伊藤詩織さん×石川優実さん「批判してくる人との対話を諦めたくない」
日本での#MeTooの火付け役となった伊藤詩織さん、#KuTooの発起人である石川優実さん。「かがみよかがみ」の裏テーマでもある「私は変わらない。社会を変える」を実践するお二人。今回、朝日新聞夕刊「女子組」で初の対談が実現。特に印象的だったのは「対話を諦めない」という言葉でした。お二人が言う「対話」とは、そして後輩世代に送る言葉を聞いてきました。
日本での#MeTooの火付け役となった伊藤詩織さん、#KuTooの発起人である石川優実さん。「かがみよかがみ」の裏テーマでもある「私は変わらない。社会を変える」を実践するお二人。今回、朝日新聞夕刊「女子組」で初の対談が実現。特に印象的だったのは「対話を諦めない」という言葉でした。お二人が言う「対話」とは、そして後輩世代に送る言葉を聞いてきました。
――伊藤さんがご経験されたという、講演中の質疑応答での話が印象に残っています。「伊藤さんの発言は虚偽なのではないか」と意見する男性がいて、会場がブーイングに包まれたと。それに対し、伊藤さんは「その男性と対話をしたかった」と言っていたのに驚きました。
伊藤詩織さん(以下伊藤):私の中にある真実をきちんと伝えても、批判してくる人は当然います。それはある意味仕方のないことだと思っています。ただ、お互いに否定しあうだけじゃなくて、そう思う背景に何があるのかを知ることができたら、同意はできなくても、批判し合うことを避けることはできるのかなと思うんです。そのために必要なのは対話だと考えています。
――なぜ「対話」にこだわるのでしょうか。「わかる人だけわかればいい」あるいは「なんで私が説明しなきゃいけないんだろう」とはなりませんか…?
伊藤:それは、私が当事者っていうのもありますし、自分が「ジャーナリスト」という伝える仕事をしているというのも関係しているかもしれません。
石川優実さん(以下石川):「批判してくる人との対話を諦めたくない」というのは、私も同じです。クソリプをぶつけてくる方が、どんな方なのか知りたい。
ある意味でそういう人たちも被害者と思うんです。今の社会にも責任があるんじゃないかって思うんですよね。例えば「ちょっと変わったことをする人は叩いてもいい」「いじめは隠蔽してもいい」……。そう考えてしまう人もいるんじゃないでしょうか。
そう思うと、私はクソリプする側の気持ちもわかるんです。むしろ、過去の私と一緒だと思うこともあります。
でも、私はフェミニズムに救われた。今まで我慢しないといけないと思っていたことは、変わるべきものだと知ることができたからです。変わることで、私も私のまわりも救うことができた。だから、私はフェミニズムを広めていきたいと思っているんです。
例えば、#KuTooの問題も「それくらい我慢しろよ」と思う人もいるかもしれない。だけど、#KuTooのその先には、男性の服装の解放もきっとあると思うんです。フェミニズムが与えてくれるものは、女性の解放だけじゃなく、選択肢を増やすことで全ての人がより幸せになれる世界だと私は思っています。
――「フェミニスト」と呼ばれることを嫌がる人もいます。お二人はどうお考えですか。
石川:私がツイッターのプロフィールで「フェミニスト」と名乗るようになったのは2018年の半ばくらい。まだまだ浅いですが、名乗ることで守られているなと感じることの方が多いですね。現実世界でセクハラ・パワハラする人が寄ってこなくなりました。いい盾になっています(笑)。
よく「フェミニストじゃないんだけど~」と挟んでから発言される方いらっしゃいますけど、その言葉に続く言葉はだいたい「フェミニスト」としての発言。なんで、フェミニストを名乗るのがいやなんでしょうかね?
伊藤:日本の中に良いイメージのロールモデルがいないっていうことなのかもしれませんね。海外だとエマ・ワトソンさんとか、男の子でもフェミニストを名乗るのは当たり前なのに…!私はプロフィールには書いていないけど、当たり前にアイデンティティとしてありますね。
石川:私があえて「フェミニスト」を名乗るのは、ツイッターの外でフェミニストの顔が見えないからっていうのはありますね。
ただ、意見する時の主語は「私」でいうように心がけています。私の発言は「フェミニスト」の総意ではないし、代表するものでもない。当たり前のことなのですが、勘違いしている方もいらっしゃるので。
――日本と海外のフェミニストで違いはありますか。
伊藤:縦社会を感じますね。若い人たちが、重鎮の先生たちに対しては「教えを請う」という構図になっている気がします。残念ながら「一緒にフェミニズムを広めよう」という意識は薄いように思います。
先日行った台湾では、世代を越えて支援しあっているのを感じました。台湾では50・60代の第一世代から「私たちの時代は身を挺し、それこそ(ノーブラとなり)ブラジャーを燃やしてまで戦っていたのに!」という声があったそうです。そこで、10・20代の子たちに支持されているフェミニズムのメディアが「一度編集室にきていただけませんか」と声をかけて、顔をあわせて対話をしたそうです。すると、若い世代は上の世代から過去の歴史を学ぶことができ、さらに上の世代は若い世代からインターネットを使った情報共有の仕方を教わったそうです。
もし、対話がなかったら、お互いに否定しあうだけだったかもしれない。だからこそ、先ほどの話にも通じますが、対話って大事なんだろうなって思うんです。
あと、日本って言葉がよくないなって思います。敬語になっちゃうとどうしても上下関係がうまれちゃうから…こういう時は英語の方がいいのになって思います。
――お二人がおこした「社会を変える」という動きに励まされている子もたくさんいます。メッセージをいただけますか。
石川:私はノーと言わなきゃいけないときに言えなかった。ヒールのことにしても、悪い上司じゃなかったけど、そりゃ言えないよなって。言えない自分が悪いということは全くなくて、しんどいと思った時に戦うだけじゃなくて、逃げるという選択肢も忘れないでほしい。
逃げなくて済むような社会をつくるのは大人の責任だと思う。そこは無理をしないでほしい。もちろん、一緒にアクションを起こしてくれる子がいるのはうれしいですけど!
伊藤:私もそう思います。世界のために、自分が捨て身になる必要はないです。まずは自分を守って。生き延びることが確保できてから、他の人のために動いてください。一番大事なのはあなた自身ということは忘れないでほしいです。
1989年生まれ。ジャーナリスト。フリーランスで、BBC、エコノミスト、アルジャジーラなど主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを配信する。Newsweekの「世界が尊敬する日本人100」に選ばれる。
1987年生まれ。2017年末に芸能界で経験した性暴力を#MeTooし、話題に。2019年職場でのパンプス義務づけ反対運動「#KuToo」を展開、世界中のメディアで取り上げられ、英BBC「100人の女性」に選ばれる。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。