SNSを通じて、短い文章やスタンプ、「いいね」ボタンで簡単にコミュニケーションを取れる世の中。一方で、自分の気持ちや考えをちゃんとした文章にして、相手に伝えられるようになりたい、という方も増えているように感じられます。

もしあなたが「文章を書けるようになりたい」と思いつつ「でも、書くのは苦手だな」と感じているのであれば、恋愛でも友だち関係でも、自分の経験したことを素材にするエッセイは、「相手に読んでもらう」ための文章を書くことに慣れ親しみ、文章表現をみがくトレーニングとしては最適です。

新型コロナウイルスのため、外出自粛などが呼びかけられている時節柄です。
巣ごもり中のちょっとした時間をつかって、気軽にエッセイを書けるようになるコツをご紹介します。

今回は2回目の講座です。

STEP5 それはいつ、どこで?

いいエッセイ、面白いエッセイとはどんなエッセイでしょうか。

文章が面白い、発想が独創的、言葉が美しい、知識が豊富……いろんな要素があると思いますが、これらを身につけるのは、なかなかハードルが高そうですね。かなりの勉強や、それこそ才能が必要かもしれません。

では普通の人は、いいエッセイは書けないのでしょうか。

そんなことはありません。一般人が書くエッセイでも、十分に「読ませる」エッセイはあります(「かがみよかがみ」にも、たくさんあります)。

それでは、いいエッセイにするためには、どんな要素があればいいのでしょうか。それがエピソードです。

エッセイには、どんな出来事があったのか、というエピソードが大事です。なぜなら、

・こういう気持ちに変わったのは、こういう「経験」があったから
・こういう考えを持っているのは、こういう「体験」があったから
・こういう行動をしているのは、こういう「きっかけ」があったから

という論理性があることで、読む人が納得し、理解しやすくなるからです。
「私はこう思うんだ」ということだけをつづった文章では、考え方が違う人からは「なぜそう思うの?(私は思わないよ)」と受け取られるだけで、共感や理解はしてもらえません。

サンプルのエッセイでいうと、どんなことがあったから「英語を使えるようになりたい」「英語をちゃんと勉強したい」という思いになったのか、という要素ですね。
そういう目線でエッセイを読み直すと、カナダでのトラブルの内容や困ったことなどの具体的なエピソードがあるとよさそうな気になります。

というわけで、英語に困ったエピソードを加えてみましょう。

私は就職活動中の大学生だ。英語が好きで、英語を使って海外で働きたいと思っている。
こんな風に生きていきたいと思うようになったのは、2年前の夏の挑戦がきっかけだ。
私が大学2年生のとき、大学を休学してカナダを3カ月、旅行した。高校生のときに好きだった作家さんがカナダの旅行記を書いていて、雄大な自然を自分の目で見てみたいと思ったからだ。
でも、はじめての独り旅が、初めての海外旅行になった。英語の成績もよくなかったから、当然親からは反対され、「自分の力でなんとかする」ことを条件に、許してもらった。当然お金はない。私は大学を休学し、半年間でバイトをしてお金をためた。残りの半年を旅行にあてることにした。
そして、ついに出発の日。飛行機に一人で乗るのも初めて。出国すると、「もう後には戻れない」と思った。しかし、カナダのバンクーバー空港に着いたときは、不安以上に「ここまでやってきたんだ」という開放感が勝った。
だが、トラブルはすぐにやってきた。どのバスに乗れば市街地にたどりつけるのかわからないのだ。

・ここから、「英語に困った」場面をいれてみます。

まごまごしていると、現地のおばちゃんが声をかけてくれた。
身ぶり手ぶりをまじえながら、私は「ダウンタウン、○○ホテル」と連呼するしかなかった。わかってくれなかったおばちゃんは、さらに通りがかりの人をつかまえ、気がつくと十人以上が集まり、どうやら「この子が○○ホテルに行く最適のルートはどれか」会議が始まったようだった。
どんなやり取りなのかまったくわからない私は、にぎやかなカナダ人の輪の中心にいながら、完全な孤独のなかにあった。愛想笑いを浮かべつつ……。
数分後、どうやら結論が出て、笑顔のおばちゃんが代表して、
「○△×○△×!!」
と、説明してくれた。周りの人もうなずいている。
「グッドラック!」
「いい旅を!」
おばちゃんたちは口々に言い、「人助け」ができた満足感に笑顔になりながら、それぞれの方向へ歩いていった。
私は乾いた笑顔をはりつけたまま、そこに立ち尽くしていた。結局、おばちゃんやみんなが何を言ったのか、わからないままだった。

