黒の古着のバンドTシャツ、ゴツイチョーカー、ライダースジャケット、ブラックデニムのショートパンツ、レザーのウエッジヒール、合成着色料のような鮮やかな青い髪。
愛読書は「NYLON」。好きなデザイナーはジェレミー・スコット。好きなモデルはアギネス・ディーン。これが当時のわたし。
モードやロック、80年代テイストの古着に夢中になった。デザイナーズブランドを夜な夜なネットオークションで安値の商品を探す。

鎧を纏ったわたしは「内面もセンスもダサい」とバレるのが怖かった

大学にさえ行けばお洒落な子がたくさんいて、服の話ができる子に出会えるはず! と勇み足で入学した。「あれ……?人、いる?」。
いや、いる。山の中にある大学の中で、山と同じようなカラーの人ばかり。早速新入生たちがサバゲーをしているのかもれない。
あれ? 転生したのかな? 「冴えない高校生が大学デビューしたら人類滅亡後の世界に転生していた」か?
クラスに入ると、コンクリートの壁と一体化している同級生たちがいた。わたしにとってはクラスメイトなど怖くもなんともない。
だってわたし、ずっと憧れだった表参道の美容師さんに、こんな素敵な青色に染めてもらったのだもの。有名なセレクトショップで買ったお気に入りのTシャツを着ているのだもの。これは戦闘服であり、特攻服であり、鎧なのだ。

そんなわたしも、生身はただの気弱で根暗のサブカルかぶれ。自己紹介を終え、勇気持って同級生に話しかけてみた。見た目のインパクトと逆行し、気弱で根暗な性格がギャップとなり、面白がってくれた。本心は、「本当は内面もセンスもダサい」とバレるのがとても怖かった。

姉の考えたコーデを着ていて、自分の着たい服を正直に言えなかった

今までのコーディネートは、全て姉が組んだものだった。姉が選んだものを受動的に購入し、着ていただけ。わたしの体型は中肉中背。身長153cm。試着しても似合う服が限られた。
姉が「これ着てみな」と、みすぼらしい着せ替え人形のように取っ替え引っ替え試着させられる。自分の選んだ服を着ても「変だよ」と一蹴。
姉は168cmと高身長で手脚も長く、食べても太らない体型だった。服飾系の友人のショーやモデルをしていた。姉という存在は、わたしにとって揺るがない「お洒落の化身」そのものだった。

小さい頃から暇があると招集させられ、着まわしコーデ講座が開かれた。姉妹でのやり取りは楽しかったものの、姉の前では自分の着たい服を正直に言うことはできなかった。「変だよ」と一蹴されるに決まっている。
偽りのファッションリーダーをやり続ける自分に、着ている服と気持ちがちぐはぐに感じてきた。それでも、自分のキャラクターがなくなったら、一体どうなってしまうのか、不安だった。

姉スタイリスト依存から抜け出したわたしが出会った一着のスカート

姉スタイリストの依存から抜け出したい。ファッションビルから古着屋まで、自分一人ではしごするようになった。
自分の「好き」を徐々に構築していったわたしは、1着のアイテムにたどり着いた。当時流行っていたミモレ丈の真っ白なフレアスカートだ。
身長が低くても長すぎない丈感、着心地のいい素材感、なんだか、生まれ変われるような気がした。購入し、家族にバレないようにクローゼットの奥深くにこっそり仕舞った。
黒髪にサックスブルーのVネックニット、白いミモレ丈スカートを着たわたしが大学にいた。自分の「好き」を纏ってみて初めて、「お洒落と思われなければならない」という鎧から脱皮したわたしは身軽になった。

もちろん全身黒ずくめの格好をしてもいい、ミモレ丈のスカートを穿いてもいい、わたしはわたしでしかないのだ。お洒落に見られたいがために、自己顕示欲とプライドでガチガチになっていた。それが本当の「鎧」だった。ダサい、と見下していたはずの同級生たちは、全てわかっていた。
「何を着ても、さぐはさぐだもん」。白いミモレ丈のスカートのおかげで、わたしのキャンパスライフは、何色を纏おうが大丈夫になった。