「太った?」「毛深いね」 人の外見に言及するのは恥ずかしいこと
たくさんの想いの詰まった、かがみよかがみのエッセイ。「あの人」は、このエッセイをどんな風に読むのだろう。「あの人が読んだら」では、各分野で活躍されている方にエッセイを読んでいただき、その感想を綴ってもらいます。 記念すべき初回は、2008年に朝日新聞社へ入社し、摂食障害やダイエットをめぐる問題を幅広く取材してきた、水野梓さんです。
たくさんの想いの詰まった、かがみよかがみのエッセイ。「あの人」は、このエッセイをどんな風に読むのだろう。「あの人が読んだら」では、各分野で活躍されている方にエッセイを読んでいただき、その感想を綴ってもらいます。 記念すべき初回は、2008年に朝日新聞社へ入社し、摂食障害やダイエットをめぐる問題を幅広く取材してきた、水野梓さんです。
【今回読んだエッセイ】
天然パーマという髪型は、私の中で最大のコンプレックスだった。〈中略〉 数ヶ月毎に美容院に通い縮毛矯正をかけ続けるのも、ヘアアレンジしてオシャレするのも、ストレートヘアの自分の写真をSNSにアップするのも、「私のため」ではなく「私を笑った全ての人を見返すため」だと、ふと気づいた。そうやって、必死に呪いを消そうとしていたのかもしれない。
天然パーマの髪を縮毛矯正した 私を笑ったすべての人を見返すために
「やせたね~!」「ちょっと太った?」。気軽に相手の外見に言及するシーンがめっきり苦手になった。悪意はないのかもしれない、その一言が、どんなに簡単に相手へ「呪い」をかけるか知っているからだ。かがみよかがみに届くエッセイにも、この「呪い」に苦しむ思いが吐露されていて、読んでいるわたしまでしんどくなる。
天然パーマの髪の毛をからかわれた経験を振り返ったエッセイ、「天然パーマの髪を縮毛矯正した 私を笑ったすべての人を見返すために」にも、その「呪い」がちりばめられている。
本当に自分自身がストレートヘアにしたいのか? からかってきた周りを見返すためにしたいのか?
呪いにとらわれると、自分のやりたいことや心地よいことが、いつの間にか見えなくなる。
わたしも長らく、自分の身体を他人の評価の上にゆだねていた。
やせなきゃいけない、ムダ毛はきちんと処理しないといけない、サラサラストレートヘアが「正しい」髪形……。
顔に何かを塗るのが苦手で化粧したくないのに、わざわざ自分から「肌が弱いからしてない」と〝言い訳〟してきた。
小さい頃から、たくさんの「外見への一言」に心を削られてきたからだ。
体育の時間に「お前、毛深いな」と言われて「毛があるのは恥ずかしいことなんだ」と顔が真っ赤になる。「就活メイク講座」のお知らせが届き、「面接はスカートの方がいいんだよ」と言われる。取材先から「上半身はやせてるんだから、ずっと座って取材したらいいのにな」とからかわれて、笑顔が凍りつく。
わたしが「やせ」のプレッシャーからだんだんと自由になったきっかけは、摂食障害をテーマに取材していて、人類学者の磯野真穂さんに出会ったことだ。
「やせなきゃ、といつも思っているのがつらい」と伝えると、「小さな頃もそう思っていた?」「誰かに言われてからそう思うようになったんじゃない?」と尋ねられた。
子ども時代を振り返ると、おいしくご飯を食べて、外で思いっきり遊んで、自分の体型を誰かと比べて悩んだことなんてなかった。いつの間にか社会に「太っていることはダメなこと」と思わされていたのかも。目からぽろぽろとウロコが落ちた。
でも、ようやく、社会も変わりつつあることを肌で感じている。「呪い」に対して声を上げる女性たちが増えてきたからだ。
美容ライターの長田杏奈さんが責任編集している「エトセトラVOL.3 特集:私の 私による 私のための身体」(エトセトラブックス)には「私の身体を私の手に取り戻そう」というエールを端々から感じた。
この本には長田さんたちが2020年1~2月に実施した「身体」にまつわるアンケートの回答(1334件、うち9割以上は性自認が女性)が収録されていて、多くの人が、他者からかけられた心ない言葉を打ち明けていた。
「自分の身体が自分のものでなくなったような気がしたことはありますか?」という質問には、約半数が「ある」と答えている。
それはどんな時かといえば、「痩せたらと言われて初めて自分が太りすぎていると感じ、ダイエットからの過食衝動が起きた」「女性の身体がエロネタ扱いされているとき」「見た目でイジメを受けた」などだ。
「身体について何か言われて傷ついたことはありますか?」という質問には、「デブ」「ブス」「痩せたら美人だよ!」「毛が濃い」「歯の矯正しないの?」「目が細い」など、思わず「ほっといてくれ!」と叫びたくなるような言葉の回答が並ぶ。
これまで摂食障害の当事者にインタビューしてきて、友人や親戚の何げない一言がきっかけで食事を制限するようになり、「ふつう」に食べられなくなってしまった経緯をたくさん聞いた。
言われた方はずっと覚えている「呪い」の言葉にみんな苦しめられてきたんだなぁと胸がぎゅっとなる。もう、こんなことは終わりにしよう。
このエトセトラVOL.3には、服や下着のサイズ展開を広げてほしいと訴える「#マイサイズをフレンドリーに」の活動をしているプラスサイズモデルの吉野なおさん、小さいサイズ向けの下着ブランドfeastを立ち上げたハヤカワ五味さんの対談も収録されていた。その中の吉野さんの、
〝今は自分の身体が好きだから、体型についてどうこう言ってくる人には、「これは私の体で、あなたの体ではないから心配しないで大丈夫ですよ!」って答えてます〟
という言葉に全力でうなずく。
わたしも今なら、
「毛深いね」「あなたに見せてないよ(冷たい目)」
「太った?」「他の人に言うのやめた方がいいよ……(あきれ顔)」
「え~やせた~?」「わたしの体をジャッジしなくていいよ(きっぱり)」
こんな風に返せるはずだ。もっと早く気づきたかったな。
数ヶ月毎に美容院に通い縮毛矯正をかけ続けるのも、ヘアアレンジしてオシャレするのも、ストレートヘアの自分の写真をSNSにアップするのも、「私のため」ではなく「私を笑った全ての人を見返すため」だと、ふと気づいた。そうやって、必死に呪いを消そうとしていたのかもしれない。
きっとこのエッセイを書いた晩夏さんも、呪いに気づいて前を向いたのかな、って感じた。
そうだよ、みんな、他人の評価や社会の「こうあるべき」に自分の身体をさらさなくていいよ。
今すぐ全てを無視するのは難しいかもしれないけれど、気持ちいいこと、好きなこと、自分の心の声を大事にしていこう。
同じような経験をする子がいなくなるように、わたしは「人の外見に言及するのはすっごく恥ずかしいこと」という文化を広めていきたい。
2008年に朝日新聞に入社、大分・新潟・大阪・科学医療部で記者・編集者を経験。旅が好き。気の置けない人と食べるおいしいもの、カープ・大相撲観戦、マンガ・読書・映画鑑賞も好き。医療や摂食障害、原発問題・選択的夫婦別姓に興味があります。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
恋愛やキャリアなど個人的な経験と、Metooやジェンダーなどの社会的関心が混ざり合ったエッセイやコラム、インタビューを配信しています。