その後、車体の正面に「ダウンタウン」と書いてあったバスにあてずっぽうで乗り、重い荷物を抱えながら数時間歩く羽目になり、「これから英語をちゃんと勉強しますから、助けてください」と頼ったこともない海外の神様に祈りながら、死にそうな思いでなんとかホテルにたどりついた。

(挿入はここまで)

それから3カ月間は、困ったことやトラブルばかり。日本に帰ってきたら、「もうどこでも生きていける」という自信だけはついた。とても大きく成長した気がした。
そして、英語の大切さを痛感した私。海外で仕事ができるぐらい英語を使えるようになりたいと、現在は就職活動中だ。
あの夏の挑戦は、私の人生を大きく変え、さらにこれからも変えていくだろう。

字数は1000字を超えました。おおむね、投稿の規定に達する分量になりましたね。

1200字は長すぎると思っているかもしれませんが、このように「場面」を詳しく書いてみると、結構あっさり届いてしまいます。

そのときには、

・いつ
・どこで
・だれと
・何をしたか(どんな会話があったか)

などという「5W1H」の要素が入っているか、気をつけてください。

たとえば会話の相手の服装、表情、やり取りの内容、場所、そのときの天気などなど、細かいディテールがあれば、リアリティーが増します。読む人の頭のなかで、そのときの映像が浮かぶように「情報」を書いてみてください。

特に書くことがなくて分量も少ないままだという方は、このような「場面」やエピソードの描写がちゃんと入っているか、考えてみてください。

STEP6 改行について

これから、読む人が「読みやすい」と思ってもらえるようなテクニックについて書いてみます。
いくら内容がよくても「読みにくい」と思われて違うエッセイに行かれたら、もったいないことです。「読みやすさ」への意識は、やりすぎることはありません。

読みやすい文章にするために重要で、簡単にできることが改行です。
たとえば、今回のエッセイに改行がないと、どうなるでしょうか。

そして、ついに出発の日。飛行機に一人で乗るのも初めて。出国すると、「もう後には戻れない」と思った。しかし、カナダのバンクーバー空港に着いたときは、不安以上に「ここまでやってきたんだ」という開放感が勝った。しかし、トラブルはすぐにやってきた。どのバスに乗れば市街地にたどりつけるのかわからないのだ。まごまごしていると、現地のおばちゃんが声をかけてくれた。身ぶり手ぶりをまじえながら、私は「ダウンタウン、○○ホテル」と連呼するしかなかった。わかってくれなかったおばちゃんはさらに通りがかりの人をつかまえ、気がつくと何人もの人が集まり、どうやら「この子が○○ホテルに行く最適のルートはどれか」会議が始まったようだった。どうやら結論が出て、笑顔のおばちゃんが代表して「○△×○△×!!」と説明してくれた。周りの人もその結論に満足しているような笑顔。「グッドラック!」とおばちゃんは言い、みんなもそれぞれの方向で歩いていった。

文字がぎっちり詰まっていて、読みにくくなりますよね。圧迫感もあります。
改行を入れる基本的なところとしては、

・時間が変わる
・場所が変わる
・「しかし」「だが」「ところで」「一方」など、文脈が変わる接続詞が入る
・会話
・文章が連続した場合

などがあります。最後の項目がわかりにくかもしれませんが、文章が2~3本続いたら基本的に改行することにしている、という方もいらっしゃいます。

逆に、改行を入れすぎても読みにくくなります。
たとえば、今回のエッセイがこういう風になるとどうでしょうか。

そして、
ついに出発の日。

飛行機に一人で乗るのも初めて。
出国すると、
「もう後には戻れない」 と思った。

しかし、 カナダのバンクーバー空港に着いたとき
不安以上に

「ここまでやってきたんだ」

そんな開放感が勝った。

「かがみよかがみ」に投稿されてくるエッセイのなかにも、このような感じのものが少なからずあります。この文章を読みやすいと思うかどうかは個人の感覚ではありますが、あまりにたくさんの改行をはさむと、普通に書けば数行なのに、画面上では何十行にもなってしまいます。

「どこでどれだけ改行するかなんて、自分で決める!」という方もいらっしゃると思います。
そうです。自由です。「自分だけのルール」で書いていいのです。

しかし、だれとも共有していない「自分だけのルール」で書かれた文章は、「独創性のある作品だ」と受け止めてくれる人よりも、「読む人のことを考えていない」「一人よがりだ」などととらえられて、最後まで読んでもらえなくなる恐れのほうがずっと大きいだろうと思います。

ちょっとした意識や注意が、「書き手」としてのあなたの評価につながります。

次回はそんな、「読む人」を意識した書き方に触れます。