特別企画「かがみすと座談会」Z世代の本音はどこにある?ものさしは自分の「価値観」と「腹落ち感」
世界中で注目を集めるZ世代。朝日新聞社の「GLOBE」では「目覚めた若者たち」をテーマに、新しい感覚を持って世界のあちこちで動きはじめるZ世代を取り上げた「はじまりのZ」を企画しました。その一環として、「かがみよかがみ」のエッセイの投稿者と同世代の編集者に、世代の共通点や問題意識を持つようになったきっかけ、注目されている同世代や上の世代への思いなどを聞きました。
世界中で注目を集めるZ世代。朝日新聞社の「GLOBE」では「目覚めた若者たち」をテーマに、新しい感覚を持って世界のあちこちで動きはじめるZ世代を取り上げた「はじまりのZ」を企画しました。その一環として、「かがみよかがみ」のエッセイの投稿者と同世代の編集者に、世代の共通点や問題意識を持つようになったきっかけ、注目されている同世代や上の世代への思いなどを聞きました。
――Z世代に共通する特徴や価値観は?
神山かおり 一番感じるのは、フラットな横のつながり。気になったことがあれば、国を越えて共有する。それが可能なプラットホームがあることです。
SNSが自分の体が拡張したものみたいな感覚も共通だと思います。ただ、逆にSNS上の友達の間の同調圧力みたいなもの、政治的な関心やマイノリティーへの理解といった自分の価値観を実際には言いにくい状況はあるかもしれません。
渡邉有佳里 デジタル・ネイティブで、情報がすぐ手に入るのが当たり前の世代で、広く浅くよりも狭く深く、なのかなと。
ただ、私もSNSなどをこの世代が本当に使いこなせているかというのは疑問で、知らず知らず視野が狭まっているかも、と思うこともあります。ツイッターを見ていても、自分の好みばかりの情報が並ぶ。世界が広がっているようで、自分のコミュニティーの外には広がっていない気もします。
村岡夏帆(「かがみよかがみ」編集部) 確かに社会への関心は高まっているなと思っても自分のタイムライン上だけだったりしますね。この間の選挙で、ネットやSNSを見ていたらすごく盛り上がっていると思っていたんですが、ふたを開けてみたら投票率もそれほど高くなくて、そうでもなかったんだなあと。
――価値観について言うと、やはり身近なジェンダーの問題には敏感ですか。
村岡 私はずっと自分の体形が好きじゃなくて。「いじり」も受け入れてきました。大学に入ると、「女の子は若くて華奢なのが一番良い」というカルチャーで。そんなとき、たまたまユーチューブで同じ世代の女性が「自分の体は自分のもの。誰かに評価されるための体じゃない」と演説しているのを見て、ああ、私が苦しかったのはそういう価値観のせいだったんだって気がつきました。そこからフェミニズムを学んでいきました。
渡邉 高校生のとき、英語と日本史とで悩んでいて進路を相談したら、担任から「史学科だと働き口が少ない。女子はそんな回り道しない方が良い」と言われたり、「女子は浪人しない方が良い」と言われたり。なんだかなぁ、と思っていました。女子大に入学したら、そういうことがなくて、とても自由だったんです。例えば「海外に行ってフィールドワークをする」と言う友人に、周りは普通に「超いいじゃん」と。女子だから………というのがなくて、「人」で見てもらえて居心地が良かったことが大きいです。そういうところからジェンダーに関する問題に関心を持つようになりました。
ジェンダー以外だと、私は地域格差の問題についても身近に感じています。千葉の過疎地域で育って、東京に出てきて享受できる文化の差を感じた。同時に自分の両親が与えてくれたものも大きいんだと実感しました。
そういう自分の実感があるから、ニュースで格差の話を見ても、人ごとじゃないと感じます。
神山 私は学校が合わなくて、なんとか脱出しようと奨学金の留学制度を探して、高校のときに1年間アメリカで過ごしました。そこでマイノリティーとしての体験もしたし、同じ東アジアから来た子たちと付き合ったことがきっかけで、いまの活動をしています。
やっぱり自分が身の回りで経験するショックや人への思いがないと問題意識を持つのは難しいと思います。環境や紛争の問題があると知ってはいても、世界中の問題すべてを考えることはできないから。でもZ世代がネットを駆使することで変化が始まっているとも思います。
