初めての本気の恋はいつですか、と聞かれたら、私は大学2年生のときに付き合った彼のことを思い出すだろう。それまでに恋をしてきた男の子への好きという気持ちが嘘だったとか、幻想だったというわけではないけれど、好かれていることが素直に嬉しくて、好きな気持ちを素直に表現した恋はあれが初めてだったと思う。そんな彼と付き合うに至ったデートは、最強に甘酸っぱくて、可愛くて、等身大の愛おしいデートだった。

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彼とは大学に入学してから割とすぐに仲良くなったような記憶がある。学祭の実行委員会に所属していた私たちは同じ部署にいて、始めの頃は彼には付き合っている人がいたし、それが理由というわけではなく私たちはお互いのことを恋愛の対象として見ていなかった。

ノリが合うのかウマが合うのか、一緒にいて気を遣わなくてよかったので、お互いの恋人に嫌われないちょうどいい距離感を保ちつつ、学祭関連のことも、それに伴う飲み会もアイツがいれば大丈夫か、と信頼を置いていた。どんなことがあっても彼のことを好きになることはないと思っていた大学2年の秋。学祭の真っ只中、阿吽の呼吸で物事を進められる彼との信頼関係がとても心地よかったことを覚えている。

そもそも朝5時から深夜2時まで一緒に過ごす生活が3日も続けば特別な感情が芽生えるのは必然のことだったのかもしれない。加えて私はその年に実行委員会は引退すると決めていたし、学部の違う彼と私を繋ぐものはそこしかなかったので、距離ができてしまうことへの寂しさもあったと思う。

学祭が終わったある日、ちょっとしたノリで飲みに行こう、となったことがまさか付き合うきっかけになるなんて。当時を思い出すとキュンとしてしまうようなハタチの大学生らしいくすぐったいデートだったと思う。

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お互いの心に小さな恋心が芽生えていることに、このときはどちらも気づいていなかったと思う。確か学祭の集まりのあと、ちょっとした会話で焼き鳥を食べに行くことになり、こいつと焼き鳥とか最高じゃない?と心躍るような、でも恋心で緊張するようなことはない、ライトな飯行こうぜの誘いにただ乗っただけだった。

焼き鳥屋でビールを飲みながら、どんな会話をしたかはもうほとんど覚えていないが2時間ちょっとものすごく楽しかったことだけは覚えている。注文するものもお互いが食べたいと思っていたものぴったりで、「さすが、わかってんねぇ」とお互いに言い合った。

お酒も無理して飲むことなく、食べすぎずいい具合にお腹いっぱいで、あぁこうやって気軽に飲みにいけることもこれからは少なくなるのかと思ったのがいけなかった。「まだ帰りたくなくね?」という彼の言葉に首を縦に振ったときには、お互いの気持ちに気づいていたと思う。

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そこから彼と付き合った期間は半年ちょっとだった。私が当時まだ自分の気持ちをコントロールする術を知らず、所謂メンヘラ化してしまって別れることになってしまったが、彼とのデートはどれを思い出しても楽しかったことばかり思い出される。

時間が嫌な気持ちを風化していったとかではなく、デートに行こうと計画を立てたときから帰ってきてから以降も、楽しい気持ちがずっと続くようなデートを彼とはしてきた。彼が物凄く私に対して尽くしてくれたとかではなかったので、ただ純粋に馬の合う人だったんだろうなと思う。別れた後は私の気持ちが一方的に泥沼だったが、彼との時間は5年経った今も綺麗なままだ。

もう一切連絡を取らなくなってしまったが、今頃どうしているだろうか。あの頃よりは大人になった今、あの頃のように阿吽の呼吸で会話できるだろうか。あの時は青かったよね、と笑い合えるだろうか。これを超えるようなデートを、私はまだ経験していない気がする。