私は、私の髪が嫌いだった。太くかたく量が多く、うねりのあるくせっ毛。まるで、頑固で融通のきかない性格をそのまま表しているかのようで、鏡で見る度にため息が出た。

流行りのアイドルに憧れてばっさりショートにしたところ、文字通り爆発したようになってしまった小学生。友だちの何倍かあるポニーテールの束が重く、やぼったく感じた中学生。早起きしてヘアアレンジに四苦八苦した高校生。さらさらロングに憧れ、ストレートパーマより強力で当時まだ高価だった縮毛矯正をかけ続けた大学生。

せめて軽やかに見えるようにとカラーリングにこだわったこともある。その影響か、数年もすると傷みが激しくなってしまった。そうこうしてるうちに、ポツポツと生えてきた若白髪。今度はそれを隠さねばという切迫感のようなものに襲われた。私は、いつもいつも髪のことばかり考えていた。

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20代半ば、結婚し引っ越したことによりこれまでの美容院へは通えなくなった。私にとって美容院は「ただ長さを短くして量を減らしてもらう場所」でしかなかったので、正直どこでもよく、とりあえず新居の近くの美容院を予約した。当日、どうせ何か希望できるような髪ではないのだから、とオーダーの参考として店内に置いてあるヘアカタログには目もくれず、ただ鏡の中の自分をいまいましく見つめていた。

やがて「どうせ結んでしまうので、とりあえず切ってもらえれば」と自虐的に言う私に、にっこり笑う美容師さん。「どんな髪型にしたいですか?」。私がしたい髪型、そんなこと言ってもいいのだろうか⋯その髪では無理だと苦笑されるのではないか⋯。おそるおそる、ボブにしてみたいこと、でも私の髪ではまとまらずうまくいかないと諦めていることを話してみた。

その美容師さんは「大丈夫、任せてください」ともう一度にっこり。そして、これまでの私の髪遍歴をていねいに聞きながら、シャンプーやカットを進めてくれた。自分の悩みを、誰かがこんなにていねいにきいてくれたことはなかった。カットが進むにつれ、私は心が軽くなっていくような、期待にあふれた気持ちになっていった。そして数時間後、ずっと思い描いていた、心の奥底で憧れつつも諦めていた髪型をした私が鏡にうつっていた。

すきすぎずに広がりを抑える程度に量は減り、くせを活かしたカットとセットで自然にふわっとカールしたような、軽やかなボブ。これが私なの?本当に?パッと明るくなった私の顔を見て、美容師さんはまたにっこりして「欠点だと思うものは、隠すよりも活かす方がすてきですよ」と笑った。美容師さんのその言葉で、私は私の髪を受け入れてあげられた気がした。もしかしたら、髪以外の何かも。帰り道、髪と同じように足取りも軽やかだったのを今でもよく覚えている。

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あれから20年。白髪も増えたが、数年前からは染めるのをやめた。ところどころある白い束はまるでインナーカラーのようで、むしろおしゃれに見える気がしている。今後はグレーヘアになっていくのが楽しみだ。縮毛矯正やパーマ、カラーリングをせず、自然に任せているおかげか、傷みもいくぶん減ったように思う。そして、今もその美容師さんにはお世話になっている。