みなさんは児童相談所について、どのようなイメージを持っていますか? 児童相談所は、子どもたちが心身ともに健やかに育つように子どもや家族を援助し、問題を解決していく専門の相談機関です。AKB48の峯岸みなみさんが千葉市児童相談所を訪れ、同世代の職員3人と「児童相談所で働く」をテーマに語り合いました。(以下、敬称略)

峯岸「見学させてもらうと雰囲気もアットホームで驚きました」

―― 峯岸さん、児童相談所を見学してみてどのような印象を持ちましたか?

峯岸:子どもに関する相談の窓口だということはなんとなくわかっていましたが、無機質なイメージが強かったですね。実際に見学させてもらうと雰囲気もアットホームで驚きました。

けい:一般の人が児童相談所を訪れることはほとんどないので、ニュースや映画のイメージに引っ張られて無機質に感じられている人がいるんでしょうね。だから峯岸さんから、実際に見学して印象が変わったという言葉をもらえて、すごくうれしいです。峯岸さん自身は子どもや子育てについてどんなイメージを持っていますか?

峯岸:小さい子どもが大好きで、友人の子どもに会ったときもよく遊び相手になっています。でも、子どもを産んで育てるとなると、どんなに好きでも子育てを投げ出したくなることがあるんじゃないかと思います。友人からいろいろな話を聞くと、やっぱり子育てはしんどいんだなって思うこともあります。ママになっても毎日子どもに優しく正しく接することができるという100パーセントの自信はないですね。普通のママたちにも児童相談所のサポートはあるのですか?

あすか:児童相談所といえば子どもの重たい虐待に対応しているイメージが強いと思いますが、育児相談に幅広く応じてもいます。どの保護者も、多かれ少なかれ自分の育児や子どもの発達などに不安を持っているなって感じてます。

峯岸:日常的な育児の悩み相談と虐待や育児放棄などの深刻な相談では、どちらの割合が多いですか?

けい:相談の割合でいえば半々です。ただ、一般的な感覚では「児童相談所に連絡する」というハードルは高いので、日常的な育児の悩みといっても精神的に追い詰められている場合が少なくないですね。

峯岸:私たちはもっと気軽に児童相談所に電話をかけてもいいですか?

あすか:はい。例えば、最近は育児への不安があっても誰にも相談できずにいる保護者がいます。どんなに些細(ささい)なことでもいいので相談してほしいですね。困りごとが小さいうちに私たちがサポートすることで、深刻な虐待に至ることを防げるかもしれないからです。

峯岸:育児に悩む人たち全員の悩みを解決してあげたいけど現実的には難しい――。そういうジレンマにどう向き合っていますか?

しゅんや:担当ケース数が多いので、緊急性に応じて優先順位をつけなくちゃいけないのが現実です。児童相談所に届いた声に対して一つずつ向き合っていくしかないのかなと思います。

峯岸:私たちアイドルもすべてのファンを満足させることはできないけれど、私の力を必要としてくれているファンの方々を一人ずつでも幸せにできたらと思っています。どの職業にもいえることかもしれませんね。

けい「相談者のモヤモヤを解消できたときうれしくなります」

――仕事のやりがいって何ですか?

峯岸:AKB48卒業前の最後のオンライン握手会でファンの方から「みーちゃんは自分の青春でした」と声を掛けられました。私の存在がその人の人生を一時期でも彩ることができたと感じ、アイドルになってよかったと思いました。

けい:私は児童相談員という仕事なので、相談に来てくれた方の不安や悩みを受け止め、共感しながらお話をするなかで、相手がほっとしたりすっきりしたりした表情に変わったときは、モヤモヤを少しでも解消できるお手伝いができたのかなとうれしくなります。

しゅんや:私たちの関わりをきっかけに家族のなかで何かがよい方向に動き始めて、保護者から「児童相談所のサポートはもう必要ないです」という言葉を聞いたときには、よかったなってやりがいを感じます。

気持ちを自由に表現できない子どもには箱庭を作ってもらうことで、心理担当職員が心を読み解く=千葉市児童相談所

しゅんや「子どもが家庭に戻るための話し合いも私たちの仕事」

――みなさんは峯岸さんにどのような印象を持たれましたか?

