かがみよかがみでは、「わたしと生理」をテーマにエッセイを募集しました。たくさんのご応募の中から、朝日新聞・朝日新聞デジタルで生理について取り上げてきた及川綾子記者にご講評いただきました。

及川記者からの総評

生理に関心を持ったのは不妊治療の取材がきっかけでした

1カ月に1度訪れる「にくたらしい存在」が、仕事、勉強、人付き合いに影響を与えている。そのリアルな日々や気持ちを素直に表現されている皆さんのエッセイに共感しました。生理中だけがつらいのではなく、PMS(月経前症候群)によるイライラ、だるさ、むくみは、声を大にして「つらいよー」と叫びたいですよね。

今年、「生理の貧困」をきっかけに生理というワードが以前ほどためらわずに口にできるようになったと感じています。ただ、皆さんはそのずっと前から、生理に葛藤して、悔しい思いをして、疑問を抱いていた。それでもなんとかうまく付き合おうという思いがエッセイにあふれていて、「うんうん」とうなずきながら読みました。

私が、生理に関心を持ったのは、去年、不妊治療の取材をしていた時でした。治療中の人は若い世代にも多く、当事者が体の異変に気づくきっかけとして、生理を挙げる人が多かったからです。

妊娠を望む人も、そうではない人にとっても、生理は体のサインを知る重要なものだということを多くの人に知って欲しい。女性特有の疾患を早期に発見することにもつながります。痛いし、わずらわしくもありますが、生理を通して自分の体に向き合うことの大切さを広めていきたいです。

 少し先に生まれた私から伝えたいのは「ピルをこれからもずっと使えるとは限らない」ということ

今回、生理にまつわる負担を軽減するための低用量ピルとの付き合い方をエッセイで書いている方もいました。種類が色々あるので、皆さんに合ったものと出合えるといいなと思います。でも、かがみすと世代の皆さんより、先に生まれた私から伝えたいのは、この先ずっとピルがあなたの体を支えてくれるとは限らないということです。

私も20代の頃、ピルを使っていましたが、先日医師に処方を相談したところ、40歳手前となり、「血栓症を発症するリスクが高いから勧められない」と告げられました。命にかかわる副反応が出ることもあると教えられました。年齢とともに変化する自分の体の現実を突きつけられた一言でした。でも、漢方薬という新しい味方も得ています。

これまで歩んできた生理のつらさや葛藤、これから先にある女性特有の症状や病気と向き合う道、どちらも私たちにとって今より歩きやすい道になって欲しいという願いで、これからも取材をしていきたいと思います。

◆かがみすと賞

男性に知って欲しい!「彼を傷つけたくない」と祈る生理前の気持ち

中途半端な生理に対する男性の知識や理解が、どれほど多くの女性の心を深くえぐるのか。「私が私でなくなる」、まさにこれがPMS(月経前症候群)ですね。その後に続く言葉も丁寧に気持ちを描写していて、どうやってパートナーに伝えたらいいのか、知ってもらったらいいのかという思いがじんわりと伝わってくるエッセイでした。

だからね、男性諸君。

酒の席で話のネタに「彼女が今生理前だから家に帰りたくない(笑)」なんて話しているのは構わない。

でも、同時にあなたたちの彼女はその時に「今日は彼を傷つけませんように。ちゃんと自分をコントロールできますように」って祈るように過ごしていることを知っていてほしい。

いつもだったら何ともない他人の言葉や態度に、感情を揺さぶられる。予定していた仕事のプランも思うように進まない。そのイライラを、無意識に誰かにぶつけてしまってはいないかと、不安でそわそわしてしまう。そんなことを毎月考えている人は少なくないのではないでしょうか。

いま、疑似妊婦やVRによる認知症の体験などができるようになりました。しかし、生理やPMSの体験というのは聞いたことがありません。「一度味わってみろ!」が、多くの女性の本音だと思いますが、せめて正確な知識を男女分け隔てなく同じ教室で教えることが重要だと、このエッセイを通して再認識させられました。

◆次点①

「生理が来るとテンション上がる」。友人の言葉が生理に悩む私を変えた

「私を甘やかしてあげられるのは私しかいないんだ」。この言葉に、ふっと心が軽くなりました。たとえ、周囲に理解者がいたとしても、生理のストレスや痛みは誰とも共有できません。千差万別だし、月によっても違います。風邪をひいているときに生理が来た日なんて、輪をかけた苦しみです。
 そんな時、おなかをさすりながら、1日中一人で耐えるだけなんてつらすぎる。だから、自分を甘やかしていい期間なんだと決めるという発想は即採用! 生理初日に私は、在宅ワークでごろんとベッドに横になり、休み休み仕事をすることにしました。

◆次点②

10キロ減量して止まった生理。あの時、産婦人科に行かなかったら

MOCOさんにとってお母さんと婦人科の先生が味方で本当に良かったと思いました。今回、寄せられたエッセイにもありましたし、私の取材でも、生理による心身の苦痛を、軽くするのも重くするのも母親の存在が大きいと感じています。生理による痛みは、親子でも差があるにもかかわらず、「自分は我慢しているんだから、大したことない」と、娘を苦しませる母親もいるようです。

生理が止まったことをお母さんがいち早く気づき、10代にはハードルが高いとされる婦人科で先生から優しい言葉をかけられた。

MOCOさん、学生時代おつらい経験をされましたね。それでも、エッセイを読んで、私はMOCOさんの体を守ってくれたお母さんと婦人科の先生に、心から「ありがとう」と言いたいです。

●講評を担当した及川綾子記者のプロフィール

朝日新聞文化くらし報道部記者。2004年入社。通称「文く」の生活担当として、妊娠や出産、子育て、障害者や高齢者にかかわる福祉などを取材してきました。2015年にペンシルベニア大に留学し、朝日新聞デジタル「幸せな老いを探して 米国留学で見たこと」で配信。ツイッターは@ayako_oikawa_ms