私の地声は、女性にしては結構低い方だ。小学生の頃から周囲の友達に「声低いね」と言われていた。中でもクラスで一番仲の良かった女友達には、いじりと称して私が何かを口に出す度に「声低っ」「男じゃん」と言われていた。
しかし、小学生の私は自分の声が低いことを気にしておらず、「私こんなに低い声が出るんだよ」とむしろ自分の持ちネタにしていたのだ。

中高生になっても周囲から私の声の低さを指摘されることは幾度もあった。私の声の低さをいじるのは基本的に仲の良い友人であったが、みんな口に出さないだけで同じことを思っていたのかもしれない。

女性らしさを求められるうちに、声の低さがコンプレックスになった

自分の声の低さをそれほど気にせずに自虐ネタに出来ていたのは、中学生までであった。

私が高校生になったとき、好きな異性ができた。今まで自分の声は周りから「声が低くて男みたいだ」「声が汚い」と茶化され、つまるところ女性らしくない声であると言われ続けていたのだ。
周りから「女性らしくない」と言われ続けた声の持ち主なんか、彼は相手にしてくれるのだろうか。今まで自分の声に対して浴びせられた言葉たちが、走馬灯のように蘇った。

私はこの時期から自分の声が大きなコンプレックスとなった。高校生の時に接客のアルバイトを始めたが、研修では「女子が声低いと怒ってるように聞こえる。もっと高い声で」と何度も声のトーンをやり直しさせられた。バイト中は求められている「女性らしい高い声」で接客するために、裏声で喋べり続けなければならないことに苦労した。大学生となり、声を使わなければならない職種のアルバイトはできる限り避けた。そして私は人と話す時、普段からワントーンあげて発声するように意識するようになった。しかし、ずっとワントーンを上げ続けることは疲れてしまう。特別仲の良い気を許した相手には地声で話していた。

「声低いとかわいくないね」。恋人の一言で、私は地声を封印した

そんなある時、当時付き合い始めたばかりの恋人の前で私は地声で会話をした時「あれ?声低いね。声低いとなんか可愛くない」と笑われた。

私は大嫌いな地声を封印した。

そのうち、意識せずともワントーンあげて喋ることが日常となり、自分で自身の地声を忘れてしまった。

私の声、案外悪くない?いつか素の声で話せるようになりたい

自分の声への意識が変わったのは、3年前のことである。音楽が好きだった私は、ボーカルスクールに通い始めた。歌の練習を続けるうちに音域が広がり、高音を出すことがある程度容易になった。子供の頃から「可愛くない声」と茶化され続けて大のコンプレックスであった声だが、音楽を始めてから自分の声質がそれほど悪くないことを知った。むしろ好きかもしれない。

もちろん、どんなに音域が広がろうとも、地声が低いことには変わりない。今でも人と話す時は無意識にトーンを若干上げてしまいがちだが、自分のコンプレックスである声が、少しでも好きになれたことは嬉しく感じる。

いつか完全な素の声のまま話せるようになりたいと思ってる。