kemioはなぜ「江戸ちっく」の文章を書く?「活字離れにタイマンはりたかった」
初のエッセイ『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』(KADOKAWA)で注目を集めるYouTuberのkemioさん。著書の中では「文章を書くって江戸ちっく。でもとってもステキなこと」と表現しているように、「かがみよかがみ」の裏テーマ(?)である「文章表現を通じて自己肯定感を上げる」をまさに実践しています。kemioさんが、なぜ文章を書くのか。伊藤あかり編集長が聞きました。
初のエッセイ『ウチら棺桶まで永遠のランウェイ』(KADOKAWA)で注目を集めるYouTuberのkemioさん。著書の中では「文章を書くって江戸ちっく。でもとってもステキなこと」と表現しているように、「かがみよかがみ」の裏テーマ(?)である「文章表現を通じて自己肯定感を上げる」をまさに実践しています。kemioさんが、なぜ文章を書くのか。伊藤あかり編集長が聞きました。
伊藤あかり編集長(以下、伊藤): kemioさんの「ウチら棺桶まで永遠のランウェイ」は、2019年に読んだ本で一番衝撃受けました。なんだ、この言葉の強さって。「オコで中指コースになっても振り返りからのあっかんべーくらいのかわいさ維持したい」っていうのが最高でした。私は文章を書く仕事、11年やってますけど、こんな言葉の生み出し方できないなって。そもそも、なんでYouTuberという動画が主戦場のkemioさんが、本を書かれたんですか?
kemioさん(以下、kemio): どのタイミングかはわからないですけど、ずっと本を出したいと思っていました。僕たちの世代は、活字離れって言われてますけど、だから、活字とタイマン張りたいなって思ったんです。
今って、一つ一つが消費されるスピードが速いじゃないですか。それに、ネットにあるものは(配信している)会社が倒産したら読めなくなっちゃう。なので、ずっと残るものに憧れていたんです。
伊藤: 動画と文章、アウトプットの仕方が違うことで、なにか意識したことはありましたか。
kemio: 勉強になったのは、聞くのと読むのとでは相手に伝わり方が全然違うということですね。例えば、極端ですけど「死ね」という言葉も、動画なら「もう、死ねよ~↑↑↑」と(語尾をあげる)言い方にするだけで全然ちがう。さらに、表情やBGMを変えると、伝わり方はAからZまであると思うんですよ。でも、活字になると「死ね」はパターンAしかない。
だから(文字だけの)ネットメディアのコメントって荒れるんだと思います。もう少し、表情やニュアンスが伝わるように、音声つけたら悪意のあるコメントは一つ減ると思います。
伊藤: 確かに(笑)。文章を書いてみて、ご自身のなかに変化はありましたか。
kemio: 書いていると、僕って昔のことをよく覚えているんだなって気づきました。ただ頭の中で思っているのと、文字にして書き出すのとでは、脳にかかる重圧が全然違う。脳にタトゥーを彫るような感じ。そんな感じないですか?(新聞は)文字界の大先輩。そういう意味で記者は、彫り師ですよね。
伊藤: 彫り師……ユニークな言葉ですね。kemioさんは用意しているんじゃなくて、まじでナチュラルにポンポンkemio語が出てくるんですね。
確かに、エッセイを書いてくれた子から、自分の内面を掘りおこすことができた、自分の考えを整理することができた、という声はたくさん聞きました。書くことは自分を掘って、彫っていく感じなんですかね。
kemioさんはYouTubeの中で「つらいことはノートに書いておいて、後から読み返したら大したことなかったなって思う」とおっしゃってました。まだその習慣は続けていますか。
kemio: 一年坊主で書いていません(笑)。今はアメリカに住んでいて、マリオカートでいう(無敵の)「スター」状態。テッテッテテレッテーみたいな。周りに比べて、自分だけ速度が上がっているような感じなんですよね。たまに攻撃されるけど、あまりくらわない。だから、昔に比べて、ノートに書くほどつらいことがないのかもしれません。
伊藤: スター状態……。その表現もまた良いですね。私なんか手垢のついた慣用句とかに、自分の感情を寄せていってしまいます。kemioさんの場合は、自分の感情にぴったりの言葉と言葉を合体させて、新しい言葉を作っている、という感じですよね。
どんな本読めばそうなるんですか。もし、そうなれるなら、擦りきれるまでその本を読みますよ。ほら、また手垢のついた表現を使ってしまったよ(笑)。
kemio: 最後に読んだ本は(人気児童書シリーズの)「かいけつゾロリ」っていうくらい、本を読まないんです。語彙力が全然ないので、自分の知ってる言葉を(脳内の)工場の中でつなぎ合わせて、発射しているだけです。
伊藤: 彫り師としての才能に嫉妬します。
kemio: 物語は書けないんですよ。僕が書いたら、「こういう人がいました」「生きていました」「死にました」「はい、おしまい!」ってなっちゃいそう。でも、また自分のことを書きたいなと思います。価値観も変わっていると思いますし。
伊藤: 価値観が変わったというのはどういうところで感じますか?
kemio: 3年前と今でもだいぶ変わりましたね。僕ができないことができる人への尊敬が増しました。僕は英語の勉強をしていますけど、アメリカで長年生活している人に比べたら、できないことも多い。それで「お前できないの、雑魚な」というのにも違和感があって、できる人にはリスペクト、できない人には手助けをしたいなって思うようになりました。
伊藤: ハッピーじゃない経験から学んでいくこともある、と。
kemio: こういう経験で変わっていけるのかなって。本当は経験しなくても学べたらいいんですけど。それを押しつけじゃなくて、シェアしていけたらいいなと思います。
伊藤: 早く読みたいです。記者になりますか?(笑)
kemio: 彫り師のご依頼は前向きに社に持ち帰って検討します(笑)。
1995年、東京生まれ。クリエーターとして、YouTubeやTwitter、Instagramで独自の世界観を発信し続ける。2016年、米ロサンゼルスに生活拠点を移す。モデル・歌手としても活動。今年、初のエッセイ「ウチら棺桶まで永遠のランウェイ」が出版され、発売3ヶ月で15万部のベストセラーとなり世代を超えて話題となっている。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。