シンポジウムに出席したのは、明治大学情報コミュニケーション学部准教授の高馬京子さんを総合司会に、テレビマンユニオンの津田環さん、NHK名古屋拠点放送局制作部ディレクターの立野真央さん、明治大学情報コミュニケーション学部准教授の田中洋美さん、朝日新聞社「かがみよかがみ」編集長の伊藤あかり。イベントには、メディアへの関心があり、これからこの業界への就職を考えている学生などが集まりました。当日は、公式Twitterで「#ジェンダーとメディア」のハッシュタグで実況レポートを行い、参加者の感想も集まりました。

「セクハラやパワハラを、呼吸するように受けてきた」

最初に登壇したのは、AbemaTV「Wの悲喜劇」プロデューサの津田さん。かがみよかがみでは、コラムを連載しています。
「セクハラやパワハラを、呼吸するように受けてきた」と振り返る津田さん。「マスコミは他人のことは報じるけど、自分たちのことを報じてこなかったと思う」といいます。
このような現状を伝えようと、自身が担当する番組「Wの悲喜劇」に自ら出演。「周囲から圧力を受けた」ため、仮面をつけ、仮名で出演したそうです。
そのような発信を続けることで、他のメディアからも注目されるようになり、「現在進行形で闘い続けています」と話しました。

「テレビ自体が性役割を再生産・強化しているのでは」

続いてのプレゼンターは、NHKの立野さん。お金や働くことなど、だれもが避けられないことを取り上げることを取り上げる番組「 不可避研究中」などのディレクターを務めています。
立野さんは「テレビ自体が性役割を再生産・強化しているのでは」という危機感を持ち、「女だから・男だから」という押しつけへの違和感を番組で取り上げました。社会問題を扱う新番組の初回が「ジェンダー」となったことに「良い変化かなと思っています」。

「32歳の編集長、新聞社では画期的なことだった」


3番目のプレゼンターは、かがみよかがみ編集長の伊藤あかり。かがみよかがみを立ち上げ、編集長になったのは32歳のとき。「40代にならないとデスクになれない新聞社では、かなり画期的なことでした」と振り返ります。
「容姿やコンプレックスに悩んだ20代の自分を救ってあげるようなサイトを作りたかった」と伊藤。「『私』がそれぞれ違和感を持ち寄り、発言しても否定されない、安心感のある場所にする。私の違和感の集合体をもって、私が生きやすくするために、社会を動かすムーブメントをつくる。このふたつがかがみよかがみのビジョンです」と意気込みを語りました。

「女性にとってデジタル空間は安全な場所ではない」

プレゼンターの最後は、社会学、ジェンダー・スタディーズを専門とする田中准教授。
男性比率が高いメディア業界の構造をデータで示したうえで、「メディアのオーディエンスは色んな意識の方が増えていますが、エンタメ系の番組は娯楽のために見ているので、視聴者が刷り込みを受けやすい傾向があります」と解説しました。
さらに、SNSが普及し、個人が発信しやすくなったことで、情動的なつながりや共感、新たな運動が起きやすくなった反面、怒りによる分断が課題になっていると指摘。女性に対する性的嫌がらせやフェミニズムへの不十分な理解など、女性にとってデジタル空間が安全な場所になっていない現状を語りました。

それぞれの講演の後は、全員でディスカッションへ。
「メディアで語られた声は、社内の上司や男性に届いているのでしょうか」「性役割の再生産になっていると思うドラマを、面白いと感じてしまう自分もいる。この気持ちにどう折り合いをつければいいか」などという参加者からの質問に答えながら、活発に意見を交わしました。

それぞれのメディアでの取り組み方をたずねられた立野さんは、「『不可避研究中』 はディレクターが顔と名前を出して動画を配信していく中で、フォロワーの方からの反響が温かく、視聴者の方が受け入れてくださることがわかったからこそ、ジェンダー問題をさらに積極的に取り上げることができたのだと思います」と話しました。伊藤も「 昔と比べて変化してきた。それは先輩方が本当に努力してくださったから。だからすごくすごく感謝しています。わたしも、次の世代のためになんとかしたい」と述べ、ジェンダーをめぐって変化しようとしているメディアの現状について語りました。

「メディアへのもやもや」をテーマにエッセイを募集中!

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11月8日締め切り。