“女子会”。響きは華やかなのに、実態は容赦のない愚痴や噂話が飛びまくる、おそろしい集いだ。何時間も拘束され、気付けばどっと疲れている。これほど生産性のないひと時はないだろう。
愚痴や噂話と同じくらい苦手な話題があった。そう、苦労話。気付いたのは、つい最近だ。
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昨年、子ども好きな旦那との間に、待望の第一子を授かった。ライターとして今の会社に入社し7年目。わずかながらも知識や経験を積み、扱える題材の幅が広がってきた一方で、慣れからか、満足のいく文章が書けなくなってきていた。行き詰りを感じていたところ、一度仕事から離れられるいい機会になるかもしれない。心のどこかでそう思っていた。
「子育ては本当に大変だからね」。
上司、同僚に報告すると、誰もが口をそろえた。これまで、それほど親しくなかった先輩ママたちが、私を見つけては、聞いてもいないのに育児武勇伝を語り尽くしてきた。
夜泣きで眠れなかった。
毎週のように子どもが熱を出して病院に連れていった。
自我が芽生えてきたら手がかかって仕方ない…。
時折、垣間見える誇らしげな顔に、複雑な思いを抱いた。子どもってそういうものじゃないのか。子どもが欲しいと望んだ以上、面倒を見るのが親の責任じゃないか。ふと、冷ややかな感情が芽生えた。
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育児が始まると、彼女たちの気持ちが大いに分かった。寝食を惜しんで子どもの世話に明け暮れる毎日。わが家は旦那の仕事帰りが夜遅く、平日はワンオペ状態で休む間もなかった。言わずもがな、わが子はかわいい。だけど、体力的にも精神的にも追い込まれた時期が確かにあった。あれだけ経験談を託されたはずなのに、誰からも聞かされていなかった苦労もあった。
日々に心の余裕があるわけでは決してなかった。だけど、働きたい。元々は仕事人間だった。産後3か月が過ぎたあたりから、欲求が高まった。新年度を迎えるタイミングで仕事復帰すると決めた。果たして、育児“業”の傍ら仕事を務められるのか。直前まで、不安はぬぐい切れなかった。
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結局、旦那の転勤が決まったり、娘が保育園に慣れるまで時間がかかったりと家族の事情で阻まれ、気付けば3か月が経とうとしていた。子どもがいるだけで、こうもうまくいかないものか。スタート地点に立つまでに、先行きを案じた。
育休中に発令された異動で、新たに上司となった人は、仕事ができる上に双子の男の子を育てる女性だった。かつて指導を受ける立場にあり、子どもがいると思えないくらいフルでバリバリ働き、人一倍スマートに業務をこなす姿に、ひそかに憧れていた。せっかくのチャンス、復帰前の面談を兼ねた食事会を依頼した。聞いてみたかったのだ。どのように育児と仕事を両立させていたのか。完璧に見える彼女にも、悩みはあったのか。
彼女は、多くを語らなかった。当時携わっていた仕事や労働環境について、大まかに説明するくらいで、してきたであろう苦労を明かさなかった。「今思えば、あの時心療内科に行っていたら、何らかの病気って診断されていたかも」。笑い飛ばし、くれぐれも無理はするなと念を押してきた。
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期待は大きく外れたと思いきや、最後の最後で、彼女の強さの秘訣が垣間見えた。「毎日、何かしらトラブルがあるからね。きょうは何が起こるだろうって、楽しみにしているの」。
やっぱり、彼女は格好良かった。確かに、ワーキングママは大変だ。限られた時間と体力をやりくりして家事や育児、仕事をこなす。それでもいろんな予想外の出来事が起きるし、たくさんのハプニングが発生するし、何かと一筋縄ではいかない。
だからこそ、どんな試練も苦労と思わず、面白がって向き合えばいいのだ。常に前向きな心持ちの彼女のように。なんてったって、日常を楽しくできるのは、自分しかいないから。