半袖を着れる季節は最高。
でも、とても苦痛だった。
わたしは元々、肌がやや黒い。
真っ黒といわけでもないと思うのだけれど、日焼け止めを塗る習慣がなかったからか、その黒さは増していった。
開放感のある半袖を純粋に楽しめていた中学生のわたし
田舎町の小学校に通っていたわたし。
その時は、誰も日に焼ける事など気にも留めなかったのに、中学生になった途端に同級生の女子たちは日焼け止めを塗るようになった。
特に運動部の子達は、日焼け止めのブランドにもとてもこだわっていた。
よく教室で「〇〇のメーカーがいいよ」「これ、おすすめ!」など話していたのを、よく覚えている。
当のわたしは、吹奏楽部に所属していたため、あまり屋外での活動はなかったので、日焼け止めとは無縁であった。
また、自分に対しての関心が少々まわりの女子より遅れていたため、余計に日焼け止めとは無縁だった。
だから、夏の制服と半袖の体操服に袖を通すことに、わたしはただの解放感しか感じていなかった。
可愛いクラスメイトから悪目立ちしないようにと、日焼け止めを使った
それが、高校生になるとどうだろう。
進学した高校には、比較的美男美女が集まっていた。
入学するまで知らなかったが、美男美女の子が集まる進学校だったことを知る。
「なんて場違いなところを受験してしまったのだろう」とやや後悔した。
幸い、部活動に入部して気の置ける友人は幾人かできたが、クラス内ではあまり親しい友人はできなかった。
わたしのクラスは、可愛らしい子や美人な子が多く、一緒にいると気後れしてしまい、なんともいえない重たい空気を、毎日感じていた。
それを助長させたのが、私の肌の黒さだった。
学校全体で見ても色白の子が多く、運動部の子たちでさえ、肌が白かった。
わたしは、クラスの子たちから悪目立ちしないよう、ここで初めて日焼け止めを使うようになった。
しかし、今さら日焼け止めを塗り始めたところで急激に肌が白くなることはない。
限りあるお小遣いと睨めっこをしながら、わたしは雑誌をくまなく調べて薬局へと通った。本当なら、クラスの子や友人たちに相談したかった。
けれど「そんな当たり前のことも知らないの?」と思われることが怖くて、それが出来なかった。
今でこそ、スマートフォンのアプリなどにコスメを特集するものがあったりするが、わたしが学生だった当時にはない。
頼れるのは本屋さんにあるファッション雑誌やコスメ雑誌、それか学校でクラスの子が化粧直しをする瞬間にそのブランドを盗み見るしか出来なかった。
そんな自分が気持ち悪くて、惨めだった。
コンプレックス隠すため、長袖で自分にフィルターをかけていた
わたしは、小学生、中学生だった頃の自分を呪った。
また、肌の色が暗いわたしを産んだ、母のことも。
肌の色がコンプレックスで仕方なかったわたしは、高校では一度も制服の半袖シャツを着なかった。
袖を少しだけ捲ることで、猛暑の日でも凌いでみせた。
体育の授業は、焼きたくない一心で半袖シャツを着て日焼け止めをくまなく塗り、そしてジャージを羽織って参加した。
一度だけ、熱中症で倒れたことがった。
その時、体育の先生に「バカか、暑いのにそんなもん着ているからだ」とお咎めを食らった。
以来、その体育の先生は嫌いになった。
そこまでした高校生活が終わり、高校を卒業し専門学校に進学するも、やはりわたしは基本的に季節関係なく長袖で過ごした。
半袖を着なくてはいけないときは、必ず何かしら羽織っていた。
ちょっぴり黒い肌の色、それも「わたしらしい」
今のわたしは、半袖を着ている。
心地よい、でも動けば汗も滲む夏の湿度と気温。
そんな中で、わたしは半袖のシャツやワンピースを着て生活している。
学生の頃、外出する時に抱いていた「何か羽織らなければ」という執着はなくなり、今では日焼け止めだけで外に出れるようになった。
勿論、日差しの強い時や冷え込む時は羽織を持って出かけるけど。
わたしの肌は、今でもまだ黒っぽい。
けれど、それすら愛しいと思う。
「なんだか、それがわたしらしい」からだ。
きっと、もう大丈夫。
わたしはわたしを一番に想って、生きていける……そんな気がした。