SNSを通じて、短い文章やスタンプ、「いいね」ボタンで簡単にコミュニケーションを取れる世の中。一方で、自分の気持ちや考えをちゃんとした文章にして、相手に伝えられるようになりたい、という方も増えているように感じられます。

もしあなたが「文章を書けるようになりたい」と思いつつ「でも、書くのは苦手だな」と感じているのであれば、恋愛でも友だち関係でも、自分の経験したことを素材にするエッセイは、「相手に読んでもらう」ための文章を書くことに慣れ親しみ、文章表現をみがくトレーニングとしては最適です。

新型コロナウイルスのため、外出自粛などが呼びかけられている時節柄です。
巣ごもり中のちょっとした時間をつかって、気軽にエッセイを書けるようになるコツをご紹介します。

今回は初回です。

STEP1 何を書くか決める

まずはどんなことを書きたいか。書けるのか。いきなりは難しいと思いますので、「お題」をもとに考えてみましょう。
現在(2021年4月末)、「かがみよかがみ」では、「あの夏の挑戦」「いつもと違う休日で」「裏切りの記憶」の三つをテーマにエッセイを募集をしています。
そのなかで「あの夏の挑戦」を取り上げて、エッセイを書いてみましょう。

「あの夏の挑戦」というテーマで、どんなことを書けばいいか。
たとえば、という具体例を、かがみよかがみ編集部が挙げています。

・夏休みに一人旅をしたときの気持ち
・海で勇気をだしたとき
・部活に没頭したあの夏
・冷房の効いた図書館で考えたこと
・いつもと違う夏の服を選んだとき など

春でも冬でもなく、「夏」に。そして、今までやっていなかった、あらたに取り組んだことを書けばいいのですね。
そして、字数は1500字程度。締め切りは5月9日となっています。

「かがみよかがみ」に限りませんが、募集テーマや規定の字数などは、採用の「条件」になります。条件からはずれている場合は、せっかく投稿しても採用されない可能性が高くなります。
締め切りを過ぎてからだと受け付けてもらえないケースもあるでしょうから、募集の条件はしっかり確認してくださいね。

STEP2 あらましをざっと書いてみる

それではさっそく、エッセイを書いていきましょう。
ここからは、サンプルをお見せしながら、説明を進めていきます。

かがみよかがのエッセイは、1500字程度の字数を「条件」にしていますが、「長い!」「そんなに書けないよ!」と思いますか?
いえいえ、実際はそれほどでもありません。

まず、どんなことを書いていくつもりかを、箇条書きでいいので書いてみましょう。
(もちろん、この過程を飛ばして、いきなり書き進めていっても構いません)

・大学生のとき、ひとりで海外旅行に行った。
・海外旅行も初めて、ひとり旅も初めてだった。
・英語もろくに話せなかったが、現地では初対面の人にたくさん助けてもらった。
・かなり無理した旅行だったが、なんとかなるもんだと自信がついた。

こんな内容で書いてみましょう。ただいま、ざっと100字ほどです。
最初から細かく書く必要はありません。ざっとした方向性を頭に描ければいいのです。

STEP3 情報を肉付けしていく

さらにここからは、箇条書きの文章を骨組みにして、肉付けをしていきます。
書きたいことを付け足していけば、どんどん分量がふくらんでいきます。

そのなかで、「この文章で私が書きたいことって何だろう」「読んでくれる人に、どんなことを伝えたいんだろう」ということもイメージしていきましょう。

それが、このエッセイの「着地点」になります。

でも、「伝えたいこと」は、特に社会に対して言いたい、のように大きく考える必要はありません。
「私はこんな人になりたい」「こんなことをやってみたい」「あの人に、こうなってほしい」というように、自分や身近な人への思いでもいいのです。
「あした、雨になってほしい」「おなかいっぱい、ゴハンを食べたい」「きょう飲んだワイン、高かったのにめっちゃまずかった」でも構わないのです。

