「私のための美容」「私がしたいからメイクする」「ボディポジティブ」という言葉や考えの広まりとともに、男性や世間の目を意識した画一的な美のありようは近年、変化しつつあります。しかし、「自分らしさとは何か」という問いの前に、戸惑う声も聞かれます。
そこで、早稲田大学スチューデントダイバーシティセンター内のGSセンターと朝日新聞社のウェブサイト「かがみよかがみ」編集部は11月24日、オンラインイベントを開催。「『ありのままのあなたが素敵!』っていうけれど…」と題して、タレントのバービーさんと人類学者の磯野真穂さんらが美容とダイエットをテーマに語り合いました。早大の学生も含め、約400人が視聴しました。
かがみよかがみ編集部が大学とイベントを共同開催するのは、明治大学(10月24日実施)に続き、2回目です。
ゲストのバービーさんはYouTubeやエッセイなどで脱毛や美容、性について本音を発信しており、磯野真穂さんは摂食障害について文化人類学的観点から研究。近年は「自分らしさ」や「ありのままのあなた」という価値観やダイエットのあり方について発信しています。
今回のイベントは早大GSセンターの学生スタッフが企画したもので、「ありのままのあなたが美しい」という考えを認めつつも、ほかの人のように痩せたいと思ったり、周りから褒めてもらいたくてメイクをしたりするということへの割り切れなさが主なテーマです。
一つ目の疑問「やっぱり痩せたい!って思うのは私の修行不足?」
最初の問題提起は「やっぱり痩せたい!って思うのは私の修行不足?」。「ボディポジティブ」という流れに賛同しつつも、やはり「痩せたい」という気持ちを抱いてしまうことをどう考えればいいのか――。発案者を代表して学生スタッフのしゅんDが問いかけます。
バービーさん「なりたい自分に近づけることも『ありのまま』では」
バービーさんは「ありのままって、何もしないこと、のように聞こえるけど、自分のなりたい体型に近づくことが『ありのまま』という意味なんじゃないかなって思うんです」と指摘。自身はエステも行き、食事を一定期間絶つファスティングもしていることも明かしました。
磯野さんは、「こういう自分になりたいという気持ちって、実は社会の要請から生まれていたりする。そこと、自分の内側より自ずから溢れる気持ちを切り分けるのはすごく難しい気がする」と話します。「そのまんまの身体でいいっていう民族はこれまで読んでいた文化人類学の資料で見たことがない。身体に何か手をいれたい、というのはある種自然なことなんじゃないかなと思います」。
さらに、バービーさんは「何もしないでいる自分ではなく、自分のなりたい自分に近づくのがありのまま」と話し、磯野さんは「バービーさんは、わたしはこういう世界観で生きたい、という気持ちがあってご自身を変化させてきたんだなと思いました。今は『ありのままでいい』という流れはあっても、その先にどうしたいのか、というものがあまりないのかもしれない」と指摘しました。
二つ目の疑問「自分らしさって、結局何?」
二つ目の疑問は「自分らしさって、結局何?」。イベント前に寄せられた質問のなかにも「ありのままの自分が迷子です」「ありのままってそもそも何ですか?」というものがあ
りました。
磯野さん「自分らしさは他者との関係のなかで生まれてくる」
バービーさんは「私の伝えたいことは、自分を責めることを辞めてほしいということ。ボディポジティブになるべき、と押し付けるようなかたちではない」と言います。
磯野さんは「自分らしさは、自分の中にあるように思われているけれど、実は他者との関係のなかで生まれてくると思うんです」と解説。「こういう人と一緒にいたい、というところを求めていく。その心地よい自分の状態が、自分らしさ、だと思います。自分らしさって一人で達成できるものではないはず」
バービーさんも「自分らしさって、自分の中にあると思っているんです」と話していましたが、その真意は磯野さんと近いところにあるようです。たとえば美術館などで自分がどんなものを好きなのか、他者の作品を通じて知ることも「個性の認識」だと話し、磯野さんも「自分の好きなものって、これまでの生きてきた関わり、軌跡のなかで自分の中に沈殿していっている」といいます。
磯野さんは「悩んでるときは、自分が大切にすべきこと、大切にしたい人を間違えちゃうことが多い。人生は長いです。時間をかけて、ゆっくり見つけていけるといい」と呼びかけました。
三つ目の疑問「これからどう生きる?」
三つ目の疑問は「これからどう生きる?」。ダイエットや美容と、これからどのように向き合っていけばいいのでしょうか。
磯野さんは、「モテない女性がモテると勘違いする」といった女性が自分を卑下するお笑いのネタに、以前から疑問を感じていたといいます。そのような雰囲気が変わりつつあるなか、バービーさんも「バランスを取っていくことをすごく気をつけています」と話しました。
磯野さんは「最近、自分でバランスを取るのが難しくて、誰かにそのバランスを決めてもらいたい、何者である、と名付けてほしい方も増えていると思います」と指摘。「生きづらさって、勉強すれば乗り越えられるものなんですか」とたずねるバービーさんに、磯野さんは「勉強しさえすれば問題が解決するわけではないけれど、学問を通じて言葉の解像度を上げると、世界の見え方もクリアになるので、それが自分の生きやすさに繋がっていくことがあると思います」と話しました。
二人への質問「アイドルの見た目が好きって悪いこと?」「女性芸能人への容姿いじり、どう思う?」
続いて、参加者からの質問に、二人が答えました。
「アイドルが好き。見た目がやはり好きなんですが、どうしたらよい?」という質問に、磯野さんは「身体を持ってる以上、社会の『美しい』という基準はどうしても生まれると思う。それを美しい、と感じることもよいと思う。ただ、なんで美しいと思うのか立ち止まってみてもいいかも」と返しました。
「人と比較するのを辞めたい」という質問には、磯野さんは「自分の湖のようなもの、ここにいると心地よい、という場所や繋がりを見つけられるといいですね」と話し、「私がはっきり見つけられたのは40すぎてからですけどね」と笑いました。
さらに、「女性芸能人への体のいじりについてどう考えるか」という質問には、バービーさんが「個人の信頼関係のなかではよいとは思うんですけど、テレビという公共空間だと問題ですよね。ただ、かなり問題意識は広がっている」と、現場で起きている変化について明かしました。
ゲスト:バービーさん(フォーリンラブ)
1984年北海道生まれ。2007年、お笑いコンビ「フォーリンラブ」を結成。男女の恋愛模様をネタにした「イエス、フォーリンラブ!」の決め台詞で人気を得る。現在ではTBSラジオ「週末ノオト」パーソナリティを勤め、TBSひるおびコメンテーターや地元北海道の町おこし等にも尽力。FRaU WEBにて執筆しているエッセイ「本音の置き場所」の書籍化が決まり、講談社より11月4日より絶賛発売中。バービーのプロデュースで話題を生んだピーチ・ジョンコラボ下着が好評につき第2弾決定!2021年2月発売予定。また、昨年末開設したYouTube「バービーちゃんねる」では280万視聴回数を超える動画もあり好評配信中。
ゲスト:磯野真穂さん
人類学者。1999年、早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒。オレゴン州立大学応用人類学修士課程修了後、早稲田大学文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。 「人がわからない未来を前にどう生きるか、人類学の魅力を学問の外に開きたい」と、「独立人類学者」として活動中。著書に『ダイエット幻想ーやせること、愛されること』『なぜふつうに食べられないのか』、哲学者・宮野真生子氏との共著に『急に具合が悪くなる』。ホームページはこちら。