◆総評

たくさんのご応募をありがとうございました。かがみよかがみさんのお力は大きいと思うのですが、「今の『私』をつくった本」というテーマでこんなにもたくさんのエッセイが集まったこと、本が好きな人間のひとりとして、とてもうれしく思います。
ただ、本の紹介とご自身の体験をちょうどよい配分、わかりやすい構成で見せるのはなかなか難しいことなのかもしれないと感じました。
そんな中で、とくに惹かれた2作から、魅力あるブックエッセイとはどんなものなのか、学ばせていただいた気がします。今回ご応募くださった皆さん、本当にどうもありがとうございました。

◆佐々木ののか賞 大賞

知り合いを自慢する無価値な自分。気づかせた彼女は今も脳内にいる(ももんが)

あらすじ)大学生だった私は、自分の才能や可能性に期待し、一方で何者にもなれない不安に付きまとわれながら、何とか自身に価値を見出そうとしていた。可愛い友人とのツーショットを「この子、モデルなんだ」と見せびらかし、一流企業への就職や素敵な旦那様との結婚を夢見ていた。そんなときに手に取ったのが「スロウハイツの神様」(辻村深月)だった。

講評

力強い言葉ときれいな構成で、ぐいぐい読み進めてしまいました。本の紹介が簡潔でありながら、本にも興味が持てたのは、ご自身に潜って物語を紡ごうとする覚悟の強さ、鋭さだった気がします。何者にもなれないことへの葛藤や、いわゆる承認欲求にも分類される題材自体は珍しくはないものですが、ご自身にとってどれだけ大きな出来事だったかが伝わりました。「スロウハイツの神様」、読んでみようと思います。

◆次点

絵本が気づかせてくれた本音。私はおばあちゃんと生きる道を選んだ(ぺつこ)

あらすじ)保育園の年長のとき、出会った絵本「おばあちゃんがいるといいのにな」(松田素子)。私の感情を揺さぶったのは、大好きなおばあちゃんがガンを患って亡くなるという悲しい内容だったからではなく、私を愛してくれた2人の祖母と重ねたから。祖母たちといつか「お別れ」する日が来るのだという現実を、その絵本が私に突きつけたのだった。

講評

絵本という短い物語に対して、本の内容の説明をしっかりされているにもかかわらず、ご自身の物語の印象が強く残るほど、魅力的な語りでした。大切な宝物のおすそわけをしてもらったようで、読後とてもあたたかな気持ちになります。ただ、ブックエッセイという点でとてもとても厳しく見ようとすると、絵本とご自身との関係性がもう一歩あると良かったなとも思います。幸せな気持ちにさせてくれるエッセイでした。

以上、佐々木ののか賞の発表でした!たくさんの素敵なご投稿を、本当にありがとうございました。
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