私は今、大学三年生。
就活を「しなければいけない」。
なぜなら、就職しなければお金が稼げないから、周りの人に心配されるから、これから生きていけないから…。

どうしてこんなふうに、こう「しなければいけない」という強迫観念にとらわれるようになったのだろう。本当に就活は「しなければいけない」と思うほど、強迫的なものなのだろうか。したい人はすれば良い。したくない人ややりたい事が他にある人はもう少し学ぶ時間を取れば良い。いろんなレールがあると思えば、就活、就活!!なんて意気込んで、鼻息荒く、自分に嘘をついてまで就活をする必要なんてどこにもないんじゃないか?

安定して職につくために、今まで一生懸命にやっていた公務員試験の勉強を、私はやめた。「本当にやりたい事」を見つけるために、自分の心の底にある熱い思いと自らの行動を一つにして人生を自由に楽しむために、「しなければいけない」という考え方を捨てた。

急に捨てたわけじゃない。
急に変われたわけでもない。
今でも自分に、「本当は不安なんじゃないの?」って囁きかけるもう一人の自分がいる。
変わろうと決めたのは、
心に正直になろうと決めたのは、
大好きだった彼氏が「別れよう」と、急に言い出したからだ。

大学での学び、自分の生き方、好奇心を揃えた考えをする彼が羨ましかった

彼は医学生で、人体の神秘に、本当に興味を持っていた。勉強が楽しい、学ぶことが嬉しい、目を輝かせて、私にそう言っていた。

ある日、私は「なんで生きてるんだろう?って思わない?」と彼に聴いてみたことがあった。文学や教養を大学で学んでいた私はあらゆる国の文化や芸術、哲学、思想に触れ、確かに楽しかったし、学びに魅了されていたが、今ここにいる私がなぜ生きているのか?という問いの答えは全く手にできなかった。生きる目的のようなものが分からなかったし一番知りたいことでもあった。

「なんなんだろうね~まぁ今楽しければ良いんじゃない?」くらいの回答を期待していたのだけれど、彼はこう言った。
「僕は良いお医者さんになる事しか考えていないよ。なぜ生きているのかっていう問いは、考えた頃もあったけど、もう卒業したよ」
それだけ言って立ち去ってしまった。

大学での学びと、自分の生き方と、好奇心を全て揃えた考え方を持っている彼が羨ましかった。そんな彼に恋をしていた。

夢を追いかける素敵な人に恋をしているだけの私は卒業しよう

そんな私と彼との間に亀裂が入ったのは、生き方への情熱の差が原因だった。社会の流れや他人の評価を基準に、嫌だけど就活しなきゃならないからやってる私と、
興味のあることを楽しみながら学ぶ彼。
その差が次第に二人を遠ざけていった。

「別れよう。僕は学びたい事、追いかけたい夢がある。君のことが嫌いになったわけでも、他に好きな人ができたわけでもないけれど…」

そう告げられてから、私は自分を変えなければいけないと思った。レールから逸れるかもしれないけれど、やりたいことに向かう自分を許してあげて、やりたいことに向かう人生を、自分で作り上げなければいけないと思った。夢を追いかける素敵な人に恋をしているだけの私は卒業しようと思った。もっと自分に恋をしようと思った…。

悲しさと欠乏感でいっぱいだったけれど、それから一週間、心に正直になれるよう、小さい頃の自分から今の自分までを振り返って、好きな事と嫌いな事、興味のあるものとないものを紙に書いて人に話して、本を読んで、ネットで調べて、人の話を聴きに行って、とにかく行動した。

大好きなものを急に失ったことを思い出す瞬間は心が痛かったけれど、やりたいことに向かおうとする自分は以前よりも生き生きとしていて、前を向いていた。

恋人は、自分の憧れや情熱を取り戻すために存在しているのかも

別れ話は電話だったから、最後にもう一度会おうと言って私たちは最後のデートをすることになった。その時の私はもう自分のしたいことに向かおうと、不安だったけれど前向きだった。
彼には私が感じていたこと考えていること、全てを話した。そして、さようならを言って、これでお別れ…と思った時だった。

人混みに慣れていない方向音痴な私が、大都会東京で彼の後ろを歩いて
(待って…)と、ふと手を伸ばしたら
彼が手を握ってくれた。

角ばって冷たくて、何の確実なものを掴んでいない不安定な私の手を
少し大きくて力強く前に進む彼の手が
こっちだよ、と教えてくれた。

「僕たち、まだ大丈夫なのかな…」
不安げに彼が言った。
「一緒にいたい」と、はっきりと言葉にして伝えた時、私たちの間の深い亀裂は、ジワジワと元に戻っていった。

恋人、パートナーは、ただ「好きだよ」と言ってキスをしてハグをして遊びに行くだけの存在ではなくて、自分自身の憧れや情熱を取り戻すために存在しているのではないかと思った。そして、パートナーは自分自身を映す鏡のような存在でもあり、同じような強さで、前向きな思いを持った時、隣にいても自然な二人になれるのだと感じた。

「もう少し、一緒にいよう…」
一度決めたことは変えないという男のプライドを、少しすり減らして…
彼はもう一度私の手を強く握った。

「ありがとう」
気持ちを変えてくれたことよりも、私に生きる道を教えてくれたことに対して感謝の気持ちでいっぱいになった。

ありがとうと大好きで、心をいっぱいにして、これからも彼との関係が続き、やりたいを仕事にできますように。