2月21日公開『Red』は島本理生の小説を原作とした作品。今回公開に先駆けて鑑賞してきたので私なりに考えたことを綴ってみたいと思います。

一流商社で働く夫と可愛い娘、義理の両親と”何も問題のない生活”を送っている塔子は10年ぶりにかつて愛した男・鞍田に偶然再会してしまいます。そこから展開される3人の男との関係が変化していくに伴って、塔子の生き方も今までとは違うものになっていくのですがーーーーー。

©2020『Red』製作委員会

大人の不倫恋愛映画であると聞くと連想してしまうのは、リッチな官能シーンですよね。セックス抜きの不倫なんて不倫じゃない。

もちろん『Red』もご多分に漏れず、腰にくるような映像が目白押しで、色気が通奏低音のように流れている映画でした。君にどうしようもなく、はしたなく欲情しているんだ、と言いたげな鋭い目線で犯されながら見せ付けるように足を舐められる場面にはぞくぞくさせられます。

そんなエロスも魅力の一つなのですが、私が着目したのはそこではありません。

©2020『Red』製作委員会

主人公がうざい。説教してやりたくなってしまうほど

主人公、塔子のうざさです。

本当は何が欲しいのか、幸せとは何かなんてわからないけど世間で正解とされるカードは揃えた。でも全く満たされないし物足りない、という塔子の煮え切らなさに苛つきっぱなしの観賞でした。不自由ない暮らしをしているのとは裏腹に、名前のように塔に閉じ込められているような不自由さに同情しつつ、所在なさげに揺れる上目遣いの目線が不快です。「お前はいつまで自分の本音を押し殺して生きるんだ」と説教してやりたくなってしまうほど。

「自分が我慢していればうまくいくと思っていた」というセリフに現れる自己犠牲の精神、甘ったれてんじゃないよ。それはただの思考停止にすぎないし、相手に全責任を押し付ける何の主体性もない行為なんじゃない?

©2020『Red』製作委員会

女性が解放されるきっかけが不倫というのも気にくわない

息苦しい生活から逃れるように男との逢瀬に溺れるところも、弱さを体現しているようで歯痒い。身体も含めて向き合ってくる、かつて愛した男に揺さぶられて”自由に、美しくなっていく”様子を描いたとパンフレットに書いてあったのですが、我慢して自分を抑圧している女性が解放されるきっかけが不倫というのも気に食わないです。男に影響されすぎだろ。

完全に怒りのあまり罵ってしまいましたが、人が嫌悪するときは必ず奥底に違う感情が隠れています。自分の中の何が原因でこんなに心がざわつくのか。考えてみた時に、ふと思い当たることがありました。

主人公への怒りは共感の裏返しだった

塔子は、なりたくない私そのものだったんです。苛立ちは強い共感の裏返しで、私自身の私への縛りと怒りでした。

女ではなく、一人の確固たる人格を持った人間でいたい。自分の欲望に正直に自覚的に、欲しいと思ったものには全力で手を伸ばしたい。もしも何が欲しいかわからなければ、徹底的に自分を見つめ、導き出された結論に向かってまっすぐ歩いて行きたい。それをできるのが理想の私です。

私が自分を強く保とうとするのは、そうでもしないとすぐ流されてしまうからです。世間のこうあるべしという価値観と自分との間合いを測りながらも迷い、それでも自由でいたいのに、できない時があって不甲斐ない。かと思えばみんなが欲しいと思う、世間から正解とされているものを手に入れて安心したいと願う自分もいて、それを認められずにフラストレーションがたまる。

男に対するスタンスも塔子と同じで、男で変わってしまうこと、男に惑わされて引っ掻き回されることを好んでいるわけではないのに、好きな男に見透かされたら嬉しいと思うし、変わってしまうでしょう。全てを委ねてしまいたいと甘える時もあります。
塔子の女の部分を私は受け入れることができなかった。あまりにも自分と似ているから。

©2020『Red』製作委員会

彼女が自分を抑圧し、いい子でいるのは不安だからなのではないでしょうか。孤独が不安。選択が不安。何より、正解がない人生を自分で進んでいくのが不安。自分と欲望を叶えようとすることにも、常に自分自身であろうとすることにも、障害や世間との摩擦、葛藤がある。

それに加えて、女の役割が彼女の生きづらさに拍車をかけています。それは女としての私が抱えている苦悩と同義です。まずは母、妻、そして働く女性。私は私だと言い切れる強さがないと、いや、それがあっても、分裂せずに何重にも折り重なる世間からの要請に応えるのは容易ではない。自分を押さえつけることしか知らないのであれば、「私が我慢していればうまくいく」と思っても不思議ではありません。
しかしだからこそ、どんどん成長していく塔子の最後の選択には、新たな価値観を提示する希望や救いがありました。

塔子に自分を重ねる人、共感しない人。それぞれの人生のステージによって感じ方も様々だと思います。
でもシンパシーを感じるかどうかは些細な問題で、この映画は全ての人に「あなた自身の生き方を、幸せを自分で決断していますか?」と投げかけてきます。否応なく本音が引き出され、自分のかさぶたを引き剥がされるような作品でした。示唆に富む衝撃のラストに何か言いたくなること請け合いなので、人生を語り合いたい人と見に行くのがおすすめです。

◆映画あらすじ 

誰もがうらやむ夫、かわいい娘、“何も問題のない生活”を過ごしていた、はずだった塔子。
10年ぶりに、かつて愛した男・鞍田に再会する。
鞍田は、ずっと行き場のなかった塔子の気持ちを、少しずつ、少しずつほどいていく…。
しかし、鞍田には“秘密”があった。
現在と過去が交錯しながら向かう先の、誰も想像しなかった塔子の“決断”とは――

©2020『Red』製作委員会

◆映画情報 『Red』 2月 21 日(金)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
■キャスト 夏帆 妻夫木聡 柄本佑 間宮祥太朗 

スタッフ 監督:三島有紀子 原作:島本理生『Red』(中公文庫) 脚本:池田千尋 三島有紀子 音楽:田中拓人

©2020 映画Red製作委員会