あまりおおげさに考えず、骨組みをもとに文章をふくらましていきます。

私が大学2年生のとき、大学を休学してカナダを3カ月、旅行した。
初めての一人旅が、初めての海外旅行になった。 旅行するお金はなかったが、休学中の半年間にバイトをしてお金をためた。
現地では言葉が通じなくて大変な思いを何度もしたが、なんとか乗り切れた。
3カ月後、日本に帰ってきたら、自分に自信がついて、とても大きく成長した気がした。
一方で、英語の大切さを痛感した私。
英語を使えるようになって海外で仕事をしたいと、現在は就職活動中だ。
あの夏の挑戦は、私の人生を大きく変え、さらにこれからも変えていくだろう。

つらつら書いてみて、250字ほどになりました。
最後の「着地」までイメージできない人もいると思いますが、そこは現段階で無理する必要はありません。
何も盛り込み、何を書かないか、おおまかな流れをつかんでいればOKです。もちろん、書いているうちに「こちらを重点的に書いていこう」と変わっていっても構いません。

まずは、どんどん肉付けし、膨らませてみてください。
もし、書きたいことがいろいろある場合は、「字数は1500字程度」といった上限の分量を意識してください。

STEP4 ところで、あなたはだれ?どんな人?

文章を書いていくときに、大事なことがあります。
それは「読む人」の目線です。

かがみよかがみの場合、エッセイを読んでいる人は、あなたについて、

①18~29歳
②女性

ということしかわかっていません。ほかのエッセイやプロフィールを見たことがある人もいると思いますが、基本的には学生なのか社会人なのか、どこに住んでいるのか等々、なにも知らない状態です。
そういう「読む人」の目線で、さきほどのエッセイを読んでみますと……

・「私が大学2年生」って、いまから何年前の話?(過去の話なんだな、ということしかわからない)
・どうしてカナダを選んだの?
・しゃべれないといっても、英語のレベルは?
・女性の初めてのひとり旅、初めての海外旅行って、親や友だちが反対しなかったの?
・「大変な思いをした」って具体的にはどんなこと?

などなど、あなたについて知らない人からすると、文章のなかでエッセイの前提となる情報がはっきり示されておらず、読む人の頭のなかに「?」マークが次々に出てきそうな文章であることがわかっていただけるかと思います。
読み進めるうちにわかってくる内容もあるでしょうけど、読む人の疑問が解消されないままだと、もやもやが残ってしまいます。

そのような「読む人」の疑問に答える気持ちで、さらに肉付けをしてみました。

私は就職活動中の大学生だ。英語が好きで、英語を使って海外で働きたいと思っている。
こんな風に生きていきたいと思うようになったのは、2年前の夏の挑戦がきっかけだ。
私が大学2年生のとき、大学を休学してカナダを3カ月、旅行した。高校生のときに好きだった作家さんがカナダの旅行記を書いていて、雄大な自然を自分の目で見てみたいと思ったからだ。
でも、はじめてのひとり旅が、初めての海外旅行になった。英語の成績もよくなかったから、当然親からは反対され、「お金は自分の力でなんとかする」ことを条件に、許してもらった。当然お金はない。私は大学を休学し、半年間でバイトをしてお金をためた。残りの半年を旅行にあてることにした。
そして、ついに出発の日。飛行機に一人で乗るのも初めて。出国すると、「もう後には戻れない」と思った。しかし、カナダのバンクーバー空港に着いたときは、不安以上に「ここまでやってきたんだ」という開放感が勝った。
だが、トラブルはすぐにやってきた。どのバスに乗れば市街地にたどりつけるのかわからないのだ。その後、あてずっぽうでバスに乗り、重い荷物を抱えながら数時間歩く羽目になり、死にそうな思いでなんとかホテルにたどりついた。
それから3カ月間は、困ったことやトラブルばかり。日本に帰ってきたら、「もうどこでも生きていける」という自信だけはついた。とても大きく成長した気がした。
そして、英語の大切さを痛感した私。海外で仕事ができるぐらい英語を使えるようになりたいと、現在は就職活動中だ。
あの夏の挑戦は、私の人生を大きく変え、さらにこれからも変えていくだろう。

これで、700字ぐらいまで増えました。
でも、まだ規定の分量には届いていません。

どんなことを書き加えたらいいでしょうか?
エッセイとして、どんなことが不足しているのでしょうか?

みなさんはどう思いますか?
次の回に続きます。