インタビューするのはこちらの4人。

  • 元美容ライターの人生模索中ニートみたいなライターです。

    滝薫(24)
  • 翻訳家をしています。

    Ruru Ruriko(25)
  • 都内の大学生。就活が差し迫る中、絶賛自分探し中です。

    みのり(20)
  • フランス語と文学理論を学ぶ大学生。7月まで留学していました。

    沙波(22)

ムーブメントは空気を変える

滝薫さん(以下薫):フェミニズムのムーブメントは一時的なものとして終わっちゃうんじゃないかと思うことがあります。

上野千鶴子さん(以下上野):どういうこと?

薫:SNS上の動きで、フェミニズムに興味がない人の冷めた目線がわかるんですよね。

上野:いいじゃない、ムーブメントに流行りすたりがあっても。ムーブメントってピークが去っても、空気が変わるのよ。空気が変わったら、かつて当たり前だったものがそうじゃなくなる。オヤジの腹の中は変わらないかもしれない。でも少なくともセクハラ発言などは「表で言うなよ」ってなる。ムーブメントは世の中を変える。少なくとも空気を変えるよ。

例えば最近、夫が妻に「育児に協力する」って言う表現がアウトになった。それが理解できる人と、「え、なんでダメなの」って理解できない人がいる。文化が違うのね。空気が変わるって、文化が変わっていくってことなのよ。

薫:上野さんは文化を変えるための、第一人者ですよね。

上野:私ひとりでやったわけじゃない。私たちがムーブメントを起こしてきたのは、ひとりじゃなかったから。そしたら、ちゃんとあなたたちみたいに変化を当たり前だと思う若い女の子が出てきた。ちょっとずつ変わっていくのよ。このサイトもそうじゃない?若い人たちに、思いの丈を表現できるサイトを作ろうってしてるのよね。それを若い女性の編集長に任せようっていうオジサンたちもいる。

でも「かがみよかがみ」っていうサイト名は気に入らない。「なんでいつまでも女はかがみを見てなきゃいけないの」って思うわ(笑)。

「野蛮な靴」発言の真意は

薫:最近上野さん、#KuTooでハイヒールを「野蛮な靴」と表現されて炎上されましたよね?

ハイヒールの靴は全部捨てました。こんな不自然な靴を美しいと感じて履いているなんて野蛮だと思う。

2019年9月22日 上野千鶴子さんのツイート

上野:うん、それが何か?

薫:フェミニストのイメージが悪くなる面もあると思いました。男も女もジェンダーステレオタイプから解放された方がいいと思っているのに、私はフェミニストではないけれど、と枕詞をつける方が多い気がします。

上野:フェミニストはパーフェクトじゃなきゃだめ?

薫:いやそんなことないです。でも、上野さんが昔言ってたことと、矛盾しているんじゃないかなって思うんです。上野さんは著書のなかで、「女の格好も社会的に作られたものだけど、それを利用して、女装して使ってもいい」という旨を書かれていましたが、今はハイヒールを否定されている。過去の自分の言動と矛盾されてるんじゃないでしょうか。

上野:人に一貫性なんかない。私は変わったのよ。昔は、外反母趾じゃなかったもの。

薫:今の上野さんにとっては、ハイヒールは野蛮だということですよね。それを、わざわざTwitterで発言されるのはどうなのでしょうか?

上野:なんで?私が経験に基づいて感じたことを、Twitterで発言しちゃまずいの?

薫:「フェミニストにも色々あっていい」っておっしゃってたじゃないですか。男にモテたいと思う人も、結婚したい人も、セックスが好きな人も、フェミニストでいい。

上野:その通り。それなら#KuTooに反対する人の理由が様々でもいいでしょう?フェミニストに正しい、正しくないはないけど、好き嫌いはある。私は結婚してるフェミニストは好きじゃないし、ハイヒールはいてる女を見ると捻挫するんじゃないかって心配になるわ(笑)。

Ruru Rurikoさん(以下Ruriko):上野さんは、フェミニストみんなが連帯しないといけない、とは思わないということですか?

上野:ひとつのムーブメントが起きても、それに賛成する女もしない女もいる。賛成するにしても、いろんな理由がある。私は結婚制度そのものに反対だから、選択的夫婦別姓に積極的になれないけれど、そうでないよりましだから、反対はしない。いいじゃない、それで。What’s wrong?(何が悪い?)全員一致で何かやらないといけないの?

