高校の第志望は、憧れの先輩がいるところに決めた。交通アクセスの悪い学校だったし、中3の頃の私の学力はその高校に入れるかギリギリのギリギリだったけど、志望校を変えるという選択肢は私にはなかった。

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その先輩はひとつ年上で、私が中学2年生のときに出会った。住んでいる町が企画した体験型イベントで、たまたま隣の席だったのだ。この頃の私は酷く人見知りで、自分から誰かに話しかけるなど考えられなかった。ましてや、他校の年上の人になんて。

しかしその先輩とは不思議とペラペラ話すことができた。明るく、好きな事への情熱が強く、ちょっとお茶目なその人柄に惹かれた。この人とつながっていたい。本能的にそう思い、連絡先を交換してもらった。今までの私からすれば驚きの行動だった。この人は私にとって特別な人に違いない。そう思い、先輩の志望校を知るやいなや、私も勉強に力を入れていった。

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志望の高校に無事合格し、他の部活などには目もくれず、私は例の先輩がいる部活に入部を決めた。そこからの私はまるで恋する乙女かのようだった。先輩と一緒に登下校できないかと駅で待ってみたり、迷惑だろうかと悩みながら遊びに誘ってみたり、メッセージひとつ送るのにも何十分もかかったりしていた。先輩を妄信し追いかけまくっていた。

しばらくして一緒に出かけることも増え、先輩への気持ちも一方通行ではなくなり、仲の良い先輩後輩という関係に落ち着いてきた頃であった。先輩はあまり身体が丈夫なほうではなかったので、度々学校を休むことがある。毎回毎回「大丈夫ですか?」とメッセージを送るのも迷惑と思っていたが、やはり気になって先輩のSNSを覗いてみる。すると大抵、先輩の趣味である漫画やゲームの事で一日中呟いていた形跡がある。最初の頃は「先輩ったらもう~。ちゃんと休んでくださいよ~」くらいの気持ちでいられた。しかし、次第にモヤモヤする気持ちのほうが大きくなってきた。モヤモヤするなら見なければいいだけの話なのだが、好きで好きで追いかけていたころの癖はなかなか抜けない。モヤモヤすることを長い間繰り返した。

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先輩が休んだとある日、「どうせ学校を休んで好きなことしてるんでしょ」という思いが自然と私の頭に浮かび、そんな自分に気づいて愕然とした。無理して先輩を好きでいる必要はない。それでも、私は先輩を嫌いになりたくなかった。先輩のSNSはもう見ない。そう心に決めた。

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それからはかなり心が楽になった。相変わらず先輩は元気そうに学校を欠席するけど、それに対しても良い意味でどうでも良くなった。先輩が元気に登校すれば楽しく話をする。一緒にも出かける。それだけで充分だった。それ以上に踏み込んでいたからモヤモヤしたのだと思う。

先輩が「憧れ」であるには距離感が必要だった。きっと家族や恋人などの他の関係性でも、「心地よくやっていく距離感」というものがそれぞれあるのだと思う。「憧れ」の先で学んだ人生の教訓だった。