特集:小さいウソ

私だって、かわいいケーキを選びたい。なりたい自分になるために

小さいウソ

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 二十代後半になった今思い返すと、私の優等生全盛期は中学生の頃だった。学力はクラスで一番か二番、バスケットボール部に所属して副部長を任され、さらには生徒会で副会長も務めていた。二足のわらじどころか三足のわらじである。私はどちらかと言えば責任感のある方で、しっかり者と称されることも多かった。部活のために髪も短くベリーショート。顔もどちらかと言えば中性的な顔立ちで、女子生徒から冗談で告白されたこともあった。

責任感が強く、男前に見られた私。いつも周りの期待に応えようとした

 私は毎日を忙しく過ごしていた。特に部活と生徒会の掛け持ちは時に辛い日もあった。
 生徒会が主催するメインイベントといえば文化祭である。大学のように外部の見知らぬ人間がやって来る大規模な文化祭であれば、文化祭実行委員会なるものが設立されるのだろうが、中学校の文化祭はあくまでも学内のイベントである。そのため、運営事務局は生徒会が担っていた。
 私は持ち前の責任感に突き動かされ、馬車馬のごとく奔走していた。というのも、会長は人望はあるが学年で下から数えた方が早いような学力の持ち主で、盛り上げ上手ではあれど判断力がない同級生男子。そして、もう一人いた副会長は後輩男子。今思えば失礼な話だが、いまいち仕事を任せられなかったのである。

フルーツケーキがよかった。でも、選んだのは甘さ控えめな抹茶ケーキ

 そうして文化祭に向けて奔走していた頃、先生が粋な計らいを企てた。頑張る生徒会の面々に差し入れとしてケーキを買ってきてくれたのである。
 中学生からすればケーキは高級品。記念日に親に買ってもらって食べるもの。それが学校という規則だらけの場所で、いつもは厳しい先生がこっそり買ってきてくれたのだから喜びも一入だった。
 生徒会は十人ほどいたと思う。私は相変わらず人より少しだけ多く働いて、生徒会室に戻った頃にはケーキは残り二つになっていた。
 緑が鮮やかな抹茶のケーキと苺や蜜柑が輝くフルーツケーキだった。
 私はフルーツケーキが食べたかった。ふんわり白い生クリームにかわいい紅色の苺。オレンジ色のみかんが私を誘っていた。

「こっち、ください」
 私が指したのは抹茶のケーキだった。

「ほら見てみ。私の言うた通りやろ!」
 そう言ったのは当時生徒会で会計を務めていた同級生だった。
 私はそのとき、心の底から安堵した。

 かわいいフルーツケーキではなく、渋くて甘さ控えめで大人な抹茶のケーキを選ぶ私を周りは期待している。私はそれに応えられたことに安心したのだ。
 しっかり者で男顔な私がかわいいフルーツケーキを選ぶなんて誰も望んでいない。そう思って吐いた小さなウソだった。
 本当はかわいいフルーツケーキが食べたかった。抹茶が嫌いなわけではなかったが、あのときの抹茶のケーキはいつもより苦かった。
 周りの期待に応えられたはずなのに、私の心は知らず知らずのうちに傷ついていたのである。

他人の評価に縛られないで、本当に欲しいものを自由に選びたい

 私は二十代後半になってぬいぐるみを抱いて眠っている。かわいいくまの抱き枕だ。休日には友人とカフェを巡って甘いデザートを食べる。本当はおしゃれも好きだし、たまに雑誌もチェックする。恋愛は少し苦手だけど、穏やかに愛情深く人と接したいとも思う。それに、たまには適当でいたい。自由でいたい。
 そんな私を肯定できるようになってきたのは最近のことである。ずっと周りからのイメージにがんじがらめになって、そのくせ世間一般のかくあるべき女性像に縛られて、じわじわとゆっくり苦しめられてきた。
 周りはあなたをどう思っているのだろう。そして、あなたはどんな自分でありたいのだろう。
 抹茶のケーキを選んだ人は、本当に抹茶のケーキが食べたかったのだろうか。
 好きな食べ物は何ですか。好きな本は何ですか。大切な人はどんな人ですか。幸せに思えるのはどんなときですか。着たい服はどんな服ですか。夢は、結婚は、子どもは、色は、性格は。

 他人なんて関係ない。私は、あなたは、どうありたいのですか。
 私は十年という時をかけて、やっとフルーツケーキを手にしようとしている。
 フルーツケーキは、きっと甘い。

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