生来の茶髪で誤解されぬよう、真面目を貫いた私に飛んできた怒声

私は日本人だが地毛が生まれつき明るい茶色をしており、美容師からは「一般的な日本人の髪色より3段階は明るい」と判断されたこともある。髪色だけで言えば、私は日本人の中でマイノリティな存在なのだろう。
「皆と同じじゃない」そんな茶色の髪が、小学生の頃は大きなコンプレックスだった。
日本人の顔立ちに明るい茶色の髪で、不良やヤンキーの仲間と誤解されたことも一度や二度じゃない。生まれ持った髪色のせいで見知らぬ大人から素行不良の子供と疑われ、どこに行っても目に付いてしまう。
周りと同じその他大勢になりきれない自分の外見が嫌だった私は、人一倍素行に気を付けるようになり、小学生にして私はクラスメートから「真面目だよね」と評されていた。
その努力の甲斐あったことと、周囲に恵まれたおかげで私の見た目を揶揄するクラスメートや教師はいなかった。地毛の明るい生徒が校則を理由に教師から黒染めを強要された、というニュースは当時から耳にしていたが、私自身の小中学生時代といえば髪色を咎められることがなく、比較的平穏に過ごせた。
しかし校則の厳しい高校に入学したことで状況が一変した。
高校入学して1ヶ月経った頃、普段関わりが少ない男性教師が私を見た途端、怒声をぶつけたきたのだ。
「なんだその頭は!」
そのときの私は教室で自主勉強に集中しており、生徒間では怖いと評判の男性教師が生活指導の一貫で教室に入ってきたこともあまり気に留めていなかった。真面目に勉強をしていたにも関わらず怒鳴られたことに腰を抜かしそうになった。怯みつつも私は即座に反論した。
「いえ、私は地毛です」
「本当か?」と、男性教師は化粧っ気のない私の顔をまじまじと睨み付けた。
茶髪がコンプレックスで不良と誤解されないよう、小学生からずっと真面目に学校生活を送ってきた私にとって、茶髪という理由で突然怒鳴られ、何かを疑うように見つめられたのは酷く不愉快な出来事だった。
反面、「これが教師からの校則による黒髪の強要ってやつかー」と妙に冷静に捉えていた。
高校入学のタイミングで環境が変わり、年を重ねたこともあったのか、私のコンプレックスだった茶髪は成長とともにそれは愛着になり、私のアイデンティティに転換していた。
生まれ持ったアイデンティティを、私のことをよく知らない教師に叱り飛ばされるのは納得がいかない。それなら私の悪い第一印象をひっくり返すためのアドバンテージにしてやろう、と思えるくらい強くなった。
高校時代の私の武器は学業だった。自慢になるが、私は高校3年間テストでずっと1桁の順位をキープしており、クラス1位を取ったこともある。男性教師の叱責をバネに猛勉強を重ね、上位の成績をキープし続けた。
学校生活において成績優秀は大きな武器にできたのだ。
後日、友人と廊下を歩いていると、あの男性教師とすれ違った。私を引き留めるなり教師は言った。
「君、成績良かったんだな。進学を目指しているなら、儂が良い推薦文を書いておくよ」
教師は私の髪色について、あれこれ言うことはなかった。
高校を卒業後、かつての同級生は一斉にカラーリングをし始め、私より明るい髪色に変わった。私の茶髪は目立たなくなった。
しかし生まれ持った茶髪に子供の頃から向き合い続けた私は、周囲のカラーリングをした茶髪と同じでは無い。
コンプレックスをきっかけに品行方正であり続けようとし、アイデンティティを確立をした茶髪の自分に、今は大きなプライドを持っている。
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