「ピュア」の中に自分的ベストな関係性を見つけた
【05】小野美由紀さん×かがみすと
※早川書房よりご恵贈いただきました。 4月16日に発売された作家・小野美由紀さんの短編小説集『ピュア』。「出産するためには女が男を食べなければいけない」という異様な世界を描きながらも、現代と通底するテーマは「性別によって役割が固定された社会での、女の(あるいは男の)生きづらさ」です。かがみよかがみでは、著者の小野美由紀さんを招いて、読書会を開催。参加したかがみすとの感想を紹介します。
※早川書房よりご恵贈いただきました。 4月16日に発売された作家・小野美由紀さんの短編小説集『ピュア』。「出産するためには女が男を食べなければいけない」という異様な世界を描きながらも、現代と通底するテーマは「性別によって役割が固定された社会での、女の(あるいは男の)生きづらさ」です。かがみよかがみでは、著者の小野美由紀さんを招いて、読書会を開催。参加したかがみすとの感想を紹介します。
※『ピュア』(小野美由紀/早川書房)のネタバレを含みます
自分的ベスト関係性は「バースデー」のひかりとちえだ!!と、オンライン読書会の前、「ピュア」を一気読みして一人興奮しました。この二人、見た目は高校生のはずだけど中身は人生3周くらいしてる気がする。いや、絶対してる。限りなく仏に近い。他人との折り合いのつけ方をここまでマスターしている高校生、すごすぎる。
ひかりはちえが性転換手術を受けた後、「私、差別主義者でもないし、そういうことに偏見とかないって自分では思ってたのにね。」(p.69)と、普通なら気付かないふりをするようなマイナスの感情さえ正直に語っている(逆に、二人の周りで騒いでいた女の子たちは、自分たちは偏見を持っていないと思っていそう)。
ひかりはそういう気持ちがあることを認めた上で、改めてちえに向き合って、二人はブルーシャトーに足を踏み出す。ラストは「お互いに別々の宇宙服を着たまま、しっかりと手を繋いでいたのだった。」(p.113)で締められる。この締め、最高だと思う。
人には身体の境界線も心の境界線もある。仲が良くてもいくら好きでも、すべての線が溶け合ってお互いを完璧に理解できるなんてことはない(「To the Moon」ならできるけど)。
男と女も、女と女も、性別が同じでも違っても、恋人でも家族でも、どこまでいっても他人は他人で別々で、一生交わることはないから対話をして少しでも近づく努力をする。その上でちえとひかりの二人は、別々の個を保ちながら手を握り合う。これ、関係を築くうえで超大切だと思うけど、めちゃくちゃ難しいです。
特に恋愛でもなんでも人と深い関係を築こうとすると、相手に自分の理想(幻想)を押し付けて、対話せず、独り相撲した挙句土俵際でもみくちゃになって勝手にキレたり(一人で)、お互いマブダチテレパシーでわかると高をくくっていたら全くそんなことはなかったりした経験がある人もいると思う。(私はある)
この話はそういう自分対他人との究極形で、わかってるはずだった人が普通に全然わからない人だった、でもわからないことはわかったから、逃げたり笑いものにしてみたりするんじゃなくて、しっかり向き合って対話したうえで新しい関係にチャレンジしてみる!(そしてブルーシャトーへ…)という、他人との関わり方で一番難しいけど一番かっこいい選択肢だと思う。
実際に読書会で、小野先生の「自分と違う価値観、自分と違う世界にいそうな人に恐れを抱く感情は誰にでもある。関わったことのない人に触れた時どうやって受け入れて、どうやって新しい関係を築いていくのか考えたかった」という言葉を聞いた時、やっぱりひかりとちえの関係性は、その折り合いのつけ方が自分的理想形だと思った。
この関係性の話もそうだけど、読書会ではみんなの話から「ピュア」に通じる断片みたいなものが見えた。私はバースデーに共感した人だけど、幻胎や他のエピソードに共感した人もいた。それぞれがどの物語と通じたかは違うけど、「ピュア」には現代を生きる私たちの、どこかの体験を抽出したものが内包されている気がする。だから共感が生まれて、今が逆に照らされる。「ピュア」は、私たちが抱えているものを、いつか私たち自身で崩すために、その輪郭を明確にしてくれていると思う。
ちなみに、関係性ではひかりとちえが大好き、というか尊敬だけど、登場人物個人では、「エイジ」の芹沢さんが一番好きです(読書会の時「芹沢さんが27歳まで生き残ってて私が女なら絶対食べます!」と強く言い切った)。芹沢さんのどうしようもなくあの時代にはそぐわなかった人間らしさ(弱さ?)、人間としての強さが本当に愛しい!芹沢さん、あなたのこと書いたら多分記事がもう一本できる。大好きです。(最後が芹沢さんへの愛の告白になるとは思わなかった…)
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