルートスーツ一択にうんざり
高校は制服がなく、私服で登校していたが不満はなかった。それも、大学の入試が始まると変わった。面接のある入試は「正装」で行かないといけない。つまり制服のない私はリクルートスーツを着ていかなければならなかった。
スーツ販売店へ行くと紺や灰色、ストライプ柄のものなど意外と種類があって幾らか気が晴れた。しかし販売員は黒の無地しか勧めてこない。「リクルートスーツといえばこれしかない」なんて、服を買うのにこんなにも他人に強制されたことは今までになかった。
動きづらい、可愛くもない、なのにいい値段はしやがる。なんなんだこの服は、こんな服頼まれても買いたくはない……。でも受験前でナーバスな時期に、まるでこれを買わなければ落ちるかのような言われよう。
結局買ってしまった。黒の無地のリクルートスーツ。着ると顔が一気に10歳は老ける。嫌いだ。もともと顔が派手だから余計に似合わない。私が着たいスーツはこんなんじゃない。でも受験のためには着なければ。
体にフィットするベストとオシャレができるネクタイ。洗練された印象を与えてくれるネイビーのストライプか、優しげで賢そうな印象のブラウン。そんなスーツを夢見ながら着る味気のないスーツほど辛いものはない。おかげで?無事大学には合格したが。
私らしさの出たスーツが着たい
私の入学する第一志望の大学は、自由な校風が特徴だ。独自性を本当に重んじるという姿勢がひしひしと伝わるような素敵な大学だ。4月にある大学の入学式に、私はどんなスーツを着て行こう、黒の無地はごめんだ。もっと私らしさが出たスーツが欲しい。
そこでまたぶち当たる壁。「ベストとネクタイは男のもの」という認識。レディースコーナーには絶対に意地でも置いていない。なぜ?
ネットで調べても女性用のベスト付きのスーツはまるでコスプレ扱いだ。私は男になりたいわけではない。女であることに自信と魅力を感じている。そしてスーツを着て何か性的な魅力をアピールしたいわけでもない。ただ自分に洗練された雰囲気を与えてくれるような、自分の好きな服を着たいだけだ。
こうなったら残されている道はオーダーメイドか? これはだいぶ高価だ。親への負担も考えなくてはならない。
そもそも私は入学式でそんなに目立つ格好を本当にしたいのか?なんて弱気な考えまで頭に浮かんでくる。着たいものは着たい、でも初日から「普通」に可愛い服ではない服を着て悪目立ちするのはごめんだ、、どこまでも優柔不断で自信のない自分に嫌気がさす。これで入学式までに納得するように心が決まるのか心配だ。
好きなものを着させてよ
ああもう面倒くさい。なんでこうも面倒くさいのだ。着たい服くらい着させてくれ。もう時代は令和だぞ? いつまで男女で着られる服と着られない服があるんだ? 私の着たいものはそんなに間違ってるの?
だれか教えて。そしてちゃんとした答えが出せないなら、私に道を譲って。余計な口は挟まずに好きなものを着させてよ。