『あと、これで男だったらよかったのにな』
これは私が入社した三週間後に言われた、今でも心に刺さっている一言である。
長年の夢を叶えて調理師になった私。朝から夜遅くまで熱血の仕事ぶりで働いていた
2年前、私は長年の夢だった調理師という職業に就くことができた。昔から自分のやりたいことがあると一直線になるタイプだったので、料理のことになると頑張るのが苦ではなかった。その為、専門学校では同年代の男の子よりも成績が良かったし、先生から褒められることも多かった。
就職は「行きたい!」と思ったところから内定が貰えて、とても嬉しかった。
行きたいところに就職できたのだから朝はみんなより早く行き、夜は最後まで残って毎日色々なことを勉強させてもらっていた。サービス残業なんて当たり前!教えてもらってるんだから!!と、いわゆる熱血タイプのような仕事ぶりだったと思う。その為、職場の人には少しずつ褒められるようになっていき、面倒を見てくれる上司ともとても仲良くなれた。
『男だったらよかったのにな!』上司の言葉で〈女〉に見られないように振舞った
しかし、事件が起きたのだ。
上司と帰り道が途中まで同じだったので一緒に帰っていた。いつも通り料理について語ったり、これからの仕事について教わったりしていたのだが、改札前で
『お前はやる気があって飲み込みが早くて、とても助かるよ。これで男だったらよかったのにな!』と笑顔で言われた。グサッと心を刺される音がした。本人は褒めてくれたつもりだろうが、私の中では最後の言葉しか残らなかった。
性別は産まれる時に決められない。
自分がどんなに頑張っても、その人の中にある〈女〉という固定概念は変わらないのだ。
その日から私は女に見られないように振舞った。かわいい服を職場に着て行かなくなった。髪の毛を短く切った。そして、嘘をつくようになった。
女は結婚していつかいなくなると言われたら結婚しないと答え、女の子はこういうの好きでしょ?といわれたら私はあんまり女の子っぽいのは苦手で...と答えるようになった。
しかし、本当は嫌で嫌で仕方がなかった。
たとえ否定されたとしても私は私。わたし自身をみてもらう為に、私は今日も戦う
だから私は考え方を変えた。女だからと否定されても、だからなんだ。私は私だと思うようにした。性別は変えられない。人の固定概念も変えることは難しい。だから私は今日も戦う。わたし自身を見てもらう為に。
たとえ否定されたとしても私は私。性別は産まれる時に決められないし、生まれてからも完全に変えることなんてできないのだ。だからこそ自分に正直に、自分に自信を持って生きて行きたい。それが私の新しい戦い方なのだ。
この考え方を持ってから、少しだけ背筋が伸びたような気持ちになれる。だから、今いろんな固定概念に苦戦したり、本当の自分の気持ちを隠して、押しつぶして頑張っている人に私は言いたい。
『わたしはわたし。貴方はあなたなのだから、無理して気持ちを潰す必要はない』
もっと自分も好きになれる戦いかたがあるはずなのだ。私の戦いはいつ終わるのかわからないが、それでも私は自分が納得するまで戦い続けるだろう。