かがみよかがみは11月5日、自身で化粧品会社を立ち上げ、ロレアルに同社史上最高額の1500億ドルで売却するまでを描いた米国の女性起業家の自叙伝「Believe It」(東洋経済新報社)の読書会を、東京都の朝日新聞東京本社で開催しました。
Z世代の論客ヒオカさんと、本著の担当編集者の佐藤朋保さんをゲストに招き、自分らしく生きようとする女性の姿と社会の抵抗などについて、活発に語り合いました。
「Believe It」は、ジェイミー・カーン・リマさんという女性起業家の自叙伝です。
ジェイミーさんは、肌が赤くなる遺伝性の疾患「酒さ」を発症したことをきっかけに化粧品会社を創業。自社商品の広告宣伝で華美なスーパーモデルを使わず、太った人などさまざまな体型の人や皮膚トラブルのある人などをモデルに使い、「リアルな女性のためのリアルな化粧品」として売り出しました。
ルッキズムが支配する美容業界のなかで、業界の重鎮から抵抗を受けながらも、等身大の自分でいたい、仲間や家族と歩いていきたい、という信念を貫いてきた彼女の生き様が、ストーリータッチで描かれています。
今回の読書会のゲストであるヒオカさんは、貧困問題の当事者として声をあげ、ライターとして弱者の声を可視化する取材・執筆活動を続けています。
東洋経済新報社の佐藤さんは、20年以上にわたって経済書・経営書などの編集に携わり、これまでに「ライフ・シフト」シリーズや「ワーク・ルールズ」「シュードッグ」「サードドア」などの翻訳書を手がけています。
「Believe It」を日本でも読んでもらいたいと思った理由
「Believe It」は、成功の経験やノウハウなどが描かれているビジネス本とは違っていると、出席者は口をそろえます。
佐藤さんは出版の経緯について、米国で出版された後に翻訳者から紹介されて本の存在を知ったと説明し、「成功者の目線ではなく、失敗し、苦しんだことが書かれていて、出してみたいと思った」と話しました。
ヒオカさんは、「輝く準備はできてるか」というサブタイトルが「刺さった」と言います。「全ての女性は主役になれるし、違和感を持ったらおかしいと言う権利があるし、自分らしく輝ける素質があるというメッセージだと感じた。輝くためのハウツー本ではなく、この本は『輝く準備はできているか』と聞いてきている」
佐藤さんによると、サブタイトルに「いますぐ役立つ」というような実践的な言葉を入れる考えもあったが、「あなたに必要なものは、すべてあなたにある。これしかないと選んだ」と話しました。透明なカバーをかぶせた装丁も、本の内容に合わせてデザインしたものだそうです。
自信を持ちにくいのはなぜだろう?どうしたら自信を持てるようになる?
佐藤さんは、女性のために書かれた本と思っていた「Believe It」が、自分自身にも「刺さった」と言い、「自己不信の声をいかに抑えるか、そのヒントがある」。
伊藤編集長は「働きながら、母親探しもしている。代理母の話が自分には刺さった。世代によっても、いつ読むのかによっても、刺さり方が違う。ときどき読み直したい本」と語りました。
自分の成功、実績を認められず、「運がよかっただけ」などと卑下してしまう心理的な傾向は「インポスター症候群」と呼ばれます。ヒオカさん自身も「書いた記事が評価されても、自信が持てない」と明かします。
では、なぜ女性は自信を持つことができないのか。
ヒオカさんは「女性であるだけで、色眼鏡で見られたり、能力はあるのかと、男性以上に厳しい目で見られる。アメリカでもそういうことがある。女性の自己評価が低いのは自分のせいではなく、社会風土のせいではないか」と指摘します。
伊藤編集長は、出世した後輩が「女性代表」のようにプレッシャーを感じていたことに触れ、「なぜそんなことを思うのか。女性だからできなきゃいけないと考え、できなくて卑下してしまう。実力で出世したのであって、女性がどうとか言わなくていい」と力を込めます。
ヒオカさんも「インスタなどで、幸せそうな女はたたかれる。控え目にするべきだと。卑下することは、そのような人を再生産してしまう」と指摘します。ライターとして働くことに対して「安定した仕事を」などと批判されることがあるといい、「自己実現したらだめという風潮を再生産するので、発信することで次の人の選択肢を広げたい」と話しました。
伊藤編集長も「ロールモデルになれる人ばかりではないので、そんな人に厳しい目を向けて足を引っ張る人にならないよう、自分に気をつけている」と話しました。
業界の慣習(既成概念)を変えるために、どう抗っていく?
「こうあるべきだ」という既成概念をどう変えていけばいいのか。このテーマでは、2020年10月に東洋経済オンラインで女性初の編集長に就任した、吉川明日香さんが新たにゲストに加わりました。
吉川さんは2001年に入社した直後から、仕事への違和感を抱いてきたと言います。経済誌は、それぞれの会社がどう「成果」を上げたかが大きなテーマになりますが、人員削減で増収増益したと書くことに抵抗があったそうです。また、「20代で子どもを3人産む」と宣言。吉川さんによると、出産した女性記者は当時、編集局で初めてだったそうです。
貧困問題をテーマにしているヒオカさんは「社会からないものにされている人の痛みを可視化したい」。「弱者は清貧たれ」という押しつけもあるため、貧困の当事者として取材される際には、あえて派手な服を着ることもあるそうです。「メディアはセンセーショナルなもの、見出しとして強く、わかりやすい言葉を求めるが、それでは読者は自分事としてとらえられなくなる」と指摘しつつ、一方で注目されないと記事が読まれなくなる可能性もあり、「ジレンマはある」と明かしました。
質疑応答も活発に
最後には質疑応答の時間を設け、会場からは質問が相次ぎました。
書籍の内容に関するもののほかに、仕事とプライベートとの両立についての悩み、かがみよかがみを立ち上げた経緯などテーマは多岐にわたり、予定されていた時間を超過するほどでした。
(かがみよかがみ編集部)