――「かがみよかがみ」のエッセーを読んで感じることはありますか。
村岡 例えば「彼と別れた、悲しい」というエッセーを書いていた投稿者が、「仕事で女性だからとこういう嫌なことがあった」とジェンダーの視点を織り込んで書いてきます。ツイッターでも、「カフェに行った」「美容院に行った」という日常のタイムラインのなかに、「上司にこういうことを言われていやだった」という話が並列しています。
「フェミニスト」という旗を掲げていなくても、そういう意識はこの世代には広くあって、特別なことじゃなく言葉を発するようになっているなと思います。
――環境活動家のグレタ・トゥンベリさんのような同世代の「意識高い」人をどう見ていますか。
神山 スーパースターにスポットを当てるのは、古い世代のやり方という気がします。彼女は自分が疑問に思うことがあり、動きたいと思っているだけ。私たちもメディアを立ち上げたときに、脚光を浴びたいとか、アクティビズムをしようとは思っていませんでした。まだ届いていない東アジアの若者の声を集めよう、集まろうということでした。周囲もそんな私たちを特別なことじゃなくて、「楽しんだらいい」とフラットに見ていると思います。
村岡 その人自身の日常に根ざした活動だと思うので、距離感は感じません。逆に、表に立って発信すると、きっとすごく反発があるだろうというのは、自分がSNSで発信したときの経験からもわかります。だから応援する気持ちがあるというか。
渡邉 ビリー・アイリッシュのジェンダーをめぐる発言を聞いて、そういう思想を持ってる人なんだと知ると、その人への見方が好意的な方に寄ります。自分の価値観に従って行動することにためらいがないように見えるし、「やってみる」のハードルを下げてくれる気がします。
村岡 休学してみる、就職しない、いきなりフリーランスから始めてみる、社会人になった後も副業をしてみるとか。エッセーを読んでいても、転職の話はたくさん投稿があります。長く勤めるとか、会社のいうことを聞くことへの違和感を持っているのも感じます。恋愛や結婚に関しても、マッチングアプリでの出会いが普通になっていたり、逆に結婚せずに一人で生きていく、という投稿も来ます。読んでいると一個の幸せだけじゃないよね、というのはすごく伝わってきます。
渡邉 一つのレールから踏み外したら転げ落ちる、お先真っ暗、というテンションはありません。
神山 世代なのか時代なのか分かりませんが、自分なりに意義を見いだそうとします。自問してみて、納得すればサラリーマンもあり、20歳で結婚するもあり、腹落ちして進んでいく、というあり方が色濃く共有されている気がします。
渡邉 こうじゃなくちゃだめ、ではなくていろんな生き方に寛容だと思います。こうじゃなくちゃ、じゃなくて「本人が楽しかったらいいじゃない」と言うマインドがあるのは良いところじゃないでしょうか。
――そんな感覚は低成長の日本で育ってきたこととも関係があるのでしょうか。
村岡 経済成長が何なのかも、バブル経済がどんなものかも実感がないから、いっぱい稼がなくてもそれなりの生活をという感覚はあります。だったら、仕事でパワハラを我慢するより、好きなことでハッピーな時間を過ごしたいんです。
渡邊 個人の満足度みたいなものになってくるのかな。同世代の社会人にインタビューする機会がありますが、企業選びのポイントは「自分が楽しく仕事できるか」を重視している人が多いですね。
――価値観が違う上の世代への「怒り」のようなものはありますか。
神山 伝統的な家族観や、バブル世代の価値観でお金がすべてみたいに語られることには、うっすらと怒りを感じます。
渡邉 ジェンダーに関しては、ニュースになるたびに、怒りというより「この人たち何を言ってるの?」となりますね。「わきまえない女」というフレーズは本当に意味がわからなかったですね。はっきりとした怒り、というよりモヤモヤを抱えています。
(聞き手・朴琴順)
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。