私は子どもを欲しいと思ったことが一度もない。
少子化が叫ばれている中ではなかなか公言しにくいことだし、心なしか棘を含んでいるように聞こえてしまうのではないかという恐れも胸の中では抱いている。でも、これが私の本音だ。

この考えは、昔から一貫している。そして同時に少数派なのだろうと思っていた。
実際、学生時代から「結婚したら子どもが欲しい」「◯人欲しい」と、きらきらとした瞳で周囲の友人たちは夢を語っていた。大人になった彼女たちは、今次々に夢を叶えている。去年は特に出産ラッシュだった。懐かしい名前から久しぶりに届くLINEは、生まれたての赤ちゃんの写真付きであることが多かった。どの写真を見ても、自ずと顔が綻んだ。赤ちゃんは、素直に可愛いと思う。これもまた本音だ。

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でも、「子どもは欲しくない」という自分の考えが存外少数派ではなかったことを、先日とあるニュースを見て知った。
Z世代を対象に行われた、結婚・子どもに関する意識調査。今だと、10代中盤〜25歳までがこの世代に当たるらしい。「将来結婚して、子どもが欲しい」が最多の回答ではあったようだが、次いで多かったのが「将来結婚もしたくないし、子どもも欲しくない」だった。「将来結婚はしたいが、子どもは欲しくない」という回答と合わせると、子どもが欲しくないと答えた割合は全体の半数近くに上っていた。

私は調査対象から少し外れた上の世代ではあるが、子どもを欲しいと思わない若者が今こんなにも多いことに少々驚いた。
「子どもは欲しくない」の理由は、金銭面に対する不安や、子育てへの自信のなさ、そもそも子どもが苦手、自分の時間がなくなる、などが上位のようだった。

その他の理由もひと通り見てみたものの、その中に私が抱いているものとそっくり同じ理由はなかった。

やっぱり私は少数派なのだろうか。自分の考えを変えるつもりはないものの、心の片隅に一抹の寂しさがよぎったのもまた事実だった。

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私が子どもを欲しいと思わない理由。
それは、「自分のDNAを部分的にでも受け継いだ子をこの世界に生み出したくないから」。

どこが似るのかはわからない。
目元かもしれない。唇の形かもしれない。性格かもしれない。
それに母親である自分の要素だけが現れるわけではない。父親に似た部分も大いにあるだろう。どちらにどれくらい似るのか、その割合だって生まれてみないとわからない。それに両親だけに似るとも限らない。隔世遺伝という言葉だってある。

とはいえ、自分のお腹から生まれてきた子だ。多かれ少なかれ母親の成分がどこかに含まれている。それが私は耐えられないのだ。
これはおそらく、自分に対する嫌悪感に起因するものなのだと思う。

「過去と他人は変えられないが、未来と自分は変えられる」という有名な言葉がある。
おそらく私は、特に過去の自分を赦せないのだろう。
卑しくて、汚くて、未熟だった。たくさんの過ちも犯した。
もちろん、生まれてきた子が自分のように間違いだらけ、欠陥だらけとは限らない。同じ道を辿るとも思っていない。その子の人生は、その子だけのものだ。

それでも、彼、もしくは彼女の中には確かに私がいる。

私みたいな人間は、この世界に私だけで十分だ。
こんなことを書いているとなんだか哀しげに捉えられてしまうかもしれないが、今の私は特段落ち込んでいたりはしていない。
自分のことは、今もそんなに好きではない。ただ、自分は結局死ぬまで自分でしかいられない。そんな諦めにも似た覚悟がついたから、今は地に足つけて歩くことができている。

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隣には、一緒に歩いてくれるパートナーもいる。
彼も、子どもは欲しくないらしい。その理由は私が抱いているものとは違うけれど、結論が一致していることに対しては正直な所ほっとした。

それでも彼は、定期的に私に質問する。
「子どもは、本当にいいの?気持ち、変わってない?」
聞かれるたび、「変わってないよ」と答える。そこそこの頻度で聞かれるものだから、もしかしたら彼は本心では子どもが欲しいと思っているのではないかと懸念した。私に気を遣っているのではないだろうか、と。
しかし「そうじゃないよ」と笑って一蹴された。

「人の気持ちって、何かのきっかけでコロッと変化することもあるでしょ。まりちゃんは、あまり自分のことを積極的に話さないし、遠慮しちゃうタイプだから、こうやって都度確認するようにしてるの」

彼の言葉は、いつも私を救い、同時に本音もすくおうとしてくれる。

過去の自分を赦せないと書いたけれど、彼を選んだ私のことだけは盛大に抱きしめてあげたい。

私は、彼とふたりだけでのんびりと、これからも毎日を積み重ねていくつもりだ。
そして、子どもがいない代わりに、というわけではないが、まるで子どもと子どもが戯れるかのような邪気のない笑顔を、ふたりで日々の中に溢れさせていきたい。