Ruriko:でも、女性の分断につけこんでくる人がいる。

上野:原理主義フェミニストみたいに、すっぴんでブラしない、メイクもしない、みたいなフェミもいるし。でも私はおしゃれも好き。おしゃれして、Whats’s wrong? って思えばいい。彼女たちに同意はしないけど、否定もしない。

薫:でもWhat’s wrong? なら、上野さんがハイヒールを否定する筋合いはないですよね?

上野:ハイヒール履いてる人が、What’s wrong?って思えばいいのよ。私の発言にいちいちとらわれる必要はないでしょ。私はハイヒールの被害者なの。自分で靴を選んだ自己責任でもあるけど、社会がハイヒールを美しいと思わせていた。そのことに一旦私ははめられたの。今は外反母趾になって、歩けないし、苦痛。だから野蛮だといったの。纏足だって、文化的には美しいと思われていた。でも今から思えば野蛮でしょ?でも、履きたい人は履けばいいと思う。人は自分を痛めつける権利だってあるから。

Ruriko:フェミニスト同士も、お互いを批判してもいいってことですよね?

上野:あったりまえよ(爆笑)。私たちはいっぱい論争してきたのだから。

フェミニストには多様性があっていい

上野:私が絶対的な正しさでなければいけない理由はなにかある?私の発言は、何度も炎上してきたわ。What’s wrong?なんで私が正しさの基準になるの?批判したいひとはすればいい。首尾一貫してないのはなぜか、それは私が変わったからよ。変わったからってWhat's wrong?私が気持ち悪いと思ってることを、Twitterで伝えちゃだめ?

薫:いや、ぜんぜん。上野さんは、#KuTooを広めようとしていた意図はあるんですか?

上野:ええ。「私は賛同しました。なぜならば...」と言っただけ。

沙波:「他の人も同じような理由で参加してほしい」という意味ではないですよね?

上野:ではない。人それぞれだから。私の発言が、フェミニストにネガティブイメージを持ち込んで、分断した?そうとる人もいるかもしれないね。でもあらゆることには、ポジティブもネガティブも両面あるでしょ。今回だったら、「フェミもいろいろだね」っていうことが分かってよかったかも。

私はフェミニストが一枚岩でいるよりも、多様性があるほうがずっといいと思う。私と考えが合わない人がフェミニストを名乗っても、「その看板下げて」なんて言う権利は、私にはないわ。正しいフェミニストや正しくないフェミニストがいるわけじゃないのよ。フェミニストっていうのは自己申告概念だから。

Ruriko:友人に、「フェミニストって何に向かってるの?」って聞かれることがあります。

上野:その答えはたったひとつ。「差別しないで人間として尊重してほしい」。その発言の主の「自分は無関係」、みたいな態度がよく分からない。性差別に関しては、男も女も当事者じゃない人は誰もいないはず。だってスルーしたくても逃げも隠れもできないのが「性差別」ですもの。無関係な顔をしている人は、性差別に加担していることになるわね。

上野千鶴子さんプロフィール

1948年、富山県生まれ。京大大学院社会学博士課程修了。東京大学名誉教授。日本の女性学・ジェンダー研究をリードし続けてきた。認定NPO法人「ウィメンズアクションネットワーク」理事長。著書は『情報生産者になる』『不惑のフェミニズム』など多数。

上野千鶴子さん×かがみすと

01- 【レポ】上野千鶴子さんに質問「ベッドの上では男が求める女を演じてしまう」
02- 感想】「ベッドの上に上下関係はない。私は快楽を求める一人の女性だ」-滝薫 
03-【レポ】上野千鶴子さん「野蛮な靴と思って何が悪い?フェミも多様なの」
04-【レポ】上野千鶴子さん「ミソジニーに対処するのは私たちの責任なの?」
05- 【感想】上野千鶴子先生は「生きている間に男女平等になることはない」と言うけど-Ruru Ruriko
06- 【感想】「ばーか!」と言っても残る数人の子たちを大事にしたい-沙波
07- 【レポ】上野千鶴子さん「マスターベーションはセックスの基本のき」
08- 【感想】性についてオープンになってほしいけど、話したくない人は変わらなくていい-Ruru Ruriko 
09- 【感想】性に主体的で、独身じゃないとフェミニストを名乗っちゃいけないの?-沙波
10- 【感想】「上野千鶴子」になりたくない。いや、なれない-滝薫
11- 【感想】「What's wrong? 心のシールドを張ろう」-みのり