※『ピュア』(小野美由紀/早川書房)のネタバレを含みます

私だ、と思った。
「ピュア」を初めて読んだとき、主人公と、価値観や恋愛観が一緒だと思ったのだ。

好きな人を食べたい、と思うのは変だろうか。顔や性格じゃなくて、とにかくその命を愛したいと思うのは変だろうか。きっと、変なのだと思う。私のこの恋愛観はなんとなく、世の中的にタブーなのだろうと思う。「宇宙規模に重たい女だね」と言ってくる人達の笑い声が、あまりいいニュアンスの笑い声でないことに気が付いてから、私は自分の恋愛観をあまり話さなくなった。誰にも話さずに、自分を生涯孤独の地球外生物だと思いながら生きていけば、変わり者として生きていけば楽だから。

「ピュア」を読むまで、私の考えはタブーだと思っていた

言っちゃいけないと思っていたこと、言うなと封じられたこと、恥ずかしいこと、恥ずかしがらなくちゃいけないこと、考えることすらいけないと思っていた、タブーだと思い込んでいた価値観。「ピュア」は、そのひとつひとつを丸裸にしていく。あなたの考えはタブーなんかじゃなくて、あなたは変わり者なんかじゃなくて、あなたはあなたなんだよ、と。

みんな独りなんだから、自分だけが孤独だとか自惚れてんじゃねぇ、と「ピュア」に叱られた気もした。この本からもらえる赦しと、励ましの供給量が私の予想の範疇をはるかに超え、清々しいほどに軽やかだった。作者の小野さんも、そんな方だった。なんか…なんか…とつまずきながら本の感想を話す私に、小野さんは「重たい女、最高」と笑いながら聞いて下さった。その笑い声はけっして嫌なものではなくて、とても温かかった。

どんな質問にも爽やかな豪速球で返す小野さん

「ピュア」の読書会は本の感想から徐々に話が広がっていき、かがみすとから小野さんへの質問会になっていった。職場でのハラスメント、大学サークルでの性差別。かがみすとの方々は自分の体験談を踏まえながら、世の中の疑問や自分の意見を小野さんにどんどん投げる。小野さんはそれら全てを爽やかな豪速球で返していた。

「私はこう思っているんだよ」と軽やかに、けれど確かな質量を持って発される小野さんの言葉。大好きだ、と思った。もし私が「ピュア」の主人公なら、たぶん小野さんのこと食べてるな。いや、でも、大好きだからちょっとだけ食べて残りは大切に額縁に飾るかな。なんてふと考えたけど、気持ち悪がられそうなので言わなかった。

「まだ18歳だし」と甘えている自分にも心底イライラした

かがみすとと小野さんが胸アツなキャッチボールを繰り広げている中、私は口を閉ざし、またもや地球外生物になろうとしていた。ノースキル、ノーキャリア、ノーダーリン。社会やジェンダーやセクシュアリティの問題について話したい事は山ほどあるけれど、きっとこんな小娘の言葉は誰も必要としないだろう。だって、まだ18歳だし。大人の社会のことに口を出すのはタブーだろう。だって、まだ学生だし。わかってもらえないだろう、必要とされないだろうという前提に甘えて、安心しきっている自分の弱さに心底イライラした。

私は「ピュア」からたくさんの事を学んだんじゃないのか。たくさん励まされたんじゃないのか。なんの為に私はここにいる。悔しくて、でもこのまま終わるわけにはいかなくて、私は最後の最後に「社会経験の少ない自分が話してもいいのかどうか、勇気が出なかった」と言い訳紛いの本音を吐いた。

すると「どうぞ自身の経験から話して下さい」という小野さんの言葉。こんなこと、はじめて言われた。甘えるな、と背中を押されたような気がした。驚いて、嬉しくて、大好きで泣きそうだった。いつか小野さんにお会い出来た時、ちょっとだけ食べたいです、なんて言ったら笑って下さるだろうか。

もう地球外生物のフリはしたくない、私は私の言葉をここで紡ぐ。