ムーンプリズムパワーメイクアップ!と唱えれば、無敵になれた。
呪文を唱えなくても、自分を救えるようになるまで24年もかかってしまった。
だけど私はもう無力じゃない。
なにかの「ふり」をするのはやめた
私は色んな「ふり」をするのが得意だった。
父親が居なくて寂しいふり、母の相談相手のふり、いじめられていないふり、馬鹿なふり、ここにいないふり。
父から終わりのない暴力と暴言を浴びる母を見て、毎日最悪を覚悟しながら幼少期を過ごした。母を支えて弟と祖母の面倒を見て、どんなに家事をこなしても、何も知らない大人達やクラスメイトからは努力や我慢の足りない人間というレッテルを貼られて、はみ出し者として否定され続けた。
そこへ似た者同士みたいな顔をして、近寄ってきた男はモラハラ男だった。
私が泣くと不機嫌になり、物に当たる。
私の好きなところは自分よりダメなところだと言う。
私の仕事が上手くいくと嫉妬して邪魔をする。
自分の自己肯定感の低さから、私の自尊心を奪わずにはいられない。
私は生活を人質に取られながら、健やかさと自分らしさという高過ぎる身代金を払った。
気づけば自分は自分ではなくなっていた。
顔は青白く痩せこけ、髪はぼさぼさ。命の次に大事だったはずの服も適当になっていた。
私を取り巻くすべてが、もう全然好きじゃないことに気づいた。
恋人に萎縮して、喜びも悲しみも殺していたけれど、私は私の為だけに一喜一憂していたい。
私は私に尽くして生きていきたい。
私は自分を取り戻すめために行動した。
数年同棲したモラハラ男と別れ、私を利用する友達と縁を切り、一時的に戻っていた実家を出た。ジェンダーやアダルトチルドレンの本を読み、ようやく自分が置かれていた状況を理解することができた。
お気に入りのドラマ「glee」と「サブリナ」を観るうちに、私はヒントを見つけた。
gleeからは、何の条件も付けずありのままの自分らしさを大切にすること、違いを尊重し合うことや自分自身を励ますこと、はみ出し者の強さを。
サブリナからは、相手が誰だろうと嫌なことは嫌だと言う勇気やシスターフッドを。
そして私はもうなにかの「ふり」をするのをやめた。私は私に戻るために過ごそうと決めた。
初めて髪を自分で染めた ポートレートを撮った
1月。映画「ローラーガールズダイアリー」のローラーダービーの選手になったつもりで、自分にダービーネームをつけた。
2月。誕生日を迎えた私はセルフポートレートを撮ることにした。恋人が贈ってくれた青い薔薇を一輪持ち、青い薔薇の刺繍が入ったネクタイを締めて、自分へのプレゼントに買ったイミテーションの王冠をのせてシャッターを切った。
3月。初めてウィメンズマーチに参加した。ロココ調の扇子に「My body My choice」と印刷した紙を安全ピンで止めたプラカードを掲げて歩いた。
4月。ブログを立ち上げた。自分の生い立ちや経験、好きなもので自分をエンパワーメントすることについて書くことにした。
5月。初めて髪を自分で染めた。青のはずがキーライムパイのような緑色になった。
6月。また髪を染めた。赤ピンク色は私に似合っている。電車でも道を歩いても、誰にも絡まれなくなったしわざとぶつかられなくなった。
7月。実家では禁止されていた、浜崎あゆみの曲をたくさん聴いた。夏が始まった。
参院選の投票にはカナイフユキさんのデザインのTシャツを着て行った。そのTシャツにはヴァージニアウルフ、ゴーストワールドのイーニド、「You can’t fix stupid, but you can vote it out」(バカにつける薬はないが、選挙で辞職に追い込める)というメッセージがサフラジェットカラー(紫、白、緑色から成る女性参政権運動の象徴カラー)で描かれていた。
8月。お守りにしている言葉を思い浮かべた。大島弓子先生のマンガ『8月に生まれる子供』の「わたしはわたしの王女様である そしてその民である」という言葉。
お守りを忘れないように、SNSで話題になっていた安全ピンを自衛に持つ女性たちからイメージを得て、安全ピンの王冠を作った。ゴールドのドレスを着て、手作りの王冠をかぶり、再びセルフポートレートを撮った。
必要なのは「自分らしくいられる装い」だった
私が私を救うヒーローに変身するとき、何よりも必要なのは自分らしくいられる装いだった。
今の私は呪文を唱えなくても、装うことで本当の私に変身できる。
サフラジェットカラーや安全ピン、厚底の靴、ミニスカート。それらが女の子たちに勇気を与えてくれたように、私は装いの力を借りて何度でもメタモルフォーゼし続ける。
大好きな季節がやってくる。フェザーのセットアップスーツ、玉虫色のブラウス、会いたかった青薔薇のネクタイ。出番を待ち望んでいる。
私は私のまま、変わり続ける。
洗いたてのこころに着替えたら、野ばらが踊るように荒れた地面を踏みしめていける気がするから。