あすか:私は歌番組が好きなのでAKB48もめちゃくちゃ見ていました。すごくキラキラしているイメージで遠い存在だと思っていたけど、今日、私たちの仕事のことをきちんと知りたいという思いが伝わってきて身近に感じることができました。

峯岸:私も児童相談所のイメージがものすごく変わりました。知らないものには壁を作っちゃうし、近寄りがたいじゃないですか。こうやって会ってお話をしてお互いの理解を深めることが大切ですね。

けい:児童相談所は子どもを「一時保護」したら終わりではありません。子どもが家庭に戻るにはどうしたらいいのか考えていくことが重要です。家族の再スタートを手助けすることも私たちの大事な仕事の一つです。

峯岸:つまずいたとき、周りの人がダメな自分を受け入れて励ましてくれる環境がなかったら、再スタートを切るのはとても難しいですよね。だから、児童相談所のように手を差し伸べてくれる場所があると、子どもはもちろん、子育てにつまずいてしまったお父さんやお母さんたちにとってもありがたいですね。何が悪かったのか、自分を責めている親も多いと思うので……。

児童相談所に併設された「一時保護所」の子どもたちが運動のために利用する多目的室=千葉市児童相談所

しゅんや:法律に従って子どもの安全を最優先し、「一時保護」をします。けれど好き好んで子どもを託す保護者はいません。子どもが家庭に戻るための話し合いも、保護者と児童相談所の関係がマイナスの状態から始めなければならないので難しい仕事の一つです。

峯岸:そういう中で心がけていることは何ですか?

しゅんや:峯岸さんも言われていたように、保護者自身、子育てがうまくいかなかったことはわかっているかもしれません。最初に、子どもにとって危ない状況をどうして作り出してしまったのかを聞きます。保護者の言い分を受け止めたうえで、よい対応についてはねぎらいの言葉をかけて続けるように励まし、見過ごせない対応については直してもらうよう丁寧に伝えます。

峯岸:親子の絆を結ぶ糸のような存在になっているんですね。神経をすり減らす大変な仕事ですが、とても重要な役割を担っていることを改めて感じました。

あすか「子どもの笑顔やうれしい報告が仕事の原動力」

――みなさんのエネルギーの源は何ですか?

けい:私たちの援助を必要としなくなり、自分で羽ばたいていくときに手紙をくれた子どもがいました。その手紙のなかに、私に話を聞いてもらえてよかったということが書かれていました。この手紙にはとてもエネルギーをもらえました。児童相談所に配属されて1年目の出来事ですが、今でも鮮明に覚えています。

あすか:私も子どもとのかかわりのなかで、その子の笑顔がみられるのが一番うれしいですね。「こんなことがあったよ」とたくさん報告してくれることも、この仕事を続けられる原動力になっています。

児童福祉司と保護者が話している間、児童心理司と遊戯療法をする部屋=千葉市児童相談所

しゅんや:保護者による子どもへの世話が行き届かず、散らかった部屋の中でスマホ片手に一日中過ごしていた子どもを保護したことがあります。施設に移って学校に通うようになると読み書きができるようになり、メキメキと成長して表情が明るくなっていきました。その姿を見たとき、ジーンときました。また、子どもへのかかわり方について保護者が気づいてくれたり、考え方を変えたりしてくれたことで家庭環境が好転し、保護者がそのよい流れを実感してくれたときも仕事へのモチベーションが高まります。

峯岸:一度でもいいから相手との心のキャッチボールがあると、「あの笑顔がまた見たい」と頑張れますよね。

児童相談所に併設されている「一時保護所」の子どもたちがつくった俳句=千葉市児童相談所

峯岸「児童相談所で働きたい人が増えたらうれしい」

――中高生や大学生など若い世代に向けてメッセージをお願いします。

けい:子どもの未来を形づくるのが児童相談所の仕事です。これほど子どもや保護者と向き合える仕事は他にはないと思いますので、ぜひ多くの人に関心を持ってほしいと思います。

あすか:なかなか思ったようにサポートすることができないこともありますが、家族に寄り添いながら働くこの仕事にはすごくやりがいを感じています。職員同士も、お互いの大変さをよく理解しているからとても仲がいいのです。チームで支え合って仕事ができる環境があるので、若い人たちに児童相談所で働いてみたいと考えてもらえたらとてもうれしいです。

しゅんや:実際に働いてみて日々の仕事を味わってみないことには、リアリティーを持って感じられないところもあります。学生時代にこの仕事を体験する機会があれば、ぜひトライして、大変なことも楽しいこともどちらも味わってほしいです。

――峯岸さん、今日の感想はいかがですか?

峯岸:長澤まさみさん主演の映画「MOTHREマザー」を見たときに、家庭に問題を抱える子どもが世の中にはたくさんいるのだと感じ、その子たちのために何ができるのか本気で考えた時期がありました。でも、そのときは、何をすればいいのかわかりませんでした……。私のように映画を見て同じような思いを持った人は他にもいるはずです。この座談会の記事を読んで、児童相談所で働くことが自分のやりたいことなのかもしれないと目標設定をしてくれたらすごくうれしいです。

AKB48 峯岸みなみさんがナビゲート!「知りたい、聞きたい 児相のしごと」

千葉市児童相談所 桐岡真佐子所長のメッセージ

実習や見学をきっかけにぜひチャレンジして

千葉市児童相談所は年間6000件余りの相談があり、現在、常勤職員89人、非常勤職員75人で対応しています。多様な案件に対して様々な視点から専門性に基づいたアセスメントを行い、支援方針が立てられるよう多職種によるチームでの援助を基本としています。そのため、児童相談員、児童福祉司、児童心理司といった職員から、医師、保健師、弁護士といった(非常勤を含む)専門職、併設された一時保護所で子どもたちの世話をする保育士、児童指導員、栄養士、調理師など10を超える職種の人たちが在籍しています。

虐待に関する相談は年々増加しており、保護者とのぶつかり合いのほか、子どもと家庭にとって最善な支援の方向が何かといったことに悩むことも多く、職員の負担は小さくありません。こうした状況のなか、特に若い職員が燃え尽きないように働く環境やサポート体制の整備にも力を入れています。仲間同士の支え合いを重視し、グループリーダーが若手や初心者を常にサポートするような体制を敷いています。また、支援方針は所長が出席する会議で決定することとし、判断については所長が決定責任を持つ体制をとり、若い職員の精神的負担を軽減し、自分一人で抱え込むことを防いでいます。

子どもの声なき声に耳を傾けて、その人権を守る児童相談所は社会の中で欠かせない機関です。私自身も、未来の日本を支えていくことにつながる、価値と意義がある仕事だと感じて、取り組んでいます。残念に思うのは、社会では児童相談所全体の仕事の一部しか知られていないこと、イメージの偏りがあることです。

私たちは、千葉市内にある福祉系大学との交流の取り組みとして、学生の見学や実習、一時保護所での非常勤職員の受け入れなどを積極的に行っています。そこから実際に就職してくれた方もいます。ここでの業務の実際を知ることで、イメージも変わったと話してくれました。若い方たちには、児童相談所の仕事をより知っていただき、ぜひその一員になることにもチャレンジしてほしいと願っています。

全国の児童相談所の連絡先を知りたい方へ【厚生労働省】

千葉市児童相談所について知りたい方へ【千葉市】