「小さい」
身長148cmと、日本の成人女性の平均身長を10cmほど下回っている私にとって、それは最もふさわしい形容詞だった。幼少期から周りの同級生と比べて一回り身長が低かった私は、何かと苦労が多かった気がする。
可愛がってもらえることもあったが、からかわれることのほうが圧倒的に多かった。特に思春期の頃は相当悩んだと思う。流行りのファッションに挑戦できない。年相応に見られない。友達と歩く商店街で、ショウウィンドウに映る頭一つ分小さい自分が嫌いだった。どうして私だけ、と周りと比べては日々落ち込んでいた。
「女の子なら、身長が低くても可愛くていいじゃない」なんて言われたこともあるけれど、実際身長が低いからと言って特段男性にモテるわけでもない。この身長は私にとってはコンプレックス以外の何物でもなかった。

夢中になったドラムとの出会い。コンプレックスは武器に変わった。

そんな長年のコンプレックスが「個性」に変わるきっかけが訪れた。ドラムとの出会いだ。
私が初めてドラムに触れたのは、高校1年生の夏。当時好きだった芸能人に感化されて何となく始めたドラムだったが、気づけば夢中になり、毎日のように練習に明け暮れた。1年後には友人を誘ってバンドを組み、ささやかながらライブハウスでの演奏活動をするようになっていた。

自分では気づかなかったが、聴衆曰く私の演奏は「小柄な女性が叩いているとは思えないほどの迫力」らしい。演奏を終えた後は決まって「こんなちっちゃい身体でドラム叩けるんだね」「小柄な体形でよくあんな大きな音出せるね」といろいろな方にお褒めの言葉をいただいていた。
褒められるのはとても嬉しい。けれど、身長に触れられるとやはり心にひっかかる。悪気がないとわかっている。でも、私が褒めてもらえたのは、きっと身長というハンデがあるからだなのだ。周囲と対等ではないのだ。そう考えると、何だか自分がいわくつき物件のように思えた。惨めで仕方なかった。

しかしそんなセリフもだんだん言われ慣れてきた頃、ふと考えるようになった。小柄な体形にダイナミックなドラムサウンド。それはもしかしたら、「ギャップ」という大きな武器なのかもしれないと。
初対面の人に「ドラムをやっています」と言うと、決まって驚かれる。理由はもちろんこの見た目だろう。でも、ライブハウスの外に出れば小さな女性。ステージに上がればそれを微塵も感じさせない演奏。客観的に見れば、人をあっと驚かせる素敵な個性ではないか。最初こそ悲観していた私であったが、次第にそれを個性として前向きにとらえられるようになった。こんな風に人に驚かれることに、いつの間にか快感を覚えるようになった。こうして私が長年感じていたコンプレックスは、自分にとって大切な個性となり、自分にしか持てない武器となっていった。

どんなコンプレックスだって、個性に変えられる

自分の最大のコンプレックスであった身長を武器に変えた経験から、不思議と身長に限らず自分か抱えているコンプレックスのすべてを個性として認めてあげてもいいのではないかと思えるようになった。
コンプレックスは運よく武器に変わるかもしれないし、一生コンプレックスのままかもしれない。実際、鼻がもう少し高かったら、顔がもう少し小さかったら、と私には身長以外にもコンプレックスは山のようにある。例えばこのペッタンコの鼻が私の武器に替わる予定は今のところない。

でも武器になろうとなるまいと、コンプレックスとは一生付き合っていくことに変わりはない。武器に変わればラッキー。変わらなければ、それも立派な個性。ショウウィンドウに映る自分は相変わらず小さいけれど、もう悲観しない。鼻は相変わらずペッタンコだけれど、顔は真ん丸だけれど、それはそれでいいやと思う。どう生きようが自分は自分にしかなれないのなら、どんな自分も個性として認めて生きていこう。